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レジェンド双子YouTuberのハリウッド進出作、話題ホラー『トーク・トゥ・ミー』が成功したワケ ─ 日本大好きフィリッポウ兄弟、単独インタビュー

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© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

世界的知名度を誇るオーストラリア出身の双子YouTuber、RackaRacka(ラッカラッカ)の長編映画監督デビューとなる新作ホラー『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が待望の日本上陸を果たした。手の形をしたスタチューを握るとあちら側の世界で溺れた魂に体を乗っ取られるという、若者の間でバズリ中のスリル満点チャレンジゲームに囚われたティーンガールを描く超常現象ホラーだ。

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オーストラリアで製作された本作は、2023年サンダンス映画祭で話題を呼び、米国ではA24が配給権を獲得。『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2019)を超えて、A24ホラー史上最高の興行収入を稼ぎ出した注目作だ。すでに続編製作も決定している。

メガホンを取ったのは、オーストラリア出身のダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウ。2013年からYouTubeチャンネル「RackaRacka」を設立し、超過激なホラーコメディ動画で世界的人気を獲得。『ハリー・ポッター』と『スター・ウォーズ』のキャラクターを戦わせてみたら?ピカチュウが悪魔と化したら?といった奇想天外なパロディをインディペンデントとは思えないクオリティのVFXやアクションで再現し、世界中のポップカルチャーファンから絶大な支持を得ている。

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そんなフィリッポウ兄弟は、活動の場をYouTubeから映画業界に移し、自らの実体験に着想を得た『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を誕生させた。現在はハリウッド実写映画版『ストリートファイター』の監督に決定しており、早くも引っ張りだこの予感。THE RIVERは公開に先駆けて、フィリッポウ兄弟にインタビューする機会を得た。

インタビューでは、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』製作の裏話や日本のホラー、アニメ、ゲームからの影響を語ってくれた。また、大の日本アニメ好きだという2人に、「実写映画化したい日本のアニメは?」という質問をすると、あの超メジャータイトルの名が挙がった。レジェンド双子YouTuberだった2人がハリウッドでも成功した、その裏側に迫る。

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟、単独インタビュー

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── はじめまして!

ダニー&マイケル:やあ!

── 日本に滞在されてどれくらいになりますか?

ダニー:10日くらいかな。今はドキュメンタリーを撮っています。まだ公表は出来ないんですけどね。ここでの滞在もドキュメンタリーの一環なんです。

── 来日は初めてで?

ダニー:いや、確か3度目だったかな。前回はコロナ禍で、日本に入国するのもすごく大変でしたね。

── 前回の来日から変わったと感じることは何かありましたか?

ダニー:どうでしょう。前と同じくらい興奮してますし、とても目まぐるしいです。みんなすごく親切ですし、変わらず楽しいです。

── 滞在はいかがですか?

ダニー:漫画やアニメには目がなくて、日本にいられるなんて最高です。日本でプレスツアーが終わったあとはアメリカに直接飛ぶ予定なんですけど、追加で1週間滞在することにしました。もっと楽しめたら良いですね。

マイケル:日本は本当に素晴らしい!数年前に来た時、食べ物が最高だったことを覚えています。僕たちはアニメを観て育ったから、その発祥の地に来られて最高です。ポケモンカードも見に行こうとしているんですよ(笑)。

── ポケモンセンターにはもう行きましたか?(笑)

マイケル:行く計画は立てたんです……。カードパックがどうしても見つけられなくて。すぐに買えるって聞いたんですけどね。僕たちはオーストラリアではコレクターだから(笑)

── セブン-イレブンとか、コンビニでも売っていますよ!

マイケル:そうなんですか!それは行かなきゃだ。

ダニー:僕たちもセブン-イレブンは大好き。簡単にゲットできないなんてびっくりだな。

マイケル:日本ではほんとに人気なんだよ。英語版は一つ逃さず手に入れているんです。「ポケモンゲットだぜ!(Pokémon ! Gotta catch ‘em all!)」が僕のミッションなんです(笑)。

「YouTubeは十分やり切った」、映画監督という夢

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── (笑)。さて、改めて本日はお時間をいただきありがとうございます。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』、とても楽しく観させていただきました。特にエンディングには度肝を抜かれて、この数年間で観たホラー映画でもベスト級でした。

マイケル:そんなことを言ってくれて嬉しいです。

ダニー:ありがとうございます。無事公開を迎えられて安心しています。人に映画を観てもらって、その反応を知るのが怖かったんです。すごくポジティブな反応で良い気分です。

── つい先日には、ジャパンプレミアでも登壇されていましたね。日本のファンたちとの交流はいかがでしたか?

