【東京コミコン2016】マーベル副社長「日本人よ、日本にしか通用しないものばかりを創るな」世界を狙うマーベルの戦略に学ぶ【トークショー・レポ】

2016年12月2日(金)〜4日(日)、幕張メッセにて「東京コミコン2016」が開催、大盛況のうちに幕を閉じた。

会場内に設けられたメインステージでは、期間中さまざまなイベントやトークショウが開催され、多くの著名人やセレブリティが登壇。詰めかけた観客は、この貴重な機会を見逃すまいと熱心に聞き入っていた。

今回は、2日目となる12月3日(土)午後2時20分より開催された、「東京コミコン プレミアムトーク マーベル社 C.B.セブルスキー氏トークショー」のレポートをお届けしよう。

トークショーに登場したのは、マーベル社副社長であり、アジアにおけるブランドの管理&開発を担当している、C.B.セブルスキー氏。対談相手として登場したのは、『地球へ…』『イタズラなKiss』『薄桜鬼』『タイムトラベル少女〜マリ・ワカと8人の科学者たち』などなど数多くのアニメ作品で監督やプロデューサーを務める山崎理監督だ。

セブルスキー氏はアメリカで大学を卒業した後、4年間日本で生活していただけあって、実は日本語はペラペラ。ステージでは、形式上通訳さんと一緒に、山崎監督は日本語で、セブルスキー氏は英語でのトークが繰り広げられた。

セブルスキー氏は、かつて日本のアニメをアメリカに輸入し、英語版を制作してアメリカ向けにリリースする仕事の中で、実は山崎監督の作品も多く手がけていたんだそう。山崎監督とマーベル副社長の間には意外なつながりがあったようだ。

このトーク・セッションは、日米のポップカルチャーの意外な相互作用や共通点が語られ、マーベルがいかにしてグローバル戦略を考えているのか、そしてセブルスキー氏からは邦画業界への目の覚めるようなアドバイスが発せられるなど、たいへん貴重な内容となった。


セブルスキー氏
「私は小さい頃、アメリカで日本のアニメを沢山観て育ちました。でも、あなた方も子供の頃、マーベル作品を観られていたようですね。」

山崎監督
「そうですね。私は今54歳なんですけど、子供の頃は『鉄腕アトム』『鉄人28号』など日本のアニメーションが始まったばかりの時代で、TVで放送されているアニメの半分くらいはアメリカからのものだったんです。『ファンタスティック・フォー(宇宙忍者ゴームズ)』『大魔王シャザーン』『スーパースリー』など、アメリカから輸入されていた作品を小学生のころ観ていて。こうしたマーベルやDCなど、アメコミ作品に影響を受けてアニメの業界に入った人間は私の世代には非常に多いんです。」

セブルスキー氏
これはよく見落とされるポイントなのですが、日本の漫画はマーベル・コミックスに多大な影響を及ぼしているんです。ヒーローが登場するという点だけでなく、人間的なテーマを取り扱っているという点も、日本の漫画とマーベル・コミックスの両者に見られる特徴だと思います。」

山崎監督
「マーベル作品には、ヒーローがかっこよく戦うだけではなくて、ヒーローたちが悩み葛藤し、成長していく物語を描いているものが非常に多いですね。」

なぜマーベルは『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』をつくったのか?世界を狙うマーベルが考えていること

山崎監督はこの話の流れで、マーベル映画作品と比較しながら今の日本のアニメ業界が抱えている課題を吐露する。

山崎監督
「映像の技術が発達し、実写でもアニメーションと変わらないようなカメラワークが成立している。最近のマーベル映画はどうやって撮影したのかわからないような域に達しています。
マーベル映画は、これまでアニメーションでしか実現できなかったような映像が作れてしまっている。そこが私たちにとってはすごく脅威だし、憧れる所です。

