『アリー/ スター誕生』公開記念、3本の『スタア誕生』を振り返る ─ 1937年・1954年・1976年版の変化と「歌」

日本時間の2018年12月7日、第76回ゴールデングローブ賞のノミネーションが発表されました。最多選出はアダム・マッケイ監督による『バイス』の6部門。次いで、『アリー/ スター誕生』が5部門で選出されました。本作は米国で興行、批評の両面で大成功を収め、主要5部門中4部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞)で候補になるという優れた結果を残しており、2019年2月に発表されるアカデミー賞でも有力候補と見なされています。
『アリー/ スター誕生』は『スタア誕生』(1937)をリメイクした3度目の作品です。『スタア誕生』は過去3作すべてがアカデミー賞、ゴールデングローブ賞などの映画賞で有力部門を争っており、その力は世紀を跨いでも健在だったようです。本記事では『アリー/ スター誕生』の劇場公開にあたって、過去の『スタア誕生』を振り返っていきます。

『スタア誕生』物語の普遍性
まず、初めに1937年に公開された映画がありました。オリジナルの『スター誕生』です。同作は非常に高い評価を受け、アカデミー賞の原案賞(現在は廃止)を受賞、主要5部門すべてで候補になりました。以下は物語のあらすじです。
映画スターに憧れ、ハリウッドへやってきたエスター(ジャネット・ゲイナー)は大スターであるノーマン・メイン(フレドリック・マーチ)との出会いをきっかけに女優として成功を収める。一方のノーマンは飲酒癖の悪化で人気に翳りが見え始める。
どこか見覚えのあるアウトラインではないでしょうか。21世紀以降に制作された映画に限っても、これに極めてよく似た筋立て、設定の映画はいくつも挙げることができます。
たとえばミシェル・アザナヴィシウス監督の『アーティスト』(2011)です。同作はカンヌ国際映画祭の男優賞、アカデミー賞の作品賞など世界の映画賞を席巻し、2011年の映画界のハイライトになりました。『アーティスト』はトーキー時代の到来で落ちぶれて酒に溺れるスターと、スターとしての地位を確立することになる新人女優の物語であり、『スタア誕生』の物語とは大枠で一致しています。時代設定やハリウッドという舞台設定もほぼ同じであり、特に『スタア誕生』と一致する部分の多い映画です。
この“落ちぶれるスターと地位を確立する新人”という枠組みは『ドリームガールズ』(2006)でも使われています。業界は音楽業界に変更され、時代は1960年代となっていますが、スターになる人気歌手(ビヨンセ)と落ちぶれるスター(エディ・マーフィ)という図式は変わりません。
また、スコット・クーパー監督の『クレイジー・ハート』(2009)は酒に溺れるベテランのカントリーシンガー(ジェフ・ブリッジス)の再生の物語を軸にしてはいますが、それと対比するように人気絶頂の若い歌手(コリン・ファレル)が登場します。
このような間接的引用だけでなく、『スタア誕生』は、オリジナルから3作目までほぼ20年周期で直接的な引用、いわゆる“リメイク”が繰り返されてきました。
1度目のリメイクが『スタア誕生』(1954)です。オリジナル版と同じく高い評価を受けた本作は、ジュディ・ガーランドとジェームズ・メイソンが揃ってアカデミー賞の主演部門で候補になりました。2度目が『スター誕生』(1976)で、こちらはクリス・クリストファーソンとバーブラ・ストライザンドの主演コンビが揃ってゴールデングローブ賞の候補になっています。
これら、『アリー/ スター誕生』の先輩にあたる2本のリメイク作品には、1937年版のオリジナルにはなかった要素がフィーチャーされるようになりました。それは「歌」です。

『スタア誕生』に「歌」が与えた効果
「素晴らしい演技」という表現を見かけることがよくありますが、そもそも「素晴らしい演技」とはなんでしょうか。それを具体化して説明するのは非常に困難であり、だからこそ「素晴らしい演技」という抽象的な表現に終始してしまうのではないでしょうか。
1937年のオリジナル版『スタア誕生』では、ヒロインがスターへの一歩を踏み出すスクリーンテストを受ける場面すらはっきり描写されていません。「スクリーンテストを受けた」という事実が描写されているだけです。それどころかヒロインが演技をする描写はほぼ皆無で、「スターになった」という結果だけが描かれており、ヒロインの演技力自体は表現されていません。
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