ダニー:X(旧Twitter)でもすごく良い反応を見ました。観客からはたくさんの質問が上がって、ほとんどの人が最後まで席に残ったままでした。

マイケル:そうそう。試写会の質問コーナーって、大体の人がエンドロールが始まると出て行ってしまうんですよ。

ダニー:僕らも、それを待つみたいなね。

マイケル:日本の観客が最高だなって思うところは、みんなすごく優しいことです。とても愛想が良くて、お互いに対しても良く振る舞っている。思いやりがあってすごく良いなと思います。だから彼らも席を立たなかったんだ。本当は映画が嫌いだっだろうに(笑)。

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── 私もアメリカで暮らしたことがあるんですけど、アメリカの観客はエンドロールが終わる頃までにはほとんどの人が帰ってしまいますよね。あれはカルチャーショックでした。

マイケル:ハハッ(笑)。

ダニー:ある時、友達の映画の試写会に行ったんですけど、その日は別の試写会もあって、途中で抜けなくちゃいけなかったんです。映画が終わってないうちに僕が立ち上がっているのを友達に見られたんですけど、かなり気まずかったのを覚えてます。あれは恐ろしかったな(笑)。

── お二人はYouTuberとしてのキャリアをお持ちの中、映画監督デビューを飾りました。ずっと前からの夢だったのでしょうか。

マイケル:僕たちの最終目標は常に映画やドラマを作ることでした。YouTubeもすごく楽しくて、終わりのないサイドクエストのようなものでした。YouTubeでは、コラボレーションしたり、会社がカッコいいことをやりたがったり、いろんなことが起こるんです。だから僕たちもその仕事を何年も何年もこなすような感覚でした。それ以外にもノルウェーでCMを撮りました。不思議な体験でしたけど、そうした中で動画作りを学んでいって、自分たちを鍛え上げるような感覚でした。

4、5年前の時点で、映画を作る準備はできていましたから、それだけに集中しようと思ったんです。その前にも、『Concrete Kings』というタイトルの脚本を書いていました。興味を持ってくださった方もいたんですけど、僕たちの優先順位が低かった。その時はYouTubeも続けていたから、映画に集中しようと思ったのは2018年の頃だったと思います。

── 長編映画を撮るぞ、と決心した具体的なきっかけは何だったのでしょうか?

ダニー:YouTubeではもう十分やりきったと感じたことですね。経験もたくさん重ねて、これで準備万端だと思ったんです。YouTubeで自分たちを表現し続けた結果、少し大きくなりすぎたと感じました。

マイケル:そうだね。アルゴリズムを追い続けるみたいな状態だったな。プラットフォームにとって最適なものになるように、コンテンツの作り方を変えるようになってしまって、もうここではフィットしないという気持ちになったんです。映画こそが、そういった心理状態を乗り越えるための手段でした。

ダニー:試聴時間やサムネイルとかに注意がそれて、芸術的な表現というものではなくなってしまったよね。

リアルを追求したホラー、「ゴア描写が多すぎたら上手くいかない」

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── お二人は最初、この企画をハリウッドに持ち込み、興味を示したスタジオもあったけれど、オリジナル性が弱まってしまうような提案をされたためにオーストラリアへ持ち帰ったとお聞きしました。

マイケル:すごく素敵な方々だったんですが、「こういう方向性に切り換えたいです」みたいな内容のメモ書きをいただいて。

ダニー:悪い方向性ではなかったんですけどね。ただあまりしっくり来なかっただけで。

マイケル:それから、オーストラリア映画は稼げない、ってよく言われるんですけど、僕たちはお金を稼ぐことではなく、自分たちで作る何かが欲しかった。「これは100%自分たちが作ったものだ」と言える何かが。だから、作品がこうして受け入れられたことに対してとてもありがたく感じていますし、信じられないです。

── ということは、ハリウッドデビューは必ずしも一番の優先順位ではなかったということですか?

