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S3開始「一流シェフのファミリーレストラン」を熱く語りたい ─ 怒涛のストーリーと愛おしいキャラ、音楽まで見どころ丸ごと解説

一流シェフのファミリーレストラン
© 2023 Disney and its related entities

2024年7月17日よりディズニープラスにて第3シーズンが配信開始となるドラマシリーズ「一流シェフのファミリーレストラン(原題:The Bear)」。2022年に米HuluのFⅩにて配信開始以来、第1シーズンは同局史上最も視聴されたコメディシリーズ、第2シーズンは、「SHOWGUN」が2024年3月に記録を更新するまでの間、最も視聴されたシーズンプレミアに輝いた大評判のドラマだ。これまでにゴールデングローブ賞やプライム・エミー賞など数々の受賞歴に輝き、第76回エミー賞のノミネート作品としても有力視される本シリーズは、本国では第3シーズンの配信がいち早くスタートし、更なる注目を集めているところだ。待望の日本配信開始を記念して、第1&第2シーズンの簡単なあらすじ、愛すべきキャラクター、いちファンとして猛烈にプッシュしておきたい作品の見どころについて紹介させていただこう。

ファミリーレストランかと思えば、そこはほのぼの感皆無、怒号が響くキッチンだった

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

ニューヨークの有名店で働いていたカルメン“カーミー”・ヴェルツァット(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、亡き兄マイケルが遺したレストラン“The Beef”を継ぐために、故郷シカゴに帰ってくる。マイケルが放置していた金銭的な諸問題、荒れ果てた職場環境、言うことを聞かないスタッフたち、そして自らのトラウマなどに直面しながら、ビジネスの建て直しを図るカーミー。そこに前途有望なシェフ、シドニー(アイオウ・エディバリー)が仲間入りし、新たなカオスが始まる……というのが大まかなあらすじだ。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

最初に断っておくと、本シリーズは邦題の「ファミリーレストラン」から連想するような、ほのぼの感とはほぼ無縁だ。怒涛の勢いで展開するストーリーとそれに伴う台詞の応酬、特にFワードやSワードの多さに最初は面食らってしまうかもしれない。登場人物の多くはかなりの頻度でわめき、叫び、怒鳴り散らす。ジャンルとしてはスクリューボールコメディだと分かっていても、夥しい量のFワードに圧倒されてしまうし、名作だともっぱらの評判だけど本当だろうか、とすら筆者も思っていた。そのポテンシャルになかなかついていけなかった序盤は、この熱量の高さやヒリヒリ感は飲食業界、もしくはシカゴでは標準レベルなのか、と行く末の見当がつかなかったのだ。

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しかし話が進むにつれ、その世界観の複雑さが次第に露わになっていく。登場人物の一人ひとりが抱えるバックグラウンドが、時に彼らを悩ませ、抑圧する要因になっている様を丁寧に描いている。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

主人公カーミーは前職の上司からパワハラを受けた過去があり、機能不全な生育環境もあって、かなり気性が荒っぽい。自分の気持ちを言葉に表すことも不得手で、最高の仲間と確信したはずのシドニーを、コミュニケーション不足ゆえに、時として失望させてしまう。カーミーが自暴自棄に陥る様子は痛ましいものの、私たちが日常的に陥りがちな事象に似ている部分もあり、次第に共感を抱かずにはいられなくなる。

登場人物への共感と、胃が痛くなるほどの没入感!自分もドラマの一部になったような気分に

共感という点では、亡きマイケルの親友だったベテラン従業員のリッチー(エボン・モス=バクラック)は、劇中で変遷を遂げ、見ている側の印象を大きく変えるキャラクターだ。シリーズの冒頭は、なんて辛辣で皮肉屋なヤツだと大多数が感じるはず。ただの憎まれ役なのかとか、ストーリー内で何か成し遂げるのかなど訝しんでしまう可能性も大いにあるし、とにかく口が悪い。

改善を目指して場を変えようとするカーミーとシドニーに対して、時に敵意をむき出しにするリッチー。カーミーたちの計画は、亡き親友マイケルが経営していたThe Beefを愛するリッチーにとって、明らかに脅威だからだ。しかしリッチーもまたミッドライフ・クライシスや鬱、愛する友を喪った悲しみなど数々の苦しみを抱えていることが、話が進むにつれ見えてくる。本当は変わりたいのに身動きできない。アイデンティティを模索する焦燥感から、特にシドニーに対してはキツい態度を取ってしまう。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

