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【レビュー】『スリー・ビルボード』どこをとっても隙なし ─ ラストに垣間見える「モヤモヤ」の正体

スリー・ビルボード
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

まずはこの傑作が、アカデミー作品賞ノミネートという金看板があったとはいえ、TOHOシネマコンプレックスを中心に公開が大規模展開となったことに純粋に賛辞を申し上げたい。ここ日本においても、ビッグバジェットの商業映画が隆盛を誇る昨今、良作であるにも関わらずインディペンデント系映画が公開規模の不利を被ることは少なくありません。どんなに遠い映画館だろうと苦にせず足を運ぶ生粋の映画好きはともかく、誰にでもハードルが低い状態でこういった作品が鑑賞できる意義は非常に大きいと考えます。

かくいう筆者自身も、良作を量産し続けるFOXサーチライト製作・配給作品とはいえ、今作の監督マーティン・マクドナーの近作『ヒットマンズ・レクイエム』(2008)や『セブン・サイコパス』(2012)がそんなに好みではなかった為(『ザ・ガード:西部の相棒』は未見です)躊躇う気持ちが若干あったのですが、「近くの映画館でやってるから」という気安さが手伝い、鑑賞して参りました。

スリー・ビルボード
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

さて、レビューを始めておいてナンですが、この映画は「だいたいこんな映画です」とカテゴライズするのが非常に難しい作品です。大手映画サイトなどでは「クライム・サスペンス」と謳っていますが、この作品はその一言で言い表せません。確かに公式サイト等であらすじを読んで頂くとお判りのように、一応の主人公ミルドレッド(フランシス・マクド―マンド)の娘のレイプ殺人事件がストーリーの中心ではあるのですが、あくまで事件は映画の背景、そして亡くなった娘は俗にいう「不在の中心」として機能します。事件から7か月後、ミルドレッドが自宅そばの三枚の屋外掲示板に「レイプされて死んだ」「まだ逮捕者なし」「どうなってるの?ウィロビー署長」と意見広告を載せたところから物語は始まり、事件そのものよりも、この掲示板をめぐるミズーリ州エビングの街を舞台にしたヒューマニックドラマといったほうがまだしっくりきます。

元より脚本のクオリティの高さに定評があったマーティン・マクドナー監督ですが、『セブン・サイコパス』が顕著なように、1つのシチュエーションのアイデア、そこからの若干浮世離れした話運びを作風としており(私見です)、前述した通り個人的には苦手意識を持っていました。「ドライブ中に道路わきの看板をみてストーリーを思い付いた」と監督自身が語っているように、『スリー・ビルボード』も監督の脳裏に浮かんだ1つの情景、アイデアからスタートしたようです。しかし、今作においてはそのシナリオのレベルの高さ、映画全体の完成度の高さにケチのつけようがなく、素直に脱帽するほかありません。張り巡らされた挙句すべて回収される伏線の数々はもとより、各会話シーンの洒脱さであるとか、背景、キャラクターの人間性を説明するシーンがことごとく非定型的でいてなおかつ無駄がない。筆者が特にお気に入りの場面は、物語中盤で主人公ミルドレッドが警察署で事情聴取を受けるシーンです。あるハプニングが起こるのですが、その場にいる人間の反応がですね、一見観客を突き放したようなラストの行方をまた示唆しているというかね、雲をつかむようなお話で申し訳ない、もうとにかく早く観てくださいというほかないですね。

脚本もそうですが、演出、選曲、撮影、俳優陣の演技、どこをとっても今作は隙がありません。主演三人(フランシス・マクド―ナンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル)が素晴らしいは言わずもがなですが、個人的なベストアクトはケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。彼が演じる一見なよなよした口先だけのいけ好かない人間がみせる、人間性の底の部分。緊迫した重苦しい場面が続いた映画がそこからシフトチェンジすることもあって非常に印象的でした。

最後に、先ほどちょっと触れてしまいましたが、この映画のラスト、人によっては不安を感じたり「モヤモヤ」したりという受け止め方をされる人も少なくないと予想します。しかし、監督が「自分のフィルモグラフィ上、最も希望に満ちた映画」と語っているように、この映画はざっくり言うと「世の中には色んなタイプの人間がいて、それぞれに色々な側面があり、影もありゃ当然光もあるよね。」ということを謳っています。ラストでミルドレッドと一緒にいる人間が、彼女に与えるもの、それこそがこの映画のテーマではないでしょうか。スマートでいて若干不穏なものを覚える映画のビジュアルイメージに反して、鑑賞後なんだか暖かいものを貰える映画です。

映画『スリー・ビルボード』公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/

Writer

アクトンボーイ
アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。

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