ダニー:最初はそれを目指していました。ハリウッドで作れると思うとすごくワクワクしました。でも、オーストラリアでだったら自由に作れるということが分かった時、そうしようと決めたんです。もっと完璧じゃないか、と思いましたね。

マイケル:ハリウッドでは、監督たちがよく(作品を)台無しにされる、話を変えられてしまう、といった恐ろしい話をよく聞くんです。だから、カット、シーン、サウンドエフェクト一つとっても、自分たちにとって重要なものでなくてはいけなかった。映画を売るためだけに内容を変えてしまうような誰かを招き入れるというのは、すごく怖く感じました。

ダニー:うん、自分たちが縛られてしまうと思いました。

── 本作の着想は、近所の子どもたちだったそうですね。ドラッグで倒れた少年を前にして周りの子どもたちは見ているだけ、という状況を目の当たりにして、そこにホラー性を感じ取った、と。こうしたホラー性は、お二人が観て育ってきたホラー映画とはどう異なるものだったのでしょう?

ダニー:僕たちは若者たちがソーシャルメディアにリアルな方法で裏切られてしまうというような、何か現代的なものを作りたいと思っていました。こういう話は滅多にありませんから。

マイケル:誰かが自分の携帯に向かって、「今はライブ中なんだけど……」みたいなセリフを言うのは少なくとも僕たちにとってはリアルに感じられませんでした。

ダニー:小さなことですけど、実在しないアプリなんかが登場すると、自動的に(物語との)繋がりが断ち切れてしまうなと思います。だから僕たちは、プリプロダクション(撮影前準備)が始まる前にSnapchatにあらかじめ連絡して、アプリの使用許可を取りました。

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── 物語のリアリティを追求する上では、ご自身がオーストラリアで体験されたことを強く意識されたのですか?

マイケル:そうですね。できるだけリアルに感じてもらえるように、実在の人たちや実体験を基にキャラクターを作りあげました。あとは俳優たちとのコラボレーションも重要でした。彼らに、もしセリフを変えたかったらそうしても良い、みたいな余裕を与えたり、脚本の中身一つひとつとしっかり繋がっているか、理解しているかを確認したりしました。だからリハーサルの時間がすごく重要でした。

ダニー:ハリウッドのスタジオで作ることになっていたのに、それが白紙になった時はすごく恐ろしかったですね。劇場公開が保証されていましたから。「ついにやったぞ」って思った矢先、そうしないと決めて、オーストラリアで小規模で作ることになって。予算もすごく減ったよね。

マイケル:半分くらいになったっけ?実際、そこまで大規模なものじゃなくなって気分も楽になったんですけど、一方で人生でずっと意識してきたことだったので、そこから方向転換するってなった時は少し心配になりました。結果的にはうまく行きましたけど。

── 本作では、キャラクター重視のストーリーを意識されたと伺ったのですが、ゴア描写もふんだんに見られました。ヒューマンドラマとホラー要素のバランスは、どのようにして取っていったのでしょうか。

ダニー:ゴア描写が多すぎたら、上手くいかないだろうと思っていました。最初の脚本では、もっと激烈で野蛮で、暴力的だったんです。一番最初の憑依のシーンはめちゃくちゃでしたね。

マイケル:僕たちが大好きなヒューマンドラマ映画を作るとなると、キャラクターをリアルに感じさせることが大切でした。架空の出来事があまりにも現実離れしていたら良くない、と。暴力描写なんて、YouTubeでやっていたように延々と出来ましたけど、僕たちは「中身が無いと感じさせないためにはどうすればいいのか」と考えました。

ダニー:編集の時に何度もシーンを観直したり、ヒューマンドラマとしてのビートが十分かどうかを確かめたり、どちらかに偏りすぎないように気をつけました。

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マイケル:あとVFXチームに申し訳ないなと思ったこともあって。彼らは、(主人公の)ミアが溺れた魂たちを自分の中に入らせる時、彼女の髪が少し浮く感じに再現してくださったんです。髪が浮いた状態で彼女が上半身を起こすと、魂が入ってくるんです。すごく素晴らしい映りでした。でも、あまりに現実離れしていたんです。

