Menu
(0)

Search

『アリー/ スター誕生』公開記念、3本の『スタア誕生』を振り返る ─ 1937年・1954年・1976年版の変化と「歌」

スタア誕生(1937)
Public Domain https://en.wikipedia.org/wiki/File:Fredric_March-Janet_Gaynor_in_A_Star_Is_Born_(1937).jpg

日本時間の2018年12月7日、第76回ゴールデングローブ賞のノミネーションが発表されました。最多選出はアダム・マッケイ監督による『バイス』の6部門。次いで、『アリー/ スター誕生』が5部門で選出されました。本作は米国で興行、批評の両面で大成功を収め、主要5部門中4部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞)で候補になるという優れた結果を残しており、2019年2月に発表されるアカデミー賞でも有力候補と見なされています。

『アリー/ スター誕生』は『スタア誕生』(1937)をリメイクした3度目の作品です。『スタア誕生』は過去3作すべてがアカデミー賞、ゴールデングローブ賞などの映画賞で有力部門を争っており、その力は世紀を跨いでも健在だったようです。本記事では『アリー/ スター誕生』の劇場公開にあたって、過去の『スタア誕生』を振り返っていきます。

アリー/スター誕生
『アリー/ スター誕生』©2018 Warner Bros. All Rights Reserved.

『スタア誕生』物語の普遍性

まず、初めに1937年に公開された映画がありました。オリジナルの『スター誕生』です。同作は非常に高い評価を受け、アカデミー賞の原案賞(現在は廃止)を受賞、主要5部門すべてで候補になりました。以下は物語のあらすじです。

映画スターに憧れ、ハリウッドへやってきたエスター(ジャネット・ゲイナー)は大スターであるノーマン・メイン(フレドリック・マーチ)との出会いをきっかけに女優として成功を収める。一方のノーマンは飲酒癖の悪化で人気に翳りが見え始める。
――Wikipedia

どこか見覚えのあるアウトラインではないでしょうか。21世紀以降に制作された映画に限っても、これに極めてよく似た筋立て、設定の映画はいくつも挙げることができます。

たとえばミシェル・アザナヴィシウス監督の『アーティスト』(2011)です。同作はカンヌ国際映画祭の男優賞、アカデミー賞の作品賞など世界の映画賞を席巻し、2011年の映画界のハイライトになりました。『アーティスト』はトーキー時代の到来で落ちぶれて酒に溺れるスターと、スターとしての地位を確立することになる新人女優の物語であり、『スタア誕生』の物語とは大枠で一致しています。時代設定やハリウッドという舞台設定もほぼ同じであり、特に『スタア誕生』と一致する部分の多い映画です。

この“落ちぶれるスターと地位を確立する新人”という枠組みは『ドリームガールズ』(2006)でも使われています。業界は音楽業界に変更され、時代は1960年代となっていますが、スターになる人気歌手(ビヨンセ)と落ちぶれるスター(エディ・マーフィ)という図式は変わりません。
また、スコット・クーパー監督の『クレイジー・ハート』(2009)は酒に溺れるベテランのカントリーシンガー(ジェフ・ブリッジス)の再生の物語を軸にしてはいますが、それと対比するように人気絶頂の若い歌手(コリン・ファレル)が登場します。

このような間接的引用だけでなく、『スタア誕生』は、オリジナルから3作目までほぼ20年周期で直接的な引用、いわゆる“リメイク”が繰り返されてきました。

1度目のリメイクが『スタア誕生』(1954)です。オリジナル版と同じく高い評価を受けた本作は、ジュディ・ガーランドとジェームズ・メイソンが揃ってアカデミー賞の主演部門で候補になりました。2度目が『スター誕生』(1976)で、こちらはクリス・クリストファーソンとバーブラ・ストライザンドの主演コンビが揃ってゴールデングローブ賞の候補になっています。

これら、『アリー/ スター誕生』の先輩にあたる2本のリメイク作品には、1937年版のオリジナルにはなかった要素がフィーチャーされるようになりました。それは「歌」です。

アリー/スター誕生
『アリー/ スター誕生』© Warner Bros. 写真:ゼータイメージ

『スタア誕生』に「歌」が与えた効果

「素晴らしい演技」という表現を見かけることがよくありますが、そもそも「素晴らしい演技」とはなんでしょうか。それを具体化して説明するのは非常に困難であり、だからこそ「素晴らしい演技」という抽象的な表現に終始してしまうのではないでしょうか。

1937年のオリジナル版『スタア誕生』では、ヒロインがスターへの一歩を踏み出すスクリーンテストを受ける場面すらはっきり描写されていません。「スクリーンテストを受けた」という事実が描写されているだけです。それどころかヒロインが演技をする描写はほぼ皆無で、「スターになった」という結果だけが描かれており、ヒロインの演技力自体は表現されていません。

