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【調査】緊急事態宣言で映画業界どうなる ─ 劇場スタッフ、映画配給・宣伝、制作関係者らに訊く

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため政府は2020年4月7日、東京など7都道府県に対し戦後初の緊急事態宣言を発令した。休業要請を名指しで受けた中には、「映画館」も含まれる。

外出自粛が呼びかけられていた頃から、いや、それ以前から、映画業界はにわかに窮地に陥っていた。日本よりも先に感染被害が深刻化したアメリカでは、大手スタジオが所謂「ハリウッド映画」に部類される大作映画の公開延期を続々と発表。これを受け、日本でも3月初旬ごろから、4月〜5月公開予定作品が延期になる動きが現れ始めた。

やがて国内でも外出自粛要請が敷かれると、映画館の多くは主に週末の営業休止に追い込まれた。観客の足も遠のき、予定されていた映画は規模の大小問わず、実質的に全作が公開延期に。そこに来て、この度の緊急事態宣言である。映画業界はこれより、何の準備もさせてもらえぬまま、生き延びれるかも分からぬ「冬の時代」に突入する。

一口に映画業界と言っても、携わる人々は実に様々で、広範囲に及ぶ。大手シネコンやミニシアターの従業員や、映画の配給に関わる人々はもちろんのこと、映画の宣伝業務に携わる人々、その宣伝のための制作に携わる人々がいる。公開される映画のイベント業務に携わる人々に、それを取材する人々がいる。映画の製作を手掛ける人々がいる。映画に出演する人々がいる。一体、彼らの生活はどうなってしまうのか。そして、「映画」という文化はいま、いかなる打撃を受けているのか。

THE RIVERでは、こうした現場の声を集めて世に伝えるべく、Twitterで業界関係者に向けてアンケートを実施。寄せられた切実な声の数々を、本記事にまとめてお届けする。

映画館から人が消えた ─ 現場で働くわたしたちの声

政府の自粛要請によって、映画館の動員は壊滅的に落ち込んだ。現場で日々来場客を迎える従業員は、「映画館から人が消える」現実を誰よりも目の当たりにしている。(ここでご紹介する報告は、緊急事態宣言前、自粛段階のものだ。)

お客様は1回の上映に5人来れば多い方。」(“鷲崎友紀”さん・千葉県の劇場勤務)

祝日にも関わらず毎回の上映で10人以下。」(“枝”さん・大手シネコン勤務)

売上と動員が前年比3月で50%減。4月は緊急非常事態宣言で正直どうなるか分かりません。」(“パナヲ”さん・ミニシアター勤務)

客が少なく、0人の回もしばしば。コンセッションもほぼ売れない」(“加藤純一”さん・映画館勤務)

「本日(6日)、無観客となった上映が十ほどあります。」(“ミタ”さん・シネコン/地方単館勤務)

“やまもと”さんが勤務する大阪府内のシネコンでは、これまでは閑散期でも1日400〜600人ほどの動員があった。これが激減し、「先日は1日の動員が2桁にまで落ち込みました」と語る。別の劇場でフロア業務にあたる“はな”さんの実感によれば、志村けんさんが亡くなってから、シニア層の客足がパッタリと途絶えたという。

「新たに公開される作品がほぼ無い状態なので宣伝ポスターの掲出もままならない状態です。とても活気が失われています」と話すのは、地方のシネコンに勤める“るり”さん。今は、館内を消毒剤で入念に清掃するほかない状態だという。

客が消えたため、食品廃棄の問題も浮上した。劇場管理の“ハピクルサワー”さんは「毎日お客様のために作っても廃棄となり、毎日たくさんのポップコーンを捨てています」と明かす。東京都内の大手シネコンに務める“武田”さんも、「フードの廃棄が増えている」という。「マスク着用は、全国的に不足しているため推奨に留められ、コンセッションに入る人のみ義務化。会社の用意分も残り少ないため、マスクの内側(口に触れる方)に乾いたおしぼりを入れて(インナーマスク)、同じマスクを汚れるか破れるまで使いまわす。」

映画館で働く人の多くは、アルバイトなどの非正規雇用者たちだ。こうしたスタッフからは、シフトを大幅に減らされ、収入が激減したという声が多数寄せられた。予定されていた映画公開が延期になり、館内宣材の差し替えや来場客への案内などの対応に追われているのも彼らだ。「公開が遅くなったりするので、クレームの連絡が劇場にくる」(“Tea”さん・大手シネコン勤務)という理不尽な思いをすることもある。

