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日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』懐かしくて新しい、オシャレな映像タイムトラベルで1960年代へGO

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

1960年代は刺激的な時代で、今も最新映画の多くに様々なインスピレーションを与え続けている。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『ラストナイト・イン・ソーホー』などでは、1960年代のカラフルな世界がノスタルジックに描かれた。ベトナム戦争などの厳しい世相に抗うように、当時のファッションはポップで華やか、カルチャー面ではビートルズやローリング・ストーンズが大活躍。アポロ11号が月面に着陸すると、人々は輝かしい未来へと思いを馳せた。「レトロ」と言われるトレンドの源流はこの時代にあるのだ。

イギリスでは、夢とロマンに溢れた特撮テレビ番組、「サンダーバード」が登場していた。悪と戦うのではなく、事故や災害から人々を助けるための中立的な救助隊の活躍を描きたいとの理念から誕生したこの人形劇は、後に『エイリアン』や『スター・ウォーズ』にも大きな影響を与える画期的な技法「スーパーマリオネーション」や、ミニチュア模型ながら迫力ある特撮映像、そして胸躍るメカやガジェット、サスペンスフルなストーリーが受け入れられ人気爆発。イギリス人なら誰もが通る、国民的シリーズへと成長した。ここ日本では、本国以外で最も「サンダーバード」が受け入れられた国と言われるほど大ヒットとなり、今なお絶大な支持を得ている。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

それから50年。「サンダーバード」を、そっくりそのまま現代に蘇らせようという試みが登場する。彼らは、60年代に収録されていたレコードの「音声ドラマ」3作に、新たに映像を付け加えることで、この伝説の作品の「新作」を製作しようと考えたのだ。それが本作『サンダーバード55/GOGO』である。

スポンサーに振り回されることなく、自由な製作を短期間のうちに完遂させる必要があった本作は、クラウドファンディングを通じて世界中のファンから資金を集めることで実現している。かつての名作を蘇らせるのに、非常に現代的な成り立ちを持つ所も面白い。

1960年代の作品の「新作」? 人形劇だからできた奇跡

これはリメイクやリブートではない。新作である。時代を超えた奇跡が可能になるのも、人形劇である『サンダーバード』だからこそ。「『ドクター・フー』や『おしゃれマル秘探偵』みたいな60年代のドラマをリメイクしたいと思っても、出演者を揃えるのが至難の技だから」と本作のスティーブン・ラリビエー監督は話している。確かに、生身の出演者は加齢するのだから同じ役柄を再開することは不可能だし、既に鬼籍に入っている場合もあるだろう。「僕らの場合は音声があったし、出演者はグラスファイバー製の人形だから、あとは乗り物を作れば再現は可能だった」。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

何だか簡単そうに聞こえるが、製作補のアンドリュー・T・スミスはこうも話す。「これが新しい人形劇シリーズを作るってことだったら、もっとずっと簡単だったと思う。50年も前に作られたものを全く同じように再現する方が遥かに難しいよ」。

彼らは50年前の懐かしい映像を忠実に再現するために、最新の技術を用いてリバースエンジニアリングを試みた。当時の映像を3DCG化し、そこにバーチャルカメラを入れてミニチュアセットの寸法を精確に割り出したのだ。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

「俳優」であるパペットも当時そっくりに再現。救助メカは設計図が残っていなかったため、映像や写真資料を頼りに蘇らせた。さらに、今では失われた技術となったスーパーマリオネーションのパペット操演師やエピソード監督、特殊効果監督には、当時のスタッフが帰還。「サンダーバード」復活を試みる若きクリエイターたちと、オリジナル・スタッフの記憶と経験が融合し、盤石の体制で製作が進められた。そのあまりの再現度に、当時のファンでさえ「当時撮影され、まだ見たことがない幻のエピソードがあったのか?」と驚愕するほどの仕上がりとなったのだ。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

伝説を完全再現、まるでタイムトラベル

かつて子どもも大人も夢中になった「サンダーバード」、その完全なる「新作」。当時を知らない現在の若い観客にとっても、『サンダーバード55/GOGO』には、まるで映像を通じて1960年代の精神にタイムトラベルさせてくれるような愛おしさがある。

この映画は、当時の音声ドラマに基づく「サンダーバード登場」「雪男の恐怖」「大豪邸、襲撃」の3話からなるオムニバス形式の編成になっており、サンダーバードのメカや国際救助隊の概略、そしてレディ・ペネロープといったキャラクターたちの紹介は「サンダーバード登場」が担ってくれている。これは当時のファンにとっては懐かしい再会となり、新しい観客にとっては素晴らしい入門エピソードとなるだろう。また、3エピソードの開始前にはメイキングの様子や製作陣のインタビューもコンパクトにまとめられており、これから始まる本編への期待を高めてくれる。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