私から聞きたいんですけど、『アベンジャーズ』シリーズはあれだけの規模で実写映画が作られていながら、日本向けに『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』という手描きのアニメが作られました。なぜ今、ああいった手描きのアニメーションを作ろうと思ったのか、どういうコンセプトだったんでしょうか。

セブルスキー氏
「良い質問ですね。

そもそもスタン・リーがマーベル・ユニバースを創り出した時、彼には“マーベル・ユニバースとは窓の向こうに広がっている世界だ”というコンセプトがあったんです。コミックブックを開いたときに、そこに広がる世界があたかも現実であるように思わせる、というものです。ふと窓の外を見た時に、まるでそこにスパイダーマンがいてスイングしている姿を想像できるようなものを創ったわけです。だからマーベルは、ニューヨークやワシントンDCなどの実在する街を舞台にしたんです。

とは言え、当初のマーベル・コミックスだって、限られたオーディエンスを対象に描かれていました。読者のほとんどがニューヨークを中心としたアメリカ国民ばかり。せいぜい、イタリアやメキシコあたりで読まれているくらいでした。
でも今や、マーベルはグローバル・カンパニーです。だから、世界中の映画ファン、コミックファンについて真剣に考える必要が出てきました。

ご質問にあった、『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』というアニメシリーズを作った理由はそういうことです。我々が日本人のオーディエンスを真剣に考えた結果、日本人が“リアル”を感じるのはアニメーションなのではないかと思ったんです。日本人にとっての“窓の向こうに広がる世界”を現実のように感じてもらうために、独自の日本キャラクターなどを加えながら、あたかも東京の街でアベンジャーズが活躍していて、自分がマーベル世界の一員であるかのように想像できる雰囲気作りを行ったわけです。」

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実写映画の業界で驚異的な成長を遂げるマーベル・スタジオ。そんなマーベルは日本でのマーケティングにあたって、「子供向けのアニメ」というローカライズを施して市場に挑み込んできた。セブルスキー氏は、日本アニメ業界の第一人者のひとりである山崎監督に痛烈な質問を投げる。

セブルスキー氏
「映像技術が発展していく中で、実写とアニメの表現の境界線がなくなってきていますよね。先程監督が仰っていたように、これまでアニメでしかできなかった表現が、SFXなどを使えば実写でも十分に実現できるようになってきています。
そうした中で監督が新しくアニメシリーズを制作する際に、プレッシャーを感じることはありますか?

山崎監督
「実写であれだけの情報量が描けていて、アニメーションだから描けていたものが実写でも描けてしまう。そうなってくると、アニメーションの“意味”とか、“なぜあえて手描きのアニメーションで作らなければならないのか”ということに、私たちは迷いを抱き始めている時期です。

日本のアニメがアメコミに与えた影響は計り知れない

山崎監督
「私たちは初期のマーベル作品に影響を受けてきました。私の10歳くらい上の先輩たち、タツノコプロの吉田竜夫さんなどが、『新造人間キャシャーン』や『破裏拳ポリマー』など、アメコミからの影響を自分たちの解釈で、新しい日本のヒーローとしてたくさん作られた時代がありました。それが海外に輸出されて、『マッハGoGoGo』が『スピード・レーサー』としてアメリカで受け入れられ、そういった日本産の作品にインスパイアされて育った海外の方たちが、今度は日本で仕事をしたいと沢山来られるんです。アメリカから見て、日本のアニメをどう思われますか?」

セブルスキー氏
日本の漫画やアニメの文化が、アメリカのポップカルチャーに与えた影響は計り知れません。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、アメリカでは日本の漫画・アニメのブームがありました。でも実は、日本のポップカルチャーがアメリカのポップカルチャーに影響を及ぼしていた歴史は、更に遡ることができます。

