伝えたいことは主題の奥に!『サンキュー・スモーキング』監督ジェイソン・ライトマンの着眼点に唸らされる!
筆者は映画を観ることが好きで、よく「この映画のこのシーンが、この俳優が好きだ!」という話をすることがありますが、「○○監督の作品が好きだ!」と名指しして魅力を伝える監督は案外少ないものです。そんな中名前を気づいたら覚えてしまった、そして虜になった監督が、ジェイソン・ライトマン監督なのです!この記事では筆者の選ぶ、彼の才能光る作品を紹介します。
ジェイソン・ライトマン監督とは
まず、ジェイソン・ライトマン監督の人物について少し書きます。カナダ人の彼は現在若干39歳にして監督として成功しているのですが、なんと彼は映画監督の父、女優を母にもつ映画界のサラブレットなんですね。幼いころから映画に関わる人生を送っているようです。彼の作品で有名どころを挙げますと、エレン・ペイジ主演『JUNO/ジュノ』、ジョージ・クルーニー主演『マイレージ、マイライフ』、シャーリーズ・セロン主演『ヤング・アダルト』などがあります。
そんな彼の作品からこちらを!
『サンキュー・スモーキング』(2005年)
これはジェイソン・ライトマン初の長編映画であり、全世界興行収入3900万ドル越えを果たした作品でもあります。一応カテゴリはコメディなのですが痛快なくらいの皮肉が心地いい笑いを生みます。インディペンデント・スピリット賞、ゴールデン・グローブ賞を獲得している名作であります。
クリストファー・バックリーの小説「ニコチン・ウォーズ」が原作であり、常に健康を推進する団体からは社会悪と見なされる、タバコ業界の広報マンとして奮闘する主人公の生活にそって話が進んでいきます。
彼の仕事は煙たがられがちなタバコ業界の矢面に立ってとにかく抗弁で擁護しまくること!この主人公はニック・テイラーって名前で演じるのはアーロン・エッカートっていう方でちょっとジムキャリー的な動きのできる俳優さんで、もう、とにかく話術がすごいんです!議論でたばこのマイナス面にあたる焦点をうま~くずらしていくんですね!喫煙の被害の話をしているのにイキナリ「ボーイング社の飛行機が墜落したらボーイング社を訴えるのか?」とか言い出しちゃうんですよ!(笑)ディベートを学びたい人とか観たら面白いかもしれない。もちろんそうでない人も!
もちろん、『サンキュー・スモーキング』は映画のストーリーを追っていくのも楽しみのひとつなんですが、なんといっても作品そのものの組み立てが素晴らしいです!
ジェイソン・ライトマンはテンプレートの一歩先を行く男
つまり、これはタバコ業界で働く男を描きながら、いまさらタバコ=健康被害 とか、タバコ=社会悪 というテンプレートの概念を押し付けてくる映画では全くないんです。かといって喫煙を推進する映画でも全くないんです。実際この映画のなかで喫煙シーンは一つもありません。凝ってる!
こういう映画の撮り方をすることで、本当に伝えたいことはタバコ業界に関することではないと観ながらうすうすわかっていくわけなのです。タバコはむしろメッセージというよりは皮肉のこもったアイコンにされているのが、上のジャケ写からもわかりますね(笑)あとはタイトルの『サンキュー・スモーキング』も、本来の「禁煙ありがとうございます」のキャッチコピーの裏返しになっていて面白いところです。
さて、この映画のコアにあるものは、有名なことばを借りると、「職業に貴賤なし」なのです。どんな仕事でも職業として存在しているということは、すなわちその仕事が誰かを食わしているという意味なのです。それは主人公ニックのタバコ業界のロビイストという職業も同じです。タバコを生産する側に従事されている方々もそうです。からだに悪いなんてわかっています、百も千も承知です。仕事だからやるだけなんです。映画の中でニックと、銃業界・酒業界のロビイストを交えた社会的嫌われ者3人仲間の会合のシーンなんてあるんですが、ブラックユーモアたっぷりの会話、面白いです。
ある意味今作品は煙草を吸う・吸わないという問題の中庸の立場を貫くスタイルの映画です。大切なことは氾濫している情報のなかで自分でそれらを取捨選択し、自分の立場を決めること。吸うか吸わないか、どちらの立場が善でどちらが悪か、そんな2項対立を監督は描いていません。喫煙に限らず、選択権が委ねられていることって生活の中にけっこうあふれている気がしますよね。監督のこういう極端なキャラクタを描いているかと思えば、観ている側の心理・行動をのぞき込んでくるような映画の組み立て方、絶妙です、たまらないです!好きですジェイソン・ライトマン!
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