【インタビュー】「ストレンジャー・シングス」スティーブ役ジョー・キーリー、新境地のサイコスリラー『スプリー』 ─ 「この映画は風刺そのもの」

人気ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016-)のスティーブ役で一躍名を知られるようになった俳優ジョー・キーリーの映画初主演作『スプリー』が、2021年4月23日より公開となった。「ストレンジャー・シングス」で“イジメっ子”から“良いヤツ”に改心したスティーブをコミカルに演じたキーリーが『スプリー』で挑んだ役は、SNSでバズってインフルエンサーになるべく、ライドシェアサービスのドライバーを始めてみた20代の青年カート。化けの皮を剥がしていくサイコパスなキーリーの憑依ぶりは、『アメリカンサイコ』(2000)でのクリスチャン・ベールを彷彿とさせる。
THE RIVERは、キーリーに単独インタビューを実施。キーリーは、自宅からZoomを通じて取材に応じてくれた。ビデオ通話が繋がり目の前に現れたキーリーに対して抱いたのは、誰に対しても気兼ねなく接してくれるクラスの人気者的な印象。キーリー自身は『スター・ウォーズ』の黒シャツを着こなし、毛量のすごい(ことで有名な)前髪にサングラスを軽く乗せたラフな出で立ちで、インタビューに答えてくれた。

インタビューでは、初主演を飾った心境や役づくり、撮影時のエピソードに加えて、役者としての今後の展望も訊いてみた。ドラマのみならず、ハリウッド映画にも出演を重ね、役者として頭角を現しつつあるキーリーのアツい言葉をぜひご堪能いただきたい。
一番大変だったのは「ダークな面に向かうこと」、新たな挑戦
── こんにちは!お元気ですか?
こんにちは!バリバリ元気ですよ。実は、作品(「ストレンジャー・シングス」シーズン4)の撮影にちょうど戻るところなんです。早く観てもらいたいです。
── 日本にいるファンの全員が「ストレンジャー・シングス」のシーズン4を心待ちにしていますよ。
僕もワクワクしてます。ガッカリさせはしないと思います。
── 楽しみにしていますね。さっそく『スプリー』について色々とお聞きしていきます。『スプリー』での演技には圧倒されっぱなしでした。本作はあなたにとって初の主演作ですが、参加するにあたって何か特別な意気込みなどはありましたか?
間違いなくありました。実際はすごく緊張していたんです。あなたのおっしゃる通り主演は初めてで、全てを背負っているわけですから。ただ、監督のユージーン(・コトリャレンコ)のことは信頼していました。彼はとても賢くて、映画を通して伝えたかったメッセージもはっきりと持っていました。映画自体はすごく奇抜なんですけど、僕はすっごく気に入りました。他とは違うことが良かったんです。こんな感じの映画はあるけど、こんなトーンの作品はどこにも無いかなって。いろんな意味でおかしくて恐くて、幅広いジャンルに当てはまる作品ですね。この映画に対する観客の反応は未知数でしたけど、個人的にユージーン監督の大ファンで脚本も好きだったので、リアルな可能性を感じました。

── 本作を「奇抜」と表現していましたが、あなたはハイテクなサイコパス人間を演じていますよね。奇人になりきるのはすごく大変だったと思うのですが、役づくりのプロセスで一番大変だったことは何でしょう?
変わりダネなキャラクターに挑戦するのは、すごく楽しかったです。「ストレンジャー・シングス」で僕が演じているキャラクターとは全く違ったんで。ほんとに別物でした。怖くもあり大変でした。頭の中では考えているけど、キャラクターを引き出しきれないんじゃないかって考えたりもして。でも挑戦すること自体は楽しいことだから、毎日必死になって早く現場入りして、一日の中で自分のベストを出し切る。そしたらあとはユージーン監督にある程度身を委ねて、彼の腕を信じるみたいな感じで作品に挑んでました。
一番大変だったのは、(キャラクターを)正当化することでしょうか。もちろん彼(カート)の行いは許されないことですし、彼はサイコパスでクレイジーで、間違っています。けどキャラクターになりきるためには、どの俳優も口を揃えて、どんな悪役だって自分の行いを悪いことだと思っていないと言うはずだから、彼がやっていること全てを正当化しなければいけなくて。軽蔑すべき人間が軽蔑すべきことをやっているし、なんでこんな人間に光を当てるんだっていうためらいのようなものも自分の中にあったんですけど。ただこの映画は風刺そのもので、こうした人間たちをこき下ろして、悪い意味で光を当てるために作られたものだと思うんです。自分自身を奮い立たせて、ダークな部分に向かっていくことがたぶん一番大変だったかな。

