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極上サスペンス「THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~」疑い、裏切り、衝撃の連続にのめり込む ─ ニコール・キッドマン×ヒュー・グラント豪華共演

THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~
(c) 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

このドラマを紹介するにあたって、とりあえず最初の2話ほどを観てから原稿を書き始めようと考えていたが、無理だった。1話を観た時点で止まらなくなってしまい、気づけば全6話をあっという間に終えてしまった。続きが気になって仕方がなかった。衝撃的なラストまで、全くダレることなく走り切るシリーズだった。

米HBOによる海外ドラマ「THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~」は、思わずのめり込んでしまう極上の心理サスペンス。主演はニコール・キッドマンヒュー・グラント。映画ファンこそ注目いただきたい逸品だ。

誰もが羨むニューヨーク生活、不可解な殺人事件

舞台はニューヨーク。グレイス・フレイザー(ニコール・キッドマン)と夫のジョナサン(ヒュー・グラント)は、一人息子と平穏に暮らしていた。グレイスは心理カウンセラー、ジョナサンは高名な小児医師だ。さぞ稼ぎも良いだろう。フレイザー家の暮らすニューヨークのアッパー・イースト・サイドは、物価の高いニューヨークでも特に高級なエリアで、ドラマ「ゴシップガール」の舞台にもなったセレブな街。もっとも、フレイザー家の暮らしは、「金持ちの豪盛な生活」のようなけばけばしさはなく、「上質でゆとりのある落ち着いた生活」といった具合だ。冬のニューヨークで、彼らはハイブランドのコートに身を包み、バイオリンを習う我が子を連れて、朝はセントラルパークを歩いて一日を始める。要は、お金もあって、お上品で、めちゃくちゃ羨ましい人生を送っているわけである。

THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~
(c) 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

息子のヘンリーは、高額な授業料の名門私立校に通っており、グレイスは学校の資金集めのための「委員会」、つまりママ友によるグループに参加している。そこに現れた、エレナという謎の美しき母親。グレイスのことを妙に意識するような奇妙な言動を重ね、謎の要素を残した後、どういうわけか逃げ出すように去ってしまう。

そして、グレイスの身近なところで、不可解な殺人事件が起こる。周囲も大きく動揺すると同時に、なぜか夫ジョナサンがこつ然と姿を消す。事態は二転三転し、物語はニューヨーク中が注目する一大裁判へ。揺れ動く謎が視聴者を巧妙に欺き、気付けばあっという間の最終話。まるでデヴィッド・フィンチャー作品を彷彿とさせるような、衝撃が衝撃を呼ぶ展開に吸い込まれてゆく。

ニコール・キッドマン×ヒュー・グラント、豪華初共演で描く極上サスペンス

ニコール・キッドマンといえば近年でもハリウッド大作での活躍を続けているが、この作品では1995年の主演名作『誘う女』を思い出させる。セレブであることに価値を見出す女性と、夫の殺害事件を描いたサスペンスだ。一方、ヒュー・グラントといえば、1999年の『ノッティングヒルの恋人』で、セレブとの格差愛に振り回されるピュアな書店主役の微笑みが忘れられないという方も多いだろう。キッドマンの柔らかさと鋭さが同居したような視線、そしてグラントの繊細でどこか陰があるような佇まいの初共演に、大人の映画ファンも魅入ってしまうはず。今ではふたりは50代、60代。熟年夫婦役の2人の演技が、サスペンスフルな脚本上で交錯する。

THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~
(c) 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

全6話かけてひとつの殺人事件を解明していく構成はシンプルと言えばシンプルだが、事件発生・捜査・裁判といった発展や、家庭内と公の場、法廷といった場面転換もメリハリが効いており、無駄なくテンポ良く進んでゆく。第1話で事件発生を描き、第2話以降では警察による捜査が始まり、穏やかだったフレイザー家がかき乱されていく。やがて裁判へと発展していくと、弁護士と作戦を立て、ドラマは法廷での頭脳戦へともつれ込んでいく。大局面へと進んでいく第5話と、すべてが明らかにされる第6話では、テレビの前で驚きの声をあげずにいられない。まるで朝日が夕陽へと色を変えて沈むように、輝かしい人物が、疑わしき人物に感じられてくるのだ、いつの間にか。

