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マーベルが描くイデアとは ─ 哲人スタン・リーの1970年と2017年のメッセージから

©THE RIVER

マーベル・ユニバース産みの親であり、マーベル・メディア名誉会長、我らが御大スタン・リーが、マーベル・コミックの理念を改めてビデオ・メッセージにまとめてYoutubeに公開した。熱心なファンにとってはお馴染みのスピーチ内容ではあるものの、未だに悲しい出来事に揺さぶられ続ける昨今、今一度耳を傾けるべき非常に意義深い内容だ。この動画からは、マーベルが約70年変わらず訴え続けるメッセージが今なお健在であるという強い魂を感じることができる。

「ご理解ください。マーベルは常に、そしてこれからも、”窓の向こうの世界”の反映であり続けるのです。」

「世界は変化・発展し続けるでしょう。しかし、ヒロイズムを語るという私達のスタイルは不変です。」

「私達のストーリーは皆さんのためのもの。人種、性別、信仰や肌の色を問いません。私達が決して描かないものは、憎しみや不寛容、そして偏見。」

「隣のあいつは、あなたの兄弟。あそこの女性は、あなたの姉妹。そこを歩いている少年は、もしかしたら蜘蛛の強さを持っているかも。」

「私達人類は、みな大きな家族の一員。マーベルという人体において一つなのです。そしてあなたも、ファミリーの一員。マーベル・ユニバースのいち部分を担っているのです。」

マーベルが描くもの

繰り返し語れるように、マーベルのストーリーやキャラクターは、常に現実社会や、その時代ごとに人々が描く理想について描いている。世界が変化・発展しようとも、物語の核心は変わらないという理念は、かつてプラトンが説いたイデアの考えに通ずる。

紀元前4世紀、ギリシャの哲学者プラトンは、あらゆる物事の真の姿は「イデア界」にあり、我々が暮らす「現象界」に見えるものはすべてイデア界の姿を写したものだと考えた。そして真の姿「イデア」とは変化することのない絶対的な姿であると考え、正義や道徳の真の姿を知るためには、それらのイデアを探求すべきとし、理性的にイデアを最も知る人物こそが政治を行うべき(哲人政治)と説いた。

スタン・リーは現代における善のイデアを見ながら、コミックとしてペンで描き写し続けた哲人と呼べるだろう。その哲学は今やマーベル・ユニバースとして世界中で受け入れられ、人種や性別、信仰や肌の色を問わない多種多様なヒーローらが、傲慢や欲望、不平や偏見のメタファーと言えるヴィランと戦っている。

時代が変わろうともイデアは変わらないとプラトンが考えたように、スタン・リーにとっても善のイデアは変わることがない。ここでは、1970年に発行された「Fantastic Four #97」掲載のスタン・リーによるコラムを併せて読んでみよう。

「なぜ私達のコミックはこんなに道徳的なのかと、よく読者からお手紙を頂くことがあります。彼らは、コミックとは現実逃避以外の何者でもないと信じ込んでいるようですね。

私はそうは思いません。メッセージの無いストーリー、つまり、魂のない人間のように感じられるのです。実際に、古典の伝説や英雄伝説といった歴代の現実逃避的な文学には、すべからく道徳や哲学的見解が含まれています。私が講演を行う大学のキャンパスでは、どこへ行っても戦争と平和、市民権、若者の反乱についてディスカッションがなされますが、それはマーベルの誌上でも同じこと。ひとりで生きている人はいません。私達の物語で描かれる出来事は、現実世界で描かれる出来事と全く同じかたちをしています。

現実逃避的と呼ばれることもあるかもしれません。しかし、楽しいものだからといって、読んでいる間は頭を空っぽになるというわけではありません!エクセシオール!」

この先時代がどう変わろうとも、マーベルの描く善のイデアは「窓の向こうの世界」に変わらず存在し続けるだろう。その写し姿は、コミックや映画で我々のもとに届けられる。

Source:https://youtu.be/sjobevGAYHQ
http://www.cbr.com/stan-lee-explains-why-comics-should-take-a-stand-on-social-issues/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。