劇場で営業にあたる“しろ”さんは、緊急事態宣言以前より勤め先が「休館」になってしまった。「夢を与える私達が夢を無くしそうで辛いです」との想いを吐露する。

観てくれる人も、場所もない…「何も出来ない」現状

映画館が止まれば、映画を届ける仕事も失われる。配給会社に勤める人々、そして映画の宣伝に携わる人々である。

配給会社で宣伝業務を担当する“やまもと”さんは、「興収の激減、宣伝イベントのキャンセル、取材のキャンセル、公開延期ラッシュで宣伝プランを立てられない、…など、2月後半以降の公開作〜今後の公開予定作を含め、影響は多方面で出ています」と話す。

大手配給会社に勤務するAさんは、「社員は現在基本的にテレワーク推奨だが、特に宣伝部は公開できるかできないかも分からない作品のため日々出社している状況」と明かす。「なぜなら、公開延期した作品もかなり直前に(延期の意向が)決まっていたりするから。公開延期→スケジュール大幅ズレ→映像本部全部問・興行会社・他配給会社とのあらゆる調整→編成の再調整…と、鶏たまご状態」との現状を語っている。

配給会社と共に動く宣伝会社の人々、およびフリーランスの宣伝マンにもコロナ禍は直撃する。映画宣伝会社で契約社員として働いていた“みゅう”さんは、この影響によって「会社の都合で解雇されました」と打ち明けてくれた。

都内の映画宣伝会社に勤める“た”さんも、「出社は毎日している」というが、映画の公開や試写、イベントやキャスト取材といったあらゆるものが延期・中止となったため、業務は「紙・Web媒体、ライターなどへの延期の通知」に取って代わられた。「観てくれる人、場所がなければ宣伝行為自体ができず…何かをやりたくても何もできないのが現状です。

“登山里紗”さんは、配給作品ごとに雇われるパブリシスト(広報)。「興行収入からの配給収入が減っているので、配給会社が潰れないか心配です」と危惧する。映画プロデュースも兼業しているといい、「クランクインが決まっていた今年の作品のスケジュールがどうなるか決まらないので、キャスティングのオファーをしている作品も、今事務所からは返事がもらえない状況です。」

同じくパブリシスト(紙・電波)の“ずーやん”さんは、「1ヶ月ほど前からポロポロと仕事に影響が出てきて、公開目前の作品の公開延期、予定していた撮影・取材・舞台挨拶・イベントの全てが中止になり、ついには映画館も閉鎖。ここまで、あっという間でした」と振り返る。「特に映画業界はフリーランスの人が多く、そういう人たちはもっと大変かもしれません。もちろん皆さん普通の人間なので、ご家族もいらっしゃいますし、本当に心配です。」「そもそも日本は1年に1本しか映画を見ない人がほとんど、というのは業界にいればよく聞く話ですが、その人たちに『映画館は危険な場所じゃない』という信頼を取り戻せるのか、考えるだけで気が遠くなります。

準備していたイベント、公開までの広告出稿などがほぼキャンセルとなりました」と語るのは、配給会社をクライアントとする広告代理店に勤める“こばやし”さん。「請求は公開月だったため、1円も入ってきていません。

広告・宣伝業の“えいがおばけ”さんは、「劇場配給作品の公開延期に伴い、宣伝プロモーションやイベントのキャンセルが次々に発生しています。これにより、プロモーション一次受けの私達だけでなく、二次受け以降の各パートナーメディア、制作会社、インフルエンサー、会場等関連等、関係各位案件のロスト状態が続いており、収入が絶たれている状況です」と危機感を顕にしている。

製作中止、職がなくなった

製作関係者からの声も。映画やテレビドラマで録音を担当する“kaeru”さんは「4月中の作品の撮影が中止になり、職がなくなった」と言う。映画製作委員会で出資や幹事などを務める“RC”さんは、「現場の延期による制作費やスタッフ賃金問題」「編成スケジュール延期による収支予測倒れ」といった厳しい問題に直面しているという。

役者の“仮名天舜”さんからは「演技の稽古が中止になりました」と、スタントマンの“大五郎”さんは、撮影が中止されたことにより「仕事がなく、対人の練習もできません。」「どうすればいいのか自分でもわかりません」と訴える。字幕翻訳を手掛ける“ぴ。”さんも「アメリカでの製作中止を受け、翻訳する作品がなくなっています」と打ち明ける。