「8割が自分の運転」、特殊な撮影方法とアドリブへの挑戦
── 物語のほとんどが車内で展開されていきました。カートが設置した自撮りカメラから物語が届けられるという特殊な撮影方法でもありましたが、演じるにあたって何かこれまでの参加作との違いは感じましたか?
全然違いました。どちらかと言うと演劇のような感覚でしたね。自分自身がカメラを操る人になって、スマートフォンをいじくる。ほとんどがそれでした。カットすることも当然ありますが、大体はそこで起こっていることを1つのシーンとして続けるんです。おかげで、一般的な作品の撮影よりも没頭しやすくなります。マスターショットを撮ったり、撮影範囲を考えてクロースアップにしたり、ドアを解錠する時などの特別な撮影なんかも行ったりして。速いテンポで進んでいきました。あなたが言ったようにいつもよりユニークに感じましたね。
チェックリストを確認するのではなく、“これから4時間車のシーンの撮影をして、それから路上に設置されたカメラをチェックして、僕はボディカメラを装着しなきゃ”というように進めていったんです。毎日が全然違ってワクワクするような撮影で、とても特別に感じました。

── あなたの演技はとても自由で解放的に感じられました。アドリブシーンはあるのでしょうか?
まさにその通りなんです。良い着眼点ですね。撮影ではかなりのアドリブがありました。あとはユージーン監督とフェイクビデオみたいなものもたくさん作りました。アンボックス(編注:新しく買ったものの包みを開いて良さを確かめること)だったり、レビューだったり、人生を描くものだったり、そういったものですね。
ユージーン監督は僕をクレイジーにさせることに結構乗り気で、こういうのをカートイズム(kurtism)と呼んでました。それから彼(カート)がナーバスに陥るある社会的状況や瞬間で取る行動、ブツブツと言う言葉、そしてそれらが何を引き起こすのかなどを作り上げました。今作でのアドリブはとっても楽しかったですね。それがとても上手くいったんです。どのテイクもそれぞれ違うものに仕上がって、撮るたびに新しい何かがシーンに加わって。とっても楽しかったです。
── 劇中では激しくスリリングな運転シーンがいくつもありましたが、実際にご自身で運転されたのでしょうか?
たくさん運転しましたよ。8割は僕が自分で運転してたと思います。すごく楽しかったです。演技をしてる最中って頭のなかがいっぱいいっぱいで、すごく難しいんですけど、一番大切なことは頭の中を空っぽにすること。なので車を運転するというタスクがあったのはとっても良いことで、すごく集中できました。動作速度とかそういったのはあまり意識していませんでしたけど。
ただハリウッド・ブールバード(大通り)のシーンとか急ハンドルを切るシーンとかでは運転してないです。高速道路でのシーンも僕じゃないですよ。危険なものは運転しなかったです。それでもたくさんやりました。楽しかった。
── すごくヒヤヒヤしましたもん。
ホントですよ。

「アンチヒーロー」としてのカート、繊細なテーマ性
── ところで本作では、「SNSをどう使うか」、つまり投稿する側の視点も重要だったと思いますが、SNSを見る側の視点も大きなテーマだったと思います。事実、徐々にフォロワー(=見る側)を獲得していったカートは、彼らに扇動されて、自分の行動をエスカレートさせていくわけですから。これについてはどう思いますか?
あなたの言う通りです。彼を見ていた人たちもある種共犯ですよね。彼をそうするように煽って、後押しもして。そこには大きな主題みたいなものが隠れているんです。特に後半ではコメントスクロールのクレイジーさが度を越えていって。終盤10分では、カートに関わる全てがRedditとか4chan(※)のスレみたいな感じになっていったと思います。
そういったものは、情報のサイクルに捕まってしまって完全に無かったもののように忘れられてしまう。それから僕たちは何にも学ばない。そういうテーマ性があるんだと思います。だからこそこの映画をたまらなくやりたくて、ユージーン監督が作品を通して何かを主張したかったんだということも知ってましたから。ほんとにたくさんのレイヤーがあって、僕はこの作品を3回観たと思うんですけど、観る度に“良い決断だった。ユージーン監督グッジョブです”って感じてました。
※Reddit,4chan…英語圏の巨大なネット掲示板
── フォロワーから支持されるようになるカートからは、一種のアンチヒーロー性を感じました。実際に役を演じるにあたってこの部分は意識されましたか?
意識はしていたと思いますし、撮影が始まる前にはこの側面に少し恐怖を感じていました。彼の行いを美化したくなかったですし、彼は根っからの負け組でやってることも間違ってます。けど、終盤10分での彼はある意味美化されていて、特にカートと似たようなことをしている人間たちはインターネット上で美化されがちですよね。すごく繊細な領域だと思います。
── カートへの憑依ぶりは圧巻でしたが、撮影後に気持ちの切り替えなどはスムーズに出来ましたか?それとも、何か余韻のようなものはありませんでした?役を引きずるとか。
あったと思いますね。少なくとも、撮影初日に向けて準備するためにやっていた習慣とかもあったので、そういったものを今も少し感じたり、ユージーン監督に会うと当時の僕たちのエネルギーが蘇ったりします。まあそうですね、何かに取り組んだり捧げていたりする人たちだったら、ほとんどがそう感じるんじゃないでしょうか。離れてしまっても、ああいうことしたなって思い出しますし。
── この映画がアメリカで公開された時、カートのInstagramアカウントが作られてましたね。投稿などは実際にあなたが行っていたんですか?
そうなんです。TikTokとかもあったと思います。ユージーン監督がアカウントを管理していましたけど、一緒にコンテンツを作りました。たくさんのビデオを作って編集して。この映画を紹介するのに素晴らしいと思ったんです。ほかの作品ではこういうことはあまりないですから。誰もがSNSを使っていますし、スクロールしてもらって、変なビデオを見て、“この人なにしてんの?これホント?フェイク?”って思ってもらうんです(笑)。笑ったり戸惑ったりしてもらえたと思います。それが狙いでしたから。
この投稿をInstagramで見る
── 見た時は確かに戸惑いました。見入っちゃいましたけど(笑)。
おお、イイですね。見てもらえて嬉しいですよ。
── そういえば、本作には製作総指揮としてラッパーのドレイクが参加していますよね。彼とは何かお話などはしましたか?
すごく短い間ではあったんですけど、お会いしましたよ。部分部分で現場にも来てくれました。彼について尊敬しているところは、ユージーン監督のことを心から信じていたことですね。これってすごく難しいことだと思うんです。製作として携わっているから。彼のチームも常に一緒にいたんですけど、それでもユージーン監督を信用して、ご自身が持つヴィジョンを完成させていました。ドレイクは真の男(Drake is the man)ですね(笑)。