第1シーズンの第7話「Review」は険悪なムードに満ちたキッチンをワンショットで捉える圧巻のエピソードだ。シドニーが雑誌のフードライターから絶賛されたことが気に食わないリッチーは、悪意をもってシドニーを攻撃する。シドニーがある失敗をしてしまった時には、「“Corner(通る)”って言わなかったよな?」( “Corner”は、トラブルを避けるために警告するキッチンでの頻出フレーズ。つまり「このトラブルは『通る』と言わなかったお前のせいだ」という意味)と追い詰めようとする。

ただし、シドニーも一切ひるまずに「くたばれ(もちろんFワード)」「あんたはクズ」と毅然と言い返す。リッチー対シドニーだけでなく、この日は全てのスタッフの行動が裏目に出て、ついにカーミーもお手上げ状態に陥る。カオスから不安感が波打つように広がり、私たち視聴者まで胃がキリキリと痛くなってしまう。まるで自分も登場人物の一員なのかと錯覚するほどのこのシーケンスは、第1シーズンのハイライトに相応しく、その没入感と前例のなさに筆者は打ちのめされてしまった。恐らく世界中の何百万人という視聴者も同様ではないだろうか。

忖度も遠慮も一切ナシ!ぶつかりながら、泥臭く前進する姿が愛おしい

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

悪夢のような出来事の数々を経て、登場人物一人ひとりが少しずつ成長をしていく。リッチーももちろん然りだ。第2シーズンの第7話「Forks」はリッチーだけでなく、作品に関わる全ての人に「リスペクト」の重要性を説くエピソードだ。オープンな心をもって、正直でいれば、誰だって希望の光を見出すことができる、これは本シリーズが掲げる確固たるメッセージであると同時に、傑作でもある所以だと感じている。

基本的に、彼らのやり取りには忖度とか遠慮みたいなものがない。年齢も経験も役割も超えて、自分の考えを臆さず伝えるし、衝突も恐れない。一方でお互いを「シェフ」と呼び合うほどにフラットだ。職場での上下関係や年功序列に幾分慣れている私たち日本人からするとちょっと不思議に思える部分だが、彼らの騒がしくも正直な会話は、最初は衝撃を受けつつもファンが本シリーズに惹かれるエッセンスでもある。また、邦題にはファミリーとついているのに、どの家族も全然美化されていないどころか、ほぼ全員が家族にまつわる問題にぶち当たっている。どれだけこのシリーズを偏愛していても、「家族って、家庭って素晴らしい」なんて言うつもりは毛頭ない。人間関係に困難がつきもので、家族関係が疲れるものだなんて、今更言うまでもない既知の事実だからだ。煩わしいと分かっていながらも、目の前の壁にぶつかり、もがき、前へ進もうとする彼らはとても眩しくて、どうしようもなく愛おしい。チームビルディングや経営、メンタルヘルスまでテーマを横断し、血縁関係を超えたファミリーの一人ひとりにスポットライトを当てる本シリーズは、飲食業の経験の有無に関わらず、多くの人の胸を打ち、そっと背中を押してくれるだろう。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

シカゴにゆかりのあるアーティストから、テイラー・スウィフトまで…… 臨場感ある選曲でついついイッキ鑑

最後に劇中で流れる音楽についてもリコメンドしておきたい。シカゴ出身のバンドWilco、イリノイ州出身で、シカゴ・カブスなど地元のチームの大ファンで知られるエディ・ヴェダーがフロントマンを務めるPearl Jam、スフィアン・スティーヴンスの「Chicago」など作品の舞台にリンクするアーティストや楽曲から、ザ・ビーチ・ボーイズ、AC/DC、R.E.M.、Radiohead、テイラー・スウィフトなど多様で魅力的なトラックが各エピソードの臨場感を高めてくれている。1話あたり30分前後でテンポ良く進んでいくので、短期間で一気見も可能。第1シーズンを今から見始めても、すぐ第3シーズンまで追いつけるはず。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

来る第3シーズンは、カーミーや仲間たちが新たな門出を切る。いよいよ絆も深まり万事快調か…と期待するも、カーミーを演じるジェレミーいわく、「カーミーはまた似たような間違いを犯す」とのことで、まだまだ喧噪は続きそうな様子。前2シーズンとも、特別ゲストが数名登場してきたが、第3シーズンも豪華ゲストがサプライズを起こしてくれるようだ。目まぐるしく、情熱がほとばしるキッチンの世界にぜひ一度迷い込んでみてほしい。

一流シェフのファミリーレストラン
© 2024 Disney and its related entities.

「一流シェフのファミリーレストラン」はディズニープラスのスターで独占配信中。

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Source:X

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Yuka ShingaiYuka Shingai

携帯向け音楽配信事業にて社内SE、マーケティング業務に従事した後、妊娠・出産を機にフリーライターに転向。 映画とお酒と化粧品が好き。日課のオンライン英会話でもしょっちゅう映画の話をしています。

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