話にも出ましたが、『スピード・レーサー』のオリジナルの『マッハGoGoGo』や、『ライオン・キング』の元ネタの『ジャングル大帝レオ』(諸説あります)など。でも忘れがたいのは『科学忍者隊ガッチャマン』。これはアメリカでは『バトル・オブ・ザ・プラネッツ』というタイトルになるんですが、私の世代はとんでもなく大きな影響を受けています。

ヒーローたちのデザインの面でも日本の作品の影響は大きいんですよ。アメリカのヒーローやTVショーは、日本のアニメや漫画にインスパイアされているものもあります。

ギレルモ・デル・トロ監督やピクサー創始者ジョン・ラセター、それからマーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギも、日本のアニメや漫画の大ファンで、作品作りなどに際してとても参考にしています。

日本とアメリカのそれぞれのポップカルチャーの相互作用は、かつてないほど長い創作交流の歴史がありますね。」

マーベル、日本でキャプテン・アメリカとデッドプールが受け入れらたのは意外に思っていた

セブルスキー氏
「簡単な質問なのですが、マーベル・スーパーヒーローの中で誰が一番好きですか?」

山崎監督
「キャプテン・アメリカは最近の映画シリーズで改めて好きになりましたね。
個人的にはアイアンマンが大好き。お金もあって、自分の正体もバラしておきながら成立する世界観は理想だなぁと思います。」

セブルスキー氏
私たちマーベルの人間は、日本でキャプテン・アメリカの人気が出たことにとても驚いたんですよ。アイアンマンは日本を含め世界中で人気者になるだろう、という予想はしていたんですが。キャプテン・アメリカはいかにも“アメリカ人”的な役割で、コスチュームのデザインも思いっきりアメリカなのに、日本での支持が高いというのは意外な喜びでした。

それから、デッドプールも日本で人気がありますね。こちらも同じく、デッドプールがこれほどウケるとは思っていませんでした。支持して頂いているファンの皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。」

山崎監督
「映像から受けるキャラクター性に好感が持てるような見せ方をしていますよね。キャプテン・アメリカの映画のシリーズなんて、あれを観て彼を嫌いになる人はいないんじゃないかな、と個人的に思います。」

セブルスキー氏
「マーベルとして是非質問したいことがあります。私たちマーベルが作品を作るときには、必ずユーモアの要素を取り入れるように努力をしています。物語の上で過酷な状況でもキャラクターたちがジョークを飛ばすように、トニー・スタークやスパイダーマンたちにはお笑い要素を持たせています。

監督の方では、ご自身の作品の中でユーモアの要素を取り入れる際、どこまでそういう事が必要だと考えていますか?

山崎監督
「そうですね、まず笑えて、笑顔になれて、そして感動して泣けるような作品を作りたいと考えています。」

映画やコミックといったポップカルチャーは、現実のテクノロジーの発達に寄り添ってきた。それゆえコミコンには、ポップカルチャーとテクノロジーを同じ文脈で語るというコンセプトが根底に存在する。山崎監督は、ポップカルチャーの作品がテクノロジー業界にポジティブな影響を起こすことを期待していると語る。

山崎監督
「私は、それまで知らなかったことを学べるような知識欲を満たせるような作品を作ることが重要だと考えています。映画に登場したSFのテクノロジーがどんどん現実のものになっている時代において、そういったテクノロジーに興味を持つきっかけを作りたい。マーベルの映画を観てヒーローに憧れた子供達が、大人になってからヒーローを目指すのではなく、テクノロジーを開発する側に回っていくことも沢山あると思うんです。作品って人の人生を変えるところがあるので、今後のマーベル作品にもテクノロジーの要素がどんどん取り入れられていくのを期待しています。」

世界を目指せ!日本の映画産業は小さくまとまりすぎている

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今回のトークセッションは、ポップカルチャーにおける日米の代表者同士が対談する、といった構図だったが、怪物級と言えるマーベルの市場規模を前に、セブルスキー氏が“強い方”のような流れで対談が進んでいるような印象があった。実際、山崎監督も「セブルスキーさんとこうして話せるというだけでとても緊張する」と語る一方で、巨漢のセブルスキー氏が椅子にドッシリと座って構える絵が強烈であった。その流れのなか、山崎監督は日本の映画産業が“追い込まれている”状況を語り始める。