目標は尊敬する人とのコラボレーション、キャリアの展望語る
── 「ストレンジャー・シングス」のスティーブ役で多くの人があなたの名前を知るようになったと思いますが、本作『スプリー』やNetflix作品の「さらば! 2020」、『フリーガイ』などを通してどんどんキャリアを進めていますね。自身の成長や成功をどう感じていらっしゃいますか?
自分が興味あることをやって、尊敬する人たちと働いて、僕の元にやってきたチャンスを掴んでいるだけなのでね…。この業界にはぜひご一緒したいと思う才能ある方たちがたくさんいて、もしかしたらそういう方たちと何かを作ることが、僕の一番デカイ目標かもしれないです。学び続けることも大切ですし。
「ストレンジャー・シングス」でのお仕事はほんとに心地よいです。けど何か新しいことをやる度に、すごく落ち着かない気持ちになるんです。全く新しい人になったような、イチからやり直しな感覚があって。それが素晴らしいことでもあって、「あーあ、こりゃまずいことになるぞ」って。そういう緊張感とか、いろんな人とのコラボレーションを楽しんでいます。これまでのお仕事はとてもありがたいことでしたし、これからも続けさせてもらえると嬉しいです。
── これまでホラー、スリラー、コメディ、モキュメンタリーと経験されてきたと思いますが、次はどのようなジャンルに挑戦したいですか?ちなみに今は『スター・ウォーズ』のTシャツを着られていますけど。
(両手バンザイで)フゥーーーーー!『スター・ウォーズ』大好きなんです。映画だったらどんなジャンルも好きですね。どのジャンルにも素晴らしい作品がありますし、一番好きなジャンルを選ぶことは難しいです。アクション映画も良いですし、恋愛映画、ノワール、スリラーも良いしなぁ。人次第なところもありますよね。あとは脚本が素晴らしいかそうじゃないかとか。
── そういえば、「ストレンジャー・シングス」で共演しているフィン・ヴォルフハルトが短編映画『Night Shifts(原題)』を公開しましたね。ご覧になられました?
もちろん観ましたよ。彼、素晴らしくないですか?
── 良い作品でしたよね。面白いストーリー展開で。フィンみたいに、監督やプロデューサーとしての活動は考えていますか?
いつかやりたいです!大変だし、俳優とは全く違う力量が必要になると思いますが、どこかの時点で出来たら楽しいですよね。できたら最高です。
── そろそろお時間みたいですね。今後のご活躍楽しみにしています。ピースアウト(バイバイの意)!
ピースアウト!またね。
母親と二人暮らしのカート・カンクルは、ソーシャルメディアで注目を浴び、スターになることを夢見ているが、全く上手くいかず。ぱっとしない生活を送っている。そんなある時、カートは「スプリー(spree)」というライドシェアアプリで運転手の仕事をしな がらライブ配信で注目を集めるために、「ザ・レッスン」というおぞましい内容の生配信企画を思いつく。 乗客を殺害し、その様子を生配信するという過激なアイデアを実行に移すべく、ハンドルを握ったカートの狂気は加速。その反面、配信は全くバズらず、もっと過激な映像で視聴者を見返してやろうと意気込む。果たして、カートの暴走を止めることはできるのだろうか……。
主人公カート役を演じるキーリーのほか、暴走するカートに立ち向かうコメディアン、ジェシー・アダムス役で「サタデー・ナイト・ライブ」に4シーズン出演していたコメディアンのサシーア・ザメイタ、カートの父親役に『スクリーム』シリーズのデヴィッド・アークエット、『シックス・センス』(1999)「The O.C.」(2003-2007)などのミーシャ・バートン、アリアナ・グランデの兄でシンガー・ダンサー・パーソナリティなど幅広く活躍するフランキー・グランデら、実力派から個性派まで幅広いキャストが名を連ねている。監督・脚本・製作は、ウクライナ出身の新鋭ユージーン・コトリャレンコが務めた。