ダニー:偏りすぎてしまって現実のように思えなくなってしまった。身体を乗っ取られたこと自体がすでに現実離れしていましたからね。他のものまで浮いてしまったら、アクアマンみたいになってしまうから、リアリズムに徹することが重要でした。

マイケル:VFXアーティストの皆さんは本当に最高の仕事をしてくださって、彼らが作るものは全て10点満点でした。

── 本作では、比較的若手の俳優が起用される中、『ロード・オブ・ザ・リング』や『宇宙戦争』などで知られるミランダ・オットーも出演していました。キャスティングはどのように実現したのでしょうか。

ダニー:有名な人を起用するためには、そうでない人を起用する必要がありました。ミランダを起用することで、もっと無名の人たちを自由にキャスティングできるようになりました。そうは言っても、ソフィー(・ワイルド)をミア役に起用したことで、予算をたくさん使うことにもなりました。

マイケル:僕たちは、ホラー映画を俳優目当てで観に行く人はあまりいないんじゃないか、と話し合っていました。彼らはコンセプトのために観に行くのではないか、と。

ダニー:僕たちやプロデューサーは自分たちの分のギャラも全部再投資して、それでソフィーを起用することができました。ソフィーは信じられないほどすごい人なんです。当時はまだスターじゃなかったけど、今はスターになりつつある。彼女を世に送り出す手助けができてとても嬉しく思っていますし、みなさんにも彼女の演技を見てもらうことができる。彼女はとても素晴らしい俳優で、最初のオーディションから彼女の才能にはすぐに気づきました。

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── 本作の製作を通して、クルー全員で一緒に育ち、ハリウッドへ行くことになったのですね。

ダニー:まさしくです。サンダンス映画祭では信じられないことが起こって、圧倒されまくって、みんなが泣いていました。全員の夢が同時に叶ったんです。前までは身内同士で演技を引き出さなければいけなかったんですけど、俳優たちと仕事ができたというのが一番実りあることでした。ソフィーのような人だったら、毎回完璧にこなしてくれるので演技の心配をする必要もありませんでした。彼女がうまくいかなかったと感じている時でさえ、10点満点みたいな。ソフィーには駄目なフレームが存在しなかったですね。彼女はとにかくすごかったです。

── 余裕を持って演出することができたのですね。

ダニー:キャスト全員が素晴らしかったです。

マイケル:うん、全員に才能がありました。でもソフィーは特に、感情的にも映画全体を通して背負うものが大きかった。誰を起用するにしても、本当にその力を発揮できる人でなければいけませんでした。僕たちはすでに映画をどう見せたいかという強いビジョンを持っていたけど、ソフィーのような人たちが、ここまで到達するのは不可能だったと思えるくらいまでレベルを高めてくれました。

『リング』『零 zero』、Jホラーからの影響

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── YouTubeでは有名なキャラクターのパロディを行いながら、新しいストーリーを構築されてきたかと思います。新しいキャラクターを創り出す作業では、どのような難しさがありましたか?

ダニー:とても興奮したし、思ったよりも難しくないように感じました。今までにしてきたことではなく、何か新しいことに挑戦するとなると、気持ちも昂りました。YouTubeで長い間やってきたのは、そのためでもありました。今もたくさんの脚本やアイデアがあるんです。一度勢いが乗ってきたら、脚本から断片を掴んできて、それを一つの作品に投入し、本格的に作り上げていく、みたいなことをしています。ミアとジェイド、ライリーのダイナミズムも、別の映画からかいつまんできたものだったんです。

マイケル:YouTubeで『NARUTO-ナルト-』や『ドラゴンボールZ』、『アバター 伝説の少年アン』の動画を作っていた頃は、シリーズをイッキ見しました。それを仕事だとは言いませんが、それぞれの世界観に入り込んで、全てを見ることは楽しかったですね。(自分たちが作った)動画のこのシーンはあれじゃないか、みたいな瞬間がすごく好きで。YouTubeではそういったことが好きでしたね。でも、もうそんな時代は終わってしまった……(笑)。

── (笑)。(目の前に置かれた「手」を指しながら)これは本物ですか?

