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映画史上初、人工言語スラヴィック・エスペラント語が話された『異端の鳥』実際のシーン解説

異端の鳥
@2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKÝ

「スラヴィック・エスペラント語」という言語をご存知だろうか。

公的表記は“インタースラヴィック/メジュドゥスロヴャンスキー”。この原語は、チェコ、ポーランド、ロシアなどスラヴ諸語を基に作成された、スラヴ諸民族の間の人工共通語だ。

1600年代から何世紀にもわたる歴史に基づく言語であることから、人工言語とはいえ自然かつ古風に響き、スラヴ諸語を理解できる人にはおおよそ理解し合える特徴がある。この言語の話者の人数には諸説あるが、多くても数千人規模で、デジタル時代の現代においてはスラヴ諸語向けのキーボードで入力できることが重視されているという。

この人工言語が、映画で初めて使用された。2019年のヴェネツィア国際映画祭において、『ジョーカー』(2019)以上に話題を集めた問題作『異端の鳥』だ。この記事では、スラヴィック・エスペラント語が映画で初めて話された実際のシーンについてご紹介する。

異端の鳥
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第二次大戦中、ナチスのホロコーストから逃れるために、たった一人で田舎に疎開した少年が差別と迫害に抗いながら強く生き抜く姿と、異物である少年を徹底的に攻撃する“普通の人々”を赤裸々に描いた『異端の鳥』。原作「ペインティッド・バード」では少年がさまよう東欧の辺境の場所について特定の国が設定されておらず、少年には理解できない“方言”で話す人についての描写が度々登場する。

コシンスキーが著したこの描写を尊重した監督は、リサーチを経て、物語となる国や場所を特定できないようにこの言語を採用。特定のスラヴ国家の言語を使用しなかった理由として、「東ヨーロッパの実在するスラヴ国家にこの物語の国民的アイデンティティを持たせたくなかったのです」と話す。さらに、原作は当初英語で発表されたものだが、監督自身は、「英語で撮影することは、原作の信頼性を完全に破壊すると最初から確信していました」とも語っている。

ロシア東欧文学者である沼野充義氏は、「このような人工スラヴ語が映画の言葉として採用されたのは、おそらく映画史上初めてのことだが、国を特定しないまま悪夢のような東欧の世界を描くには、じつに見事な解決策だった」と語る。

劇中、疎開先の叔母が急死して以降、村から村へと地獄の旅路を続けていた少年(ペトル・コトラール)は、ある町で心優しい司祭(ハーヴェイ・カイテル)に助けられ、侍者として教会に仕えることになるが、司祭は病に侵されておりその余命がいくばくもないことは明らかだった。残される少年の身を案じた司祭は、信者のガルボス(ジュリアン・サンズ)に少年を託すことにする。

この本編シーンは、司祭が少年とともにガルボスがひとり暮らす山深い家を訪ねていく場面だ。ガルボスは司祭に対して敬虔な信者として振舞う一方で、番犬への態度や少年に向ける表情にはどこか“邪”なものを感じさせ、彼と暮らすことになる少年の行方が気になる映像となっている。

劇中、ドイツ兵やロシア兵に関わる場面では両国の言語が使われているが、司祭とガルボスはスラヴィック・エスペラント語で会話。監督は、「私達スラヴ系の人間にとってスラヴィック・エスペラント語の発音はさほど難しくないけど、英語のネイティブスピーカーにはものすごく難しいと思う。どうしても発音できない音があるのです」と語る。このため、この言語による多くのセリフは吹き替えだというが、監督によると、ガルボスを演じるサンズの発音はかなり自然だったため、半分ほどは彼自身の言葉を使用したそうだ。

反対に、この言語に最も苦労していたのが司祭役のカイテルだったそう。完成時のセリフは吹き替えであっても、見た時の唇の動きを重視した監督の狙いによってこの言語でセリフを言う必要があったカイテルは、毎日撮影後にコーチを付けてセリフの練習を続けたという。監督は、そんなカイテルについて「彼はヒーローだと思えるほどに、本当に頑張ってくれました」と名優への賛辞を惜しまない。

そんなスラヴィック・エスペラント語の利用者向けポータルサイト
Interslavic language portal”ではこの言語と英語併記による本作の紹介も。気になる人はチェックしてみては?

異端の鳥
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『異端の鳥』は、ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で上映されると、少年の置かれた過酷な状況が賛否を呼び、途中退場者が続出。しかし、同時に10分間のスタンディングオベーションを受けユニセフ賞を受賞し、同映画祭屈指の話題作となった。その後も多くの批評家から絶賛を浴び、アカデミー賞国際長編映画賞のチェコ代表に選出、本年度のチェコ・アカデミー賞(チェコ・ライオン)では最多の8部門を受賞した。

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原作は、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した「ペインティッド・バード」。ポーランドでは発禁書となり、作家自身も後に謎の自殺を遂げた“いわくつきの傑作”を、チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督が実に11年もの歳月をかけて執念ともいえる映像化を果たした。

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東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である一人暮らしの叔母が病死した上に火事で叔母の家が消失したことで、身寄りをなくし一人で旅に出ることになってしまう。行く先々で彼を異物とみなす周囲の人間たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続ける──。

『異端の鳥』は、2020年10月9日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー。

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THE RIVER編集部
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