海外からも声が届いた。カナダでVFX関係の仕事に従事する“Jen”さんは、現在自宅作業中。「正直、日本の環境・対応、個人の意識は非常に甘いです」と警鐘を鳴らす。「こちらの国では、ゴム手袋をして買い物に来てる人が多く、スーパーに入るのも入場規制があり、また列は2m間隔で並んでいます。」

シンガポール在住のサウンド・デザイナー、“Kazz”さんも「今日(7日)からマイルドなロックダウンが始まりました」として在宅勤務を開始した。「ポスプロ業務(撮影後の編集仕事)を主体にしていますので、今のところ仕事は減っていませんが、これからの事を考えると恐ろしいです。

いま、映画ファンにできること

映画ファンはどう支援すればいいのか。寄せられたメッセージを整理すると、今は次のような3段階を踏むほかない様子である。

  1. まずは自粛
  2. できれば寄付・購買を
  3. 再開したら、映画館に

まずは自粛

「今暫くは、事態を絶対に長引かせないために、消費生活者は収束に向けた外出自粛の協力が最優先です。」(“えいがおばけ”さん・広告/宣伝業)

自宅にいて家族の事を優先して下さい。」「今は映画業界を優先している時ではありません。」(“Jen”さん・VFX関係)

今は健康第一に。また来れるようになったらたくさん来てください。」(“あき”さん・シネコン勤務)

なるべく家にいて、現状が改善されるのを待つしかないのだと思います。現在たくさんの映画が公開延期になっています。観たかった映画を一刻も早く上映するには、コロナウイルスの感染者数減少を目指すしかありません。その為にもなるべく家にいて、好きな映画や観たことない映画をテレビで楽しんだりするしか方法は無いと思います。」(“ゲン”さん・都内映画館アルバイト)

できれば寄付・購買・支援を

自宅にいながらも、映画を応援できる方法はある。映画企画部の“A”さんやパブリシストの“ずーやん”さんが紹介する「SAVE THE CINEMA」プロジェクトは、ミニシアターへの直接支援を目的としたクラウドファンディングだ。政府に対し経済的な損失を補填することによる支援を求め、署名を募っている。「今こそ『映画を見に行く』というアクションを『署名』や『支援』に向けてくださるとうれしいです。」(“ずーやん”さん・パブリシスト)

配給宣伝の“やまもと”さんはこう呼びかける。「もし前売りを買ったけれど、自粛要請のため観ないまま公開が終わりそうな作品があれば、着券だけでもしていただけると、その映画館とその作品の配給会社の収入になります。特にミニシアター系の映画館・配給会社にとっては大変厳しい環境が待ち受けていると思うので、無理強いはできませんが、寄付と思ってしていただけると……。」

また、“みん”さんは、「興業企業または制作会社が独自で行っているグッズやパンフレットの通販利用」「パッケージ化されている作品の正規ルートでの購入」を、宣伝会社勤務の“かみうち”さんは「(映画以外の事業も展開しているため)CD、DVD、書籍を購入して欲しい」と呼びかけている。

映画への想いの火をたやさぬよういることも、立派な支援だ。仙台市の映画館で働く“大竹 葵”さんは、「SNSなどを使って映画の情報を絶えず発信」することが大切だと語る。「映画公開まで長い道のりでも、忘れられないよう興味をもってもらえるよう作品の魅力を伝えることができたらいいなと思っています。」

映像編集の制作を手掛ける“くろ”さんも、現在は仕事がストップされた状態。「中の人たちはどうやって息の長い宣伝をしていくか悩んでいます。ファンアートでも結構元気が出ます。この投稿好き!とかこの動画好き!ってつぶやいてくれると私は嬉しいです」と提案している。

映画館に行った気分で、TVOD(レンタル配信)やEST(買い切り配信)で作品をたくさん観ていただきたい。」(“K”さん・配給会社)

家でも沢山映画を観て、どんどんレビューを発信しましょう。今のこの状況が、エンタメ自体の自粛にならないよう、きちんと感染を広げない対策を取りつつ、ホームエンタテイメントの積極的発信をしましょう。」(“えいがおばけ”さん・“広告/宣伝業”)

「仕事が減っています。映画館に行くことを推奨できない状況であるため、新作映画をおすすめすることもオフィシャルにはできません」との内情を寄せる映画宣伝の“田中”さんは、どんな形でも「おすすめの映画をひたすら語って欲しいです」と呼びかけている。「Twitterでもいいですし、noteでも、ブログでもいいです。媒体さんにもお願いしたいです。」「とにかくこれをきっかけに映画に興味を持った人たちが、映画を趣味として受け入れやすくなるようなコンテンツがあるといいなと思います。」

