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【大満足】銀河の果てで見出した「僕らが旅に出る理由」『スター・トレック BEYOND』の哲学とは

2009年のJJエイブラムス監督「スター・トレック」を皮切りに始まったスタートレック劇場版リブートも本作で三作目。前二作で興行的にも、内容的にも及第点を遥かに上回る結果を残したJJエイブラムス監督が製作に回り、今作のメガホンをとったのは台湾出身のジャスティン・リン。聞いたことがある名前であるのは当然のことで、映画「ワイルドスピード×3」から「ワイルドスピードEURO MISSION」まで、シリーズの中核を担った四作の監督として映画ファンにはお馴染みの方です。

氏は、筆者の生意気な意見ですが同シリーズにおいて、回を重ねるごとにアクション映画の監督として腕を上げていった印象があり、特に「EURO MISSION」はカーアクション映画のジャンルを超えて、傑作と呼んでもいい出来だったと思います。だがしかし!そこらへんの映画の続編を作ることとは異なり、今回はよりによって「スター・トレック」です。現存するあらゆるコンテンツの中で、最もファンが濃いと噂されるスター・トレック。リン監督に、いくらビッグバジェット映画の実績があるとはいえ、そのフィルモグラフィーの中心に位置するのが、あの「ワイルドスピード」シリーズ、良い意味でIQが低い感じと申しましょうか、そういったジャンル映画を得意とする人間に、はたしてスター・トレックが撮れるのか。劇中のアクションを全面に押し出したような公式予告編も相まって、新作を待ち望んていたファンは、期待より不安のほうが大きかったのではないかと思います。

ところが、実際に新作「スター・トレック/BEYOND」を鑑賞してみると、こうした不安は杞憂であったことがわかります。もちろん、多くのレビューで言われている通り、エンターテインメント性を重視した、いわゆるアクションシーンの質の高さやボリュームも称賛されるべきポイントでしょうが、今作が見事であったのは、TVシリーズが放映開始された50年前とは事情が異なり、似たようなルックのSF映画が巷に溢れてしまっている現在において、「スター・トレック」の新作をやる意味が、観客にちゃんと伝わる作品になっていたこと。製作に関わってきた人間と、ファンとの間で長年育まれた「スター・トレックの哲学」が、作中にちゃんと脈打っているのを感じることができたという点です。

スター・トレックの哲学

「スター・トレック」というコンテンツの哲学とは、端的に言って「多文化多民族社会の肯定」であると考えます。こう書くと何かと比較されがちな「スター・ウォーズ」のテーマと似ているようで、確かにそう言える部分も多いのですが、スター・トレックにはいわゆる「悪玉」、善悪二元論でかっちり分けることができるような存在は登場しません。深宇宙にて遭遇する様々な異星人や、機械生命体、人智を超えた神秘を前に、時には衝突し、時には懐柔し、最終的には共生の道を探るという、「他者を許容する」ことからくる可能性の広がりを、スター・トレックはメインテーマとして訴えてきました。また、旗艦エンタープライズ号に搭乗する乗組員、それぞれ出自も経歴もバラバラな寄せ集め集団が、一つの目的に向かって協力し、足りないところをお互いに助け合って、「家族」にも似た絆を深めていくというストーリーも、前述したテーマを内包していました。お気づきの方も多いと思いますが、「多文化多民族社会の肯定」とはつまり、「アメリカ社会の肯定」であります。実情はどうであれ、どんな人種、どんな生まれの人間にとっても可能性が開かれた社会、楽観的な「理想のアメリカ」のメタファーとして、「スター・トレック」というコンテンツは産まれ、存在するわけです。

ジャスティン・リン監督は台北生まれ。8歳の時に家族とともにアメリカに移民として渡米しました。アメリカにやってきた当初は知り合いも少なく、寂しく心細い思いをしたそうです。そんな時に心の支えとなったのが「スター・トレック」のTVシリーズ。スター・トレックにて描かれた、形式にこだわらない絆の在り方に、移民として非常に勇気づけられたそうです。このような事情から、監督の「スター・トレック」への思い入れは強く、また、こうした出自を持つ監督ならばこそ、狙いを誤らず正確に「スター・トレック」の本質を捉え、それを見事に結実させたのが本作だというわけです。

途中で仲間になる、異星人のジェイラ(ホログラムを使った分身の術が超かっこいいです)に始まり、同性愛者で東洋人のスールー、そして絶滅危惧種となってしまったバルカン星人のスポックなどが、普通のノーマルな人間として描かれているキャラクターと、その違いをとうに乗り越え、その差異について言及することなく、当たり前のように手を取り合い、共闘する様は、やはり誰が何と言おうが美しく、筆者なんかは「ああ、ズートピアが言ってたことって、ずっと前からスター・トレックが言ってることと同じなんだな。」なんて思ったりもしました。また、ちょっとだけネタバレになりますが、冒頭で旅を続けることの意味を見失いかけていた主人公カーク船長が、エンディングでその答えを出す場面。アメリカ人が生来持ち合わせている、危険な未踏の地を行く冒険心、フロンティア精神の根源はなんと「楽しさ」にあるのかと、そりゃそうだよなと、腑に落ちてそして目の前が明るくなるような気がしました。

他にトピックスとしては最近SF映画で流行している「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」的な80’s音楽の使い方、今作でも登場しますが、選曲といい、使われるタイミングのカタルシスといい、バッチリでしたので、大きな見どころ、聞きどころと言えます。吹き替え版の上映がないなど、日本国内では事前のお祭り感が少なかった印象のあった本作ですが、語弊を恐れず言えば、リブート版前二作よりも「スター・トレックらしいスター・トレック」、また単純にエンターテインメント作品としても安心して誰にでもすすめられる、大傑作です。

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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