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「スター・ウォーズ」ジャー・ジャー・ビンクス役俳優、バッシングを苦に自殺を考えていた ― シリーズをめぐるヘイトの問題

「スター・ウォーズ」シリーズでジャー・ジャー・ビンクス役を演じた俳優のアーメド・ベストが、およそ20年前、ジャージャー役への激しいバッシングをきっかけに自殺を考えていたことをSNSにて明かした。

ジョージ・ルーカスによるプリクエル3部作の第1弾『エピソード1/ファントム・メナス』(1999)にて初登場したジャー・ジャーは、そのコミカルなビジュアルと饒舌なせりふでコメディリリーフとしての役割を担った。しかしキャラクターの評価は決して芳しくなく、そのせいだろうか、『エピソード2/クローンの攻撃』(2002)以降は出番が大幅に減らされている。当時、ジャー・ジャーやアーメドには激しいバッシングが寄せられており、また現在もそうした傾向はしばしば見てとることができるのだ。

アーメドは『ファントム・メナス』の公開当時を回想し、このように記している。

「19年前、僕はメディアからの厳しい反発にさらされ、そのことは今でも僕のキャリアに影響を与えています。当時、僕は危うく人生を終わらせてしまうところでした。お話しするのは今でもつらいことです。僕は生き延び、贈り物として、この小さな男の子を授かりました。これ、僕の番組としては良いストーリーになるでしょうか? 教えてください。」

この投稿に対しては、「ジャー・ジャー、大好きでした」「生きていてくれて本当に良かったです」「そんなに辛かったとは知りませんでした。本当にごめんなさい」といった数多くの反応が寄せられている。またヨーダ役のフランク・オズからは、「人々がジャー・ジャーに辛辣なのが理解できない。彼は素晴らしいキャラクターだ。僕の気持ちは変わらない」とのコメントも届けられた

今回の告白を受けて、「スター・ウォーズ」ファンの間では「アーメドの話から学べることがある」「お話を聞かせてほしい」との動きもある。2017年12月の劇場公開以降、激しいバッシングの対象となっている、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督も「あなたのお話から多くを得られる人は、私たち(クリエイター)の中にも多いと思います」との反応を示したのだ。

「スター・ウォーズ」をめぐるバッシング、ヘイトの問題

なぜアーメドの告白に対して、「彼の言葉から学べることがある」というコメントが飛び出したのか。
それは2018年7月現在、「スター・ウォーズ」シリーズをめぐるバッシング、あるいは「ヘイト」と呼んでさしつかえない言葉の問題が、ジャー・ジャー以来およそ20年ぶりに大きく再燃しているからだ。いまやSNSの普及によってファンの声が直接クリエイターに届いてしまうため、事態は『ファントム・メナス』当時より複雑化しているとすらいえるだろう。

先述の通り、世界中で激しい賛否両論を巻き起こした『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督には一部のファンからバッシングや嫌がらせが繰り返され、監督本人は殺害の脅迫を受けたことも明らかにしている。同作でローズ・ティコ役を演じた女優のケリー・マリー・トランに対しても、Instagramにおける嫌がらせや性差別・人種差別発言が長らく日常化していたとされ、ケリーは2018年6月上旬に事実上のアカウント閉鎖を行っていた
また、米国で思わぬ興行的苦戦を強いられた『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)についても、ロン・ハワード監督のもとに「『最後のジェダイ』がひどかったので抗議のために観に行きません」といったコメントが寄せられている始末である。

もちろんアーメドの告白に反応した者をはじめ、決して少なくない「スター・ウォーズ」ファンが、こうしたバッシングやヘイト、無益な反発的行動には厳しい視線を向けている。
ケリーがInstagramを閉鎖した際にはバッシングの当事者が批判を受けたほか、これまで過激なファンの言動がジェイク・ロイドやヘイデン・クリステンセン(ともにアナキン・スカイウォーカー役)を追い詰め、ジョージ・ルーカスから映画を撮る意欲を奪い、レイ役デイジー・リドリーのInstagramを終了させたのだと指摘する声もあった。言うまでもなく、アーメドもそうした被害をこうむった一人だったのである。

「スター・ウォーズ」シリーズをめぐるこうしたバッシングやヘイトの問題は、いまや海外メディアで大きな問題として扱われている。たとえば米The Hollywood Reporter誌は「有毒なファン・コミュニティが『スター・ウォーズ』を殺す」(Toxic Fandom Is Killing ‘Star Wars’)、米WIRED誌は「スター・ウォーズと、台頭する有毒なファン・カルチャーの戦い」(STAR WARS AND THE BATTLE OF THE EVER-MORE-TOXIC FAN CULTURE)と題した特集記事をそれぞれ発表したほどだ。

そして今、こうした問題は思わぬ形でハリウッドのクリエイターに影響を及ぼしている。『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)のクリストファー・マッカリー監督は、友人である『最後のジェダイ』のライアン監督がTwitter上でバッシングや攻撃を受けるさまを見て、このように呼びかけたのだ。

「どうして君がまだTwitterをやっているのかわからないよ。僕はいつか『スター・ウォーズ』を撮りたいと思ってきたけど、もう気持ちは冷めてしまった。

Sources: Ahmed Best, Frank Oz, Rian Johnson, Ron HowardChristopher McQuarrie

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。