主役の一人となるレディ・ペネロープは、ブロンドヘアーとオシャレなファッションが魅力の令嬢で、モデルとしても活動するエレガントな女性だ。当時は本国で『Lady PENELOPE』というペネロープ主体の雑誌が実際に刊行されていたほど、みんなの憧れだった。『サンダーバード55/GOGO』でも、彼女のポップでハイソなファッションは華やかに再現。髪型や衣装が様々に変化する様は、まさに大女優だ。また、彼女の有名な愛車「FAB1」も登場する。流線形のフォルムがレトロ可愛い、ピンクのロールス・ロイスだ。名の由来は、当時の流行語「Fabulous(ファビュラス)」。ちなみにオリジナル当時、ペネロープの日本語吹替は黒柳徹子が務めていたが、今回はNHKドラマで黒柳役を演じたこともある満島ひかりが担当。ペネロープのチャーミングな声を、当時の雰囲気そのままに演じている。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

完全再現された「国際救助隊」基地兼豪邸のインテリアにもため息が漏れる。何せ当時のファンにとっては、実家の居間くらい慣れ親しんだ空間なのだから、誠実に作り上げなければならない。当時の細かなパーツは、ネットのオークションサイトを駆使して収集。シャーベットトーンの内装にミッドセンチュリーの家具からは、当時の人々が思い描いた上質な暮らしぶりが見て取れる。今になって見ると、なお一層オシャレに感じられ、ウットリ憧れることだろう。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

本作には、当時の再現を試みる際の興味深いエピソードがいくつもある。例えば見せ場となる爆破シーンでは、現在の技術を使えばよりリアルな映像が撮れる。それでもあえて当時の技術にこだわり、「うまく作り過ぎないように注意」したのだそうだ。セットではミニチュア模型の爆発をハイスピードカメラで撮影。これをスローで映し出し、迫力の音響を重ねた。すると、本編では本物の大爆発のように感じられるから、まさに映像マジックだ。飛び散る火花や爆炎の上がり方を見ても、まるで昔の特撮映像を思い起こさせるリアルな仕上がり。ちなみに、当時使用されていた火薬は現在の安全基準を満たさないため再使用できず、別の手法での再現が試みられたそう。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

デフォルメされた独特な造形の人形は、『サンダーバード』を観るのは初めてという方でもすぐに愛着が湧いて、まるで本物の俳優のようにリアルに感じられるようになるはずだ(手元のクローズアップなどは、実際の人間が演技している。これはオリジナル版でもお馴染みだ)。彼らは暑い場所では汗もかくし、厳しい場面では顔をしかめる。操演師らの非常に繊細な技術によって命を吹き込まれた人形たちの、目を見張る「熱演」にもご期待いただきたい。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

日本のエンタメDNAにも深く染み込んだサンダーバード

ところで「サンダーバード」は、『ウルトラマン』など日本の特撮作品にも計り知れない影響を与えたことでも有名だ。イギリス発の「サンダーバード」はなぜ日本でも人気なのだろうか?

もともと「サンダーバード」は、子ども向けの30分番組として製作される予定だった。ところが試写の後、その出来が映画並に素晴らしいということで、1時間番組に変更せよとのお達しが下る。実は当初はアメリカにも売り込める企画として想定されていたのだが、アメリカでは外国製作の子ども向け番組に1時間もの放送枠を得ることができず、市場に食い込めなかった。

日本ではNHKがいち早く可能性を見出して放送権を獲得、ゴールデンタイムにCMを挟まず1時間枠をぶっ続けで放映。当時の日本側の製作陣のこだわりによって丁寧に作られた日本語吹替もあって、視聴者から絶大な支持を得た。さらに、日本オリジナルの「サンダーバード」プラモデルも社会的大ブームに。こうして、樋口真嗣や庵野秀明といった後の大物クリエイターの少年期に多大な影響を与えたのだ。ちなみに、カラフルなメカや衣装が華やかに登場する「サンダーバード」は、当時登場したばかりだったカラーテレビの普及に一役買ったとも言われている。

50年以上前の伝説的作品を、当時の技術そのままに復刻させた『サンダーバード55/GOGO』は、1960年代のレトロフューチャーな気分にそのまま浸かれる映像タイムトラベル体験。オリジナル版に親しむ機会のなかった若い世代が見ても、「懐かしさ」と「新しさ」、「ゆるさ」と「疾走感」、「細やかさ」と「壮大さ」が詰まったこの“新作”を、きっと楽しめることだろう。

日本語吹替には満島ひかりのほか、洋画吹替やアニメ、バラエティ番組のナレーションなどでお馴染みの豪華声優陣も集結しているから親近感抜群。誰でも安心して楽しむことができる。

サンダーバード55/GOGO
Thunderbirds (TM)and (C) ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.

日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』は2022年1月7日(金)劇場上映開始、1月8日(土)オンライン上映開始。サンダーバード、発進!

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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