『トイ・ストーリー3』ラストシーンはなぜ泣けるのか

ディズニー&ピクサー『トイ・ストーリー3』(2010)公開から早くも10年。2010年代を代表する傑作アニメ映画であることは、多くのメディアから認められている。米TIMEは同作を「2010年全作品ランキング」で1位を与え、「史上最高のアニメ映画25選」にも加えている。米レビューサイトRotten Tomatoesの評価は98%フレッシュで、その年の「ゴールデン・トマト・アワード」1位にも選ばれた。あのクエンティン・タランティーノ監督も、2010年公開作のベスト映画ランキングで、『ソーシャル・ネットワーク』などを押さえて本作を1位として評価している。
本作が傑作と歌われる所以のひとつは、シリーズ1作目『トイ・ストーリー』(1995)、2作目『トイ・ストーリー2』(1999)に続く物語を締めくくる、感動的なラストシーンによるところが大きいと言って異論は少ないだろう。1995年米公開の第1作目から15年、当時子どもだった世界中の観客と同じように成長したアンディは、大学進学を目前にして、大好きなオモチャたちとの別れを告げることになる。
この記事には、『トイ・ストーリー3』(2010)のネタバレが含まれています。
『トイ・ストーリー3』ラストまでのおさらい
ウッディは、アンディと共に大学の寮に引っ越すことになっていた。仲間たちと別れの言葉を交わしていたところ、アンディと母が部屋にやってくる。「ずっと一緒にいられたら良いのに」と寂しがる母に対し、別れなければいけない運命を認めている様子のアンディの姿を見たウッディは、自分もアンディの元を離れるべきであり、仲間たちと共に新しい持ち主の元へ行くべきなのだと悟る。「屋根裏」行の段ボールに滑り込むウッディは、とっさにアンディへのメモ書きを残した。それを見たアンディは、少女ボニーへオモチャたちを譲ろうと決意するのだ。
無邪気なボニーが、かつての少年アンディを思い起こさせるようにオモチャで遊ぶ庭。1995年の『トイ・ストーリー』から勇気あふれる冒険を繰り広げたオモチャ達が、その心優しい持ち主の手によって、最後に一体ずつ紹介を受ける。ジェシーは西部イチのカウガール。そして、動物が大好きな彼女の相棒、ブルズアイ。アンディにとって、これらはただのオモチャではない。それぞれに個性を持った、かけがえのない仲間たちなのだ。
アンディは誇らしげに紹介を続ける。臆病者のレックスを、アンディは「地球上で一番恐ろしい恐竜」と称え、ミスター・ポテトヘッドとミセス・ポテトヘッドには「愛し合っているから、一緒にしといてね」と気遣う。時には身体を張って活躍したスリンキーの勇姿をアンディは直接目にしたことはないが、ちゃんと「どんな犬よりも忠実なんだ」と分かっている。おっとり者のハムには「悪者ドクター・ポークチョップ」というカッコいい役割を与えていた。エイリアンの3体は「ピザ・プラネット」からやって来た仲間たち。『トイ・ストーリー』1作目、アンディが小さい頃より憧れていた場所からの使者だ。
とっておきはバズ・ライトイヤー。「最高にカッコいいよ!」とアンディは子供に戻って興奮をボニーと分かち合う。空も飛べるし、レーザーも撃てるんだ。「無限の彼方へ、さぁ行くぞ!」勇気あふれるこのセリフは、いま、ボニーの小さくて無垢な指で再生された。幸せそうな顔で、ボニーを取り囲むオモチャたち。これは、『トイ・ストーリー』物語のカーテンコールだ。そして同時に、ボニーという次世代へと受け継がれる継承の儀式でもあった。
ここで終わらない。ボニーは段ボール箱の中に、まだ何か残されていることに気付く。いるはずのないウッディが、柔らかに横たわっていたのだ。「おれのブーツにゃ、ガラガラ蛇!」ボニーは『トイ・ストーリー3』の中で、既にウッディと親友になっていた。受け取ろうとするボニーの手を、アンディはとっさに避けてしまう。「こいつだけは、渡せないんだ」というような目で……。
『トイ・ストーリー3』公開当時のメディアの評価
ここで、公開当時、海外メディアが涙をにじませたレビュー記事を掘り起こしてみよう。映画評論家のオーウェン・グレイバーマンは英Entertainment Weeklyに「男性の皆さんへ:『トイ・ストーリー3』で泣いても良いんですよ」と題した記事を書き、ちょっと恥ずかしくなるくらい、オンオン声をあげて号泣したことを認めている。
「『トイ・ストーリー3』のラストシーンは、実に様々なレイヤーがある」とオーウェンは分析する。「最もシンプルなところで言うと、もちろん、帰郷だ。」命がけの危機を脱したウッディとバズ、その仲間たちは、ついに新しい居場所を見つける。オーウェンはこれを「クラシックなハッピー・エンド」と呼ぶ。そして、アンディからボビーへとオモチャが紹介されるシーンは、アンディが大人へ成長を遂げる様だといい、「懐かしさ、喪失感、友情、そして生まれ変わり。これらがいっぺんに訪れる」と記した。
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