先に触れた通り、『スタア誕生』の物語の骨子は「上昇と没落の対比」です。監督のウィリアム・A・ウェルマンがどう考えたのかはわかりませんが、描くべきなのはスターになったという結果だけで、演技力を無理に表現する必要はないと考えていたのかもしれません。

1954年版はミュージカル

1度目のリメイクとなった1954年版『スタア誕生』はミュージカルです。『巴里のアメリカ人』(1951)や『雨に歌えば』(1953)、『バンド・ワゴン』(1953)は同時代の産物であり、ミュージカルとしてのリメイクも時代の流れだったのでしょう。

この1954年版『スタア誕生』では、歌が絶大な効果を発揮しています。ジュディ・ガーランドは子役時代の『オズの魔法使い』(1939)をはじめミュージカルで知られる人物で、歌手としてグラミー賞も受賞しています。したがって、1954年版では重要なシーンで歌が登場しますし、その圧倒的な歌唱力はガーランド演じるヒロインが特別な存在であることを効果的に物語っています。

さて、音楽の良し悪しは演技の良し悪しに比べるとかなりわかりやすいのではないでしょうか。歌唱にかぎっていえば、声質の良さや、もっと即物的に声量の豊富さといった印象だけでも伝わりやすく、いわゆる「凄い演技」よりも「凄い歌唱」の方が五感で感じる効果が強烈なのは明白です。
たとえば、オペラの最高峰であるミラノのスカラ座やロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスは席数2,000を超える巨大な劇場ですが、舞台に立つ歌手はマイクを使いません。それでいて空間全体に歌声を響かせる圧倒的な声量だけでも、彼らが「別格」であることが証明されるのです。

1976年版は音楽を用いた「ドラマ志向」

1976年版『スター誕生』でも歌がフィーチャーされていますが、こちらは1954年版とは一味違います。主演のクリス・クリストファーソンは本職のロック、カントリー&ウエスタンのシンガー。ヒロインのバーブラ・ストライサンドも女優として有名ですが、グラミー賞の受賞歴もあるシンガーです。
作品自体は、ミュージカルというよりは“音楽をフィーチャーしたドラマ映画”といった作りになっており、歌唱シーンはライブやレコーディングスタジオの場面に限られていますし、舞台設定も演劇から音楽界へと変更されています。

監督のフランク・ピアソンは、コンサートの記録映像であるかのような、飾り気のないラフな演出を全編にわたって選択しました。これがドキュメンタリー的な生々しさを醸し出して、同じ歌唱でも1954年版とは全く異なる印象に結実しています。エンディングはステージで歌うスライサンドのクロースアップが延々続くという極端な手法ですが、これはリアリズムの極致を行く『狼たちの午後』(1975)の脚本家として知られるピアソンならではの発想ではないかと思います。

そして21世紀、『アリー/ スター誕生』へ

2018年、『アリー/ スター誕生』は約40年ぶりのリメイク作品となり、物語の舞台は1976年版に引き続き音楽界が選ばれました。ヒロインに起用されたのはレディー・ガガ。もはや説明不要でしょうが、世界的なシンガーソングライターです。

かつて1976年版『スター誕生』はゴールデングローブ賞ではミュージカル/コメディ部門で候補となっていましたが、『アリー/ スター誕生』はドラマ部門でノミネートされました。これだけでも、21世紀版がさらにリアリズム寄りの作品となっていることがわかるというものです。

時代を超えても変わらない、普遍的な『スター誕生』の物語ですが、その表現は時代と共に変わっていることが過去の例でも分かります。今回はどのような表現がなされており、それはどのように特徴的なのでしょうか。ぜひオリジナル版や過去のリメイク版2作品と比較しながら楽しんでみてください。

映画『アリー/ スター誕生』は2018年12月21日(金)より全国の映画館にて公開中

『アリー/ スター誕生』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/

Writer

アバター画像
ニコ・トスカーニMasamichi Kamiya

フリーエンジニア兼任のウェイブライター。日曜映画脚本家・製作者。 脚本・制作参加作品『11月19日』が2019年5月11日から一週間限定のレイトショーで公開されます(於・池袋シネマロサ) 予告編 → https://www.youtube.com/watch?v=12zc4pRpkaM 映画ホームページ → https://sorekara.wixsite.com/nov19?fbclid=IwAR3Rphij0tKB1-Mzqyeq8ibNcBm-PBN-lP5Pg9LV2wllIFksVo8Qycasyas  何かあれば(何がかわかりませんが)こちらへどうぞ → scriptum8412■gmail.com  (■を@に変えてください)