そして、大手配給会社に勤める“さー”さんは、業界の仲間たちに向け「映画を心待ちにしている皆さんと共に耐え、延期された映画は必ず公開するという強い意志を発信する事」が必要だと呼びかける。「こういったご時世、エンタメ業界は1番に不必要な存在となってしまいます。しかし、世界が快方に向かうとき、1番に皆さんの気持ちを高め、喜びのシェアができるのもエンタメ業界です。映画もその一つ。コロナウイルスを制し、そしてその時観た映画は、きっと皆さんの一生に深く刻み込まれるはずです。その時が必ず来ると信じて、我々も諦めず、出来ることを少しずつでも実施していく所存です。」

再開したら、映画館に

今は危機的な状況だが、少し経てば、かならずコロナ禍も終息するはずだ。落ち着いたら、また映画をたくさん観に行こう。劇場で働く仲間たちから、たくさんの声が届いている。

コロナ終息後、沢山の人に映画を観て欲しい!今はみんなの為にも自宅待機」(“K”さん・都内大手シネコン勤務)

「月並みなことしか思いつかず申し訳ありませんが、いつか落ち着いた時にたくさんの方に来ていただけるとありがたいです。」(“五穀米”さん・札幌市内シネコン勤務)

落ち着いた頃にぜひ映画館へお越しください。スタッフ一同お待ちしております。」(“ハピクルサワー”さん・劇場管理)

「映画館など興行場の換気機能は一般事務所の約10倍と法律で定められているので、密閉された空間ではなく、席の空間を開けての上映だと感染リスクは低いと言われています。なので、もちろんマスクはしてですが少し落ち着いたら是非映画館に映画を観に行ってください。」(“Tea”さん・大手シネコン勤務)

大手シネコン勤務の“やまもと”さんは「今後、コロナウイルスの感染拡大が落ち着いて、多くの人に映画館に来ていただければ、是非ポップコーンやドリンクをたくさん買っていただきたいです。それに加えて他店の飲食物の持ち込みをご遠慮いただければとも思います」と訴えかける。ご存知の方も多いと思うが、劇場の収益はポップコーンやドリンクといったコンセッション、グッズ販売に支えられている部分も大きい。晴れて再び劇場に足を運べるようになった暁には、お祝いも兼ねてたくさんのフードやグッズを買おう。

このような状況下、私たち一般の映画ファンも厳しい状況であることには変わりない。しかし今こそ、これまでたくさんの夢と感動、冒険と気付きを与えてくれた映画文化に、恩返しをすべき時ではないか。クラウドファンディングや寄付、署名といった積極的な支援はもちろん、自宅で作品を楽しみ、少しでもその魅力を発信するのも良い。映画文化の持つ力を、信じ続けることが大切だ。

この厳しい状況を共に耐え、もう一度、映画館へ行くんだ。その日を守るために、今は私たちに出来ることをしよう。

新作映画が公開されて、たくさんのお客様がポップコーン売り場に行列を作る日が一刻も早く来るのを、ポップコーン売り場の店員として心から願っております。」(“ゲン”さん・都内映画館勤務)

※この記事にご協力いただいた皆様……大五郎 様 / 田中 様 / こばやし 様 / よしひろまさみち 様 /岩間 様 / kaeru様 / かみうち様 / ぴ。様 / えいがおばけ 様 / Jen 様 / 奥野圭祐 様 / 吉川辰平 様 / みん 様 / ぽかさん 様 / まるげりーた 様 / RC 様 / ジャッキー 様 / 仮名天舜 様 / Kazz 様 / miho 様 / ふ 様 / K 様 / 五穀米 様 / 枝 様 / としき 様 / JN 様 / るり 様 / しおやき 様 / パナヲ 様 / マ 様 / 加藤純一 様 / yukko 様 / ミタ 様 / ヒロシ 様 / しろ 様 / オオタケ イズミ 様 / ハピクルサワー 様 / Tea 様 / なか 様 / 武田 様 / はな 様 / Ruby 様 / 松子 様 / あき 様 / ゲン 様 / なおみ 様 / 大学生 様 / う 様 / mint 様 / 大竹 葵 様 / しんや 様 / 鷲崎友紀 様 / サイトウ 様 / やまもと 様 / た 様 / kazu 様 / Y.S 様 / くろ 様 / ずーやん 様 / 登山里紗 様 / みゅう 様 / やまもと 様 / さー 様 / K 様 / 池田 様 / A 様 / グッチーズ・フリースクール教頭 様 / かとうこうき様
御礼申し上げます。ありがとうございました。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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