山崎監督
日本の映画業界は、今ジリ貧になって来ているんですよ。作品を日本の国内でしか販売できない。実写映画の監督さんに言わせると、邦画には民族的多様性が欠落していたり、言葉の壁があったりといった問題があるそうです。日本人にはわかることでも、海外の観客には日本の常識が通用していないので理解されない、というような壁にぶつかっている状況です。

それに対してアニメーションは、描きさえすれば外国人も自由に登場させられるのが良いよね、という話があります。実写映画においても、当然吹き替えをすれば良いんだけれど、そこに日本人しかいない世界観を作ってしまっては、海外に販売することが非常に難しい。

海外の視点から見た時に、日本の映画やアニメーションの強みと弱みってどういうものなのか、お聞かせ下さい。」

セブルスキー氏
「私は、日本の映画産業は成長し続けていると思います。特に今年(2016年)は『シン・ゴジラ』『君の名は。』といった、国境を超えて成功した作品が次々に出たじゃないですか。
日本の映画産業の強みは、ストーリー・テリングですよ。日本の映画やアニメには心があって、人々がつながりを感じられる。これはマーベルの作品や、世界中の映画作品を見ても明らかだと思います。実写だろうがアニメだろうが、日本の作品には人間性があって、観客を共感させて心を動かす力があると思います。

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私は、日本の映画産業に弱みがたくさんあるようには思いませんが、ひとつ挙げるとすれば、日本の映画産業は小さくまとまりすぎであるというところ。日本のファン、日本の観客のことしか見ていなくて、海外の観客のことを全然考えていない。日本の監督、映画プロデューサー、映画会社はもっとグローバルにやっていくべきなんですよ。だって、日本にはとても優れたストーリー・テリングの伝統があり、日本文化はもっと世界に受け入れられるものなのだから、物事をもっと大きく考えるべき(Think Bigger)でしょう。」

どちらかと言うと、クールジャパンの文脈よりも、海外ポップカルチャーのファンが中心の東京コミコンでは、多くの観客がウンウン頷きながら話に聞き入っていた。しかし、日本のエンタメはこのままで良いのだろうか。セブルスキー氏の言うように、日本の市場しか考えていない作品ばかりが溢れた結果、勢い任せで勝手に走り出した作品が結局日本人すらも騙せず大事故を起こす様を、見たくもないのに見せられているのが現実だ。この状況をどうすればいいのか。我々は、いつか状況が好転する日が来るまで、こうしてネットやSNSで文句や愚痴を言うことしかできないのか。

セブルスキー氏に言わせれば、我々は黙っていてはいけない。行動を起こさなければならないという。氏はトークセッションの最後、こんなメッセージを残してステージを去った。

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セブルスキー氏
「日本は世界屈指のテクノロジー先進国です。皆さんには、“自分のストーリーを語れ”ということをお願いしたいです。ここに来ている方たちは、みんなマンガやアニメが好きでしょう。それらをただ観たり読んだりして終わるのではなく、あなた自身のストーリーを世界に向けて発信していってください。
あなたたちには、語るべき物語がたくさんあるはずなんです。作品からインスピレーションを受けたなら、次はあなたが世界中の人々にインスピレーションを与える番です。

思わず目頭が熱くなるような、マーベル副社長C.B.セブルスキー氏からの日本のコンテンツ産業への激励。このメッセージが発せられた直後、客席の一部からは通訳さんの日本語通訳を待たずして、熱い拍手が聞こえてきたのが忘れられない。

About the author

方向感覚が壊滅しており、Googleマップがあっても道に迷う編集長。ORIVERcinema発起人。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。

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