『アリー/ スター誕生』公開記念、3本の『スタア誕生』を振り返る ─ 1937年・1954年・1976年版の変化と「歌」

先に触れた通り、『スタア誕生』の物語の骨子は「上昇と没落の対比」です。監督のウィリアム・A・ウェルマンがどう考えたのかはわかりませんが、描くべきなのはスターになったという結果だけで、演技力を無理に表現する必要はないと考えていたのかもしれません。
1954年版はミュージカル
1度目のリメイクとなった1954年版『スタア誕生』はミュージカルです。『巴里のアメリカ人』(1951)や『雨に歌えば』(1953)、『バンド・ワゴン』(1953)は同時代の産物であり、ミュージカルとしてのリメイクも時代の流れだったのでしょう。
この1954年版『スタア誕生』では、歌が絶大な効果を発揮しています。ジュディ・ガーランドは子役時代の『オズの魔法使い』(1939)をはじめミュージカルで知られる人物で、歌手としてグラミー賞も受賞しています。したがって、1954年版では重要なシーンで歌が登場しますし、その圧倒的な歌唱力はガーランド演じるヒロインが特別な存在であることを効果的に物語っています。
さて、音楽の良し悪しは演技の良し悪しに比べるとかなりわかりやすいのではないでしょうか。歌唱にかぎっていえば、声質の良さや、もっと即物的に声量の豊富さといった印象だけでも伝わりやすく、いわゆる「凄い演技」よりも「凄い歌唱」の方が五感で感じる効果が強烈なのは明白です。
たとえば、オペラの最高峰であるミラノのスカラ座やロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスは席数2,000を超える巨大な劇場ですが、舞台に立つ歌手はマイクを使いません。それでいて空間全体に歌声を響かせる圧倒的な声量だけでも、彼らが「別格」であることが証明されるのです。
1976年版は音楽を用いた「ドラマ志向」
1976年版『スター誕生』でも歌がフィーチャーされていますが、こちらは1954年版とは一味違います。主演のクリス・クリストファーソンは本職のロック、カントリー&ウエスタンのシンガー。ヒロインのバーブラ・ストライサンドも女優として有名ですが、グラミー賞の受賞歴もあるシンガーです。
作品自体は、ミュージカルというよりは“音楽をフィーチャーしたドラマ映画”といった作りになっており、歌唱シーンはライブやレコーディングスタジオの場面に限られていますし、舞台設定も演劇から音楽界へと変更されています。
監督のフランク・ピアソンは、コンサートの記録映像であるかのような、飾り気のないラフな演出を全編にわたって選択しました。これがドキュメンタリー的な生々しさを醸し出して、同じ歌唱でも1954年版とは全く異なる印象に結実しています。エンディングはステージで歌うスライサンドのクロースアップが延々続くという極端な手法ですが、これはリアリズムの極致を行く『狼たちの午後』(1975)の脚本家として知られるピアソンならではの発想ではないかと思います。
そして21世紀、『アリー/ スター誕生』へ
2018年、『アリー/ スター誕生』は約40年ぶりのリメイク作品となり、物語の舞台は1976年版に引き続き音楽界が選ばれました。ヒロインに起用されたのはレディー・ガガ。もはや説明不要でしょうが、世界的なシンガーソングライターです。
かつて1976年版『スター誕生』はゴールデングローブ賞ではミュージカル/コメディ部門で候補となっていましたが、『アリー/ スター誕生』はドラマ部門でノミネートされました。これだけでも、21世紀版がさらにリアリズム寄りの作品となっていることがわかるというものです。
時代を超えても変わらない、普遍的な『スター誕生』の物語ですが、その表現は時代と共に変わっていることが過去の例でも分かります。今回はどのような表現がなされており、それはどのように特徴的なのでしょうか。ぜひオリジナル版や過去のリメイク版2作品と比較しながら楽しんでみてください。
映画『アリー/ スター誕生』は2018年12月21日(金)より全国の映画館にて公開中。
『アリー/ スター誕生』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/