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なぜ『スプリット』は史上初のヴィラン単独映画だったのか?アメコミ的な映像構成とキャラ性を考える

スプリット
(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

M・ナイト・シャマラン渾身のスリラー映画『スプリット』は、日本では2017年5月12日より公開されました。

【注意】

この記事には、『スプリット』に関するネタバレ内容が含まれています。

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この映画、実は2000年に制作された映画『アンブレイカブル』の正統続編となっています。およそ17年後という長きに渡る沈黙の後に作られた映画『スプリット』。しかし、この映画は『アンブレイカブル』の続編以上に大きな意味を持っていました。それはこの映画が史上初のアメコミヴィランの単独映画だったということです。

何故、『スプリット』はアメコミヴィラン映画なのか

もちろん『アンブレイカブル』、『スプリット』はいずれも原作となるべきコミックはありません。しかし、これは紛れもないアメコミ映画、もといシャマランが映画という媒体で作ったアメコミとなっています。この映画は基本的にアメコミと同じ画面構成や演出を用いられて作られています。そう『スプリット』はまさに映画でアメコミを再現した映画なのです!

スプリット
(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

映像構成がアメコミをオマージュ

まず第一が左から始まること。主人公と言うべき23+1の人格を持つケヴィン/The Horde(群れ)は人格が変わる時に必ず画面の左に消え、左から別の人格がフェードインするようになっています。これはアメコミが左から右に進むのを踏襲しており、その他のシーンでも左から右に視線が誘導されるように画面が構成されています。これによって『アンブレイカブル』と同じく、『スプリット』もアメコミ世界の法則に成り立つ世界だと観る側に察してもらいやすい作りになっています。これにより、視聴者は世界観への没入がしやすくなり、この物語がアメコミヒーローモノの法則に則っているとわかりやすくなっています。

9コマ割りの緊迫感と閉塞感を映画で再現

第二に、この映画を観た方なら多くは気づいたことと思われるのですが、『スプリット』は固定されたカメラで長回しするのを多用しています。これはアメコミ特有の技術とされる9コマ割りを再現したものです。この9コマ割り、アメコミを読みはじめの頃は画面が窮屈になるし、スピード感が無くなるしで、悪習と見てしまう方も多いです。しかし、『スプリット』での強い閉塞感を覚える空気とハラハラする臨場感には、この9コマ割りのテクニックが大きな貢献をしています。

9コマ割りはコマ毎に大きな場面転換をすることはあまりありません。ある程度は決まった画面の中で登場人物が動き、事態を打開しようとします。そこには常に閉じられた感触が纏わりつくのです。

このコマ割の演出効果は『スプリット』でこれ以上なく効果的に応用されていました。画面を固定した上で登場人物を動かすことで監禁された建物から逃れられないことを強調。それに加えて建物の外に広がる社会でも同じ構成をすることで、ヴィランThe Hordeが解き放たれていくのを予感できるようになっているのです。アメコミの絵、演出を再現するのはあまり珍しくありませんが、コマ割り技法すら映画に落とし込んだのには感服せざるを得ません。

余談ですが、この9コマ割りの効果に着目した名作ですと近年ではトム・キングの『OMEGA MEN』が挙げられます。その作品では、宇宙有数の強い意志を持ったヒーロー、グリーンランタンのカイル・レイナーが革命テロリストに囚われたところから始まります。ヒーローとは正反対のテロ集団と触れ合うことで徐々に彼らに飲み込まれていく様子が描かれ。広い宇宙が舞台であるはずなのに、9コマ割りによって逃れられない牢獄のような緊張感と内面から侵食される不安定さを齎していました。

ヴィランThe Hordeの強烈なキャラクター性

『スプリット』の主役ケヴィン/The Hordeはブルース・ウィリスが演じたダンと酷似した強靭な肉体と腕力を持っていました。彼は、更生の可能性を垣間見せつつも、最後にはヴィランとしての独特な価値観に依る独善性を示した上で最後にはヴィランとして暴れまわる未来を語ります。

アメコミはヒーローが主役のものばかりというイメージがあると思われますがヴィランが主役のコミックも大勢あり、その中でヴィランは情緒豊かに動き、読者を魅了するようもの。The Hordeの魅力は一重に多くの人格を持ち、性格も能力も違う人格が常人には理解しがたい信仰で纏まっているということにありました。ナイフも弾丸も通さない人格のビーストも知能の高い人格も一つの肉体に収まっているからこその対応の難しさが描かれ、普通の人々には到底敵わない怪物であると明示されました。

『アンブレイカブル』から続いている流れとして、この世界にはアメコミヒーローモノの法則が多く成り立っています。ヒーローは己の力に目覚め、それをどう使うかに悩み。その力を狙うヴィランは宿敵(アークヴィラン)として深い因縁にあります。

今回の物語はヴィランのオリジンを描いたもの。それを証明する事実の一つとして、この映画にはシャマラン映画にはつきものの、”ラストのどんでん返し”が存在しないことが挙げられます。この映画はあくまで世界、物語の中心にいない者の物語であるということです。そしてそのヴィランと相対する女子高生達の一人、ケイシー(演:アニャ・テイラー=ジョイ)がヒーローとなるのかと思いきや、最後に出てくるダンによって、この作品がヒーローが戦うべきヴィランに纏わるものだったとわかるようになっていました。

決して死なない肉体を人助けに用いようとするヒーローのデイヴィッド・ダン(演:ブルース・ウィリス)、誰よりも脆い体に高い知能を備えたミスター・ガラス(演:サミュエル・L・ジャクソン)。そして今作で新たに加わったヴィラン、The Horde(演:ジェームズ・マカヴォイ)。彼らが一堂に会する『Mr.GLASS(仮題)』が今から待ちきれません。

Writer

小村健人村上 幸

DCコミックスと非ヒーローコミックスをメインに読んでいます。ユーロコミックスを原語で読むのが現状の目標です。好きなヒーローチーム:ジャスティス・リーグ・インターナショナル好きなヒーロー:たくさんのDCヒーロー(特にキース・ギッフェンがライターを担当した時のヒーローかヴィラン) salarmko@outlook.jpお仕事の依頼はこちらへ。

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