ダニー:違いますよ(笑)。日本の配給会社が(レプリカを)一つ作ったんですけど、オリジナル版はもっと重いんです。これもすごく良い出来ですよ。前にはデタラメな(造りの)ものも見てきましたからね。

── 「手」には漢字も書かれていますね。

ダニー:そうなんです!オリジナル版にも書かれていますよ。世界中でサインされていて、いたるところの歴史が詰まっているんです。まるで色んな人の手を渡っていったかのようで、僕たちも、手がこれまでどこに行き、そこで何が起きたのか、子どもたちがどうやって死んだのかといった、脚本を徹底的に分解したような神話全体のバイブルも書き上げました。これまでの全てを蓄積したような存在ですね。コロナ禍では撮影も延期されてしまって、時間が余ったので、そういったバックストーリーを書く時間が出来たんです。

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── この“手”はダニーさんの実際の体験から生まれたものだと伺いました。少年時代に入院された時、お見舞いにきたお姉さんが手を握ってくださったんですよね。そういった個人的な経験を人に共有するだけでなく、フィクションへ落とし込むということに、抵抗は感じませんでしたか?

ダニー:いつも神経質になってましたよ。個人的なことを共有するわけですからね。試写会とかで後ろを振り向くと、すごく個人的な物語を観ている人たちの頭が見えて。でもスリルに近い爽快感も味わえますよ。個人的な出来事であれば、物語もユニークになりますし。

マイケル:ある意味、セラピーみたいなものだよね。多くの人がネガティブな感情を、瓶に詰めて埋めてしまいますから。アートや文章や絵を描くみたいなものです。もし芸術的な方法で表現することができるのなら、少し栓を緩めて、吐き出すことができる。常に表現するかどうかなんです。痛みを無駄にするなってね。

── アニメだけでなくJホラーもお好きとのことですが、製作へのインスピレーションはありましたか?

ダニー:『リング』は“呪われたビデオ”という意味でインスピレーションを受けましたね。

マイケル:日本のゲームでは、『零 zero』からの影響もあります。弟が行方不明になった少女が、カメラマンとして廃墟のような屋敷に行くんですけど、撮った写真には幽霊が写っているんです。階段の一番上にいるシーンでは、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえてきて、(キャラクターの動きを再現しながら)急いでカメラをしまおうとするんです。そしたら、消えていた弟が目の前にいて、ギャーーみたいなね(笑)。当時は友だちを呼んで、大音量でクランクを聞かせて、あのジャンプスケアを怖がってもらったな。ジャパニーズ・ホラーが醸し出すあの雰囲気は、僕たちも大好きです。

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── 劇中で、霊が憑依している時のデカ目も、Jホラーを彷彿とさせました。

ダニー:ドラッグなどを使ってハイになっている時、瞳孔がすごく開くと思うんですけど、その超極端なバージョンがデカ目のアイデアだったんです。一方で、これまでいろんなものを見てきたので、何にインスパイアされたのかを正確に特定するのは難しいです。そうした中で、ドラッグ体験の超進化版みたいな感じにしようという話はした覚えがあります。

マイケル:僕たちは色んなものから(アイデアを)拝借しました。エドガー・ライトの『ショーン・オブ・ザ・デッド』のような作品からは、編集の仕方やビートの取り方などを参考にしました。子どもの頃によく観た『ムーラン・ルージュ』からも、ダンスやリズムのカットの仕方を無意識のうちにヒントを得ていました。『ブギーポップは笑わない』のホラー要素もそうですね。『剣風伝奇ベルセルク』もすごく壮大な世界観で、まるでそこに世界があるような感じでした。ダークな主人公で重苦しいけど、すごいファンタジーなんです。まるで古代史か何かを読んでいるような気分になって、本当に強いストーリーテリングでしたね。

── エンディングには驚かされました。ダニーさんは脚本も兼任されていますが、最後の展開は最初から思い描いていたものなのでしょうか。それとも書き進めていくうちに思い浮かんだのでしょうか。