全6話を連続で観終えても疲弊感がまったくないのは、ミステリーに焦点を絞ったエッセンシャルな脚本と、嫌味のない世界観構築によるものだろう。登場人物は俗に言う「上級国民」ばかりだが、ゲンナリさせられたり、視聴者を見下したりするところがないので、物語にすっと入り込める。登場人物がまとう高級そうな衣装や、フレイザー家のお上品な邸宅は、洗練された人柄や居心地の良さを演出するものとして、あくまで記号的に機能している。

また、主人公夫婦の「勝ち組」生活が音を立てて崩壊していく様を描きつつも、視聴者にルサンチマン的な感情を抱かせる隙は与えられておらず、うまく感情移入できるように仕掛けられている。その理由のひとつは、右往左往する登場人物の魅力にほかならない。ニコール・キッドマンが演じる主人公グレイスは、真紅のコートをなびかせ、新聞とコーヒーカップを手に出勤する、“ザ・憧れのニューヨーカー”。「バカ高い」診察料を取る冷静沈着な心理カウンセラーで、たとえ患者が聞きたくない残酷な事実であっても、顔色変えずにズバズバと言い放つ合理主義者だ。そのせいで患者が離れてしまっても、それはそれで仕方がないと考えているような、肝の座った人物である。そんな彼女であるが、自身に殺人事件の疑いの目がかけられたり、夫との絆が辛い形で試されたりした途端、客観性を失って追い詰められてゆく。心理学のプロであるはずの彼女が、この屈折した心理スリラーの餌食になっていく様が巧みで、これを嫌味なく演じるニコール・キッドマンの手腕にも唸らされる。

登場人物は多くなく、主要どころはフレイザー家と被害者遺族に絞られる。見進めながらの犯人推理が醍醐味だが、こうした「フーダニット形式」のミステリー作品は、容疑者全員を怪しく見せるのが常だ。「THE UNDOING」の上手いところは、全員が怪しいようにも思わせながら、それと同時に、誰も殺人事件を起こすような人物に見せていない点である。また、メディアを巻き込んだ夫婦同士での疑いや、結婚生活の化けの皮が剥がされていく様子は『ゴーン・ガール』(2014)を思い出させる。

THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~
(c) 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

共演は、グレイスの父親フランクリン役に大御所ドナルド・サザーランド。堂々とした富豪の役で、精神的にも経済的にも娘の側につく頼もしい人物だ。はじめのうちは主人公に助言を与える拠り所であるが、次第に事件捜査にも関与していき、サザーランドの名演もしっかり堪能することができる。フレイザー家の一人息子ヘンリー役は、『クワイエット・プレイス』シリーズや『フォードvsフェラーリ』(2019)などで注目を集める天才子役ノア・ジュープ。両親が殺人事件に巻き込まれ狼狽する熱演には、きっと驚かされるだろう。

監督は『未来を生きる君たちへ』(2010)でアカデミー外国語映画賞を獲得し、名作スパイ作品をトム・ヒドルストン主演でドラマ化した「ナイト・マネジャー」(2016)や、ブームも巻き起こしたNetflixの『バード・ボックス』(2018)で知られるスサンネ・ビア。脚本は、自身も弁護士出身であり、「ザ・プラクティス ボストン弁護士ファイル」(1997-2004)や「アリー my Love」(1997-2002)「ボストン・リーガル」(2004-2008)など法廷ドラマの達人、デイビッド・E・ケリーだ。本作では、陪審員の攻略など法廷での駆け引き要素も程よく織り交ぜながら、説明的・専門的になりすぎない絶妙な塩梅で物語を紡いでいる。

THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~
(c) 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

秋の夜長、上質な海外ドラマをじっくり愉しみたいのなら、「THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~」はうってつけ。ニューヨークの美しい街並みを背景に、ニコール・キッドマンとヒュー・グラントら一流キャストが、映画以上の時間を使ってサスペンス・ドラマを丁寧に揺れ動かす。各話55分前後の全6話は、予想を裏切る展開の連続。再生し始めたら止まらなくなるはずだ。「良いドラマだったよ」と、誰かに教えたくなる作品である。2021年10月6日、ワーナー・ブラザースよりDVDレンタル開始。Blu-rayはAmazon限定で発売中。

「THE UNDOING ~フレイザー家の秘密~」第1話 冒頭5分 特別公開

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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