ダニー:脚本を書いていた時から存在していたエンディングというわけではないんです。ラストの大まかな構想は最初から変わらなかったんですけど、3回目か4回目に書き直した脚本で生まれたアイデアでした。あれを閃いた時は興奮しましたね。何度も書き直して、考え抜いて磨き直すことで発見することができる。“うわ、コレだ”って確信したあの日は今でも覚えています。

── 続編もすでに発表されていますね。つい先日まで脚本家ストライキが行われていたので手をつけられなかったかと思いますが、現在はいかがでしょうか。

ダニー:今は2パターンの脚本を進めています。一つは1作目のキャラクターたちを追うもので、もう一つは新しいキャラクターを掘り下げるものです。ちょうど片方の草稿を書き上げたところで、これからもう一つの草稿に着手します。まだまだ初期段階ですね。

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実写化したい日本のアニメは『NARUTO -ナルト-』

── アニメ好きということですが、実写版「ONE PIECE」が大ヒットしましたよね。お二人は実写化したいと思う日本のアニメはございますか。

ダニー:『NARUTO -ナルト-』で出来たら最高だろうな。絶対イカしたものになると思います。実写化するのはすごく怖いことでもありますよね。みんなをガッカリさせたくないですから。

マイケル:多くの人にとって重要な存在ですから、あまりにも大きなタスクになると思います。しかも『NARUTO -ナルト-』(の実写版)を作るなら、シリーズ化しないといけないですよ。『ハリー・ポッター』みたいに、幼いナルトから描かなければ。ナルトが最高だなって思うのは、いつもやられてばっかりだけど、徐々に成長していくところです。

ダニー:成長物語だよね。

マイケル:そう、成長物語。だから1人の人間が時間をかけて成長していく姿を描いていけたら最高ですよね。でも僕たちにはオリジナルのアイデアがたくさんあるから、たぶん適任じゃないだろうな……。

── でも今のところ『NARUTO -ナルト-』の実写化は作られていないですよ。

マイケル:たぶんもう狙われてるんじゃないかな。

ダニー:間違いないね。詳しくは分からないけど、少し小耳に挟んだんです。『BLEACH』(※「ONE PIECE」のことと思われる)がすごく人気だったから、今は誰もが飛びついているんじゃないかな。(編注:インタビュー実施から1ヶ月後の11月下旬、『NARUTO -ナルト-』ハリウッド実写映画化企画に脚本家が決定したという報道がなされた。同企画にフィリッポウ兄弟は関与していない。)

マイケル:僕たちも自分たちの(YouTube)動画で『NARUTO -ナルト-』のワンシーンを再現したんですけど、ナルトとサスケが滝(終末の谷)で殴り合ったり蹴り合ったりするシーンへのオマージュも捧げました。クレーンに吊るされながら再現しましたよ。

── ポケモンはいかがですか?(笑)「Pokemon Rampage」の動画も見ました。

ダニー:ああ、あれね(笑)。

マイケル:もしかしたら、血生臭いバージョンのポケモンも僕たちだったらありかもしれないですね(笑)。

── 子どもたちには過激すぎるかも?(笑)

ダニー&マイケル:間違いない(笑)。

ダニー:ポケモン世代の大人たちには良いかもしれないけど、アッシュ・ケッチャム(サトシの英語版フルネーム)の話ができたら面白そうですよね。この前作られたのって何だったっけ……。

マイケル:『名探偵ピカチュウ』だ。

ダニー:そうそう。あれとは違うような、アッシュを追うような物語になったら最高ですね。でも監督するってなったら、縮み上がってしまうかもしれないな。

マイケル:僕たちにはアイデアもあったんです。グレード付きのポケモンカードを盗もうとして誰かと喧嘩してしまった時、その拍子にポケモンカードが破れて、ピカチュウのカードがモンスターボールの上に落ちるんです。そしたら、本物のピカチュウが出てきてしまうっていう話。僕たちもピカチュウを捕まえようとするんですけど、ピカチュウが戸棚に向けて雷を放ってしまって、そしたら最強のポケモンたちも出てきてしまう、みたいな。こんな壮大なアイデアを考えたんですけど、結局一度もやらなかったです(笑)。

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映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は公開中。

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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