シャマラン最新作『Trap』最速レビュー ─もし『羊たちの沈黙』がテイラー・スウィフトのコンサートで起きたら?というアイディアから生まれた究極のスリル

(カナダ・トロントから現地レポート)『シックス・センス』など、“どんでん返し”作品を生み出す天才、M・ナイト・シャマラン監督の最新作『Trap(原題)』が2024年8月2日に北米公開を迎えた。テイラー・スイフトを彷彿とさせる人気シンガーのコンサート会場を舞台に、巨大な密室と化した会場から殺人鬼が脱出を試みる物語。殺人鬼“ブッチャー”役は、『パール・ハーバー』などで知られるジョシュ・ハートネット、ポップスターのレディ・レイブン役は、シャマラン監督の実の娘サレカ・シャラマンが務めた。
本作は、ジョシュ・ハートネット演じるクーパーが愛娘ライリーを超人気歌手レディ・レイヴンのコンサートに連れて行くシーンからスタートする。しかし彼はトイレに行くと、スマホを取り出し監禁している青年の様子をチェック。クーパーは、娘には優しい父親として接する一方、裏では恐るべき殺人鬼“ブッチャー”としての顔を持っていた。
そんなクーパーは会場内の至る所に監視カメラがあることや、多くの警察が配置されていることに気づく。クーパーは物販で働くスタッフにそれとなく近づき、カメラのことを尋ねると、ブッチャーを捕まえるためにコンサート会場全体が警察による“トラップ(罠)”になっていることを告げられる。クーパーは娘に怪しまれないようになんとか脱出する方法を見つけ出していく。
シャマラン監督は、2024年7月にEmpireに対し、「もし『羊たちの沈黙』がテイラー・スウィフトのコンサートで起きたら」というアイディアから本作が生まれたことを明かしている。また、実際に1985年にワシントンD.C.にて行われたおとり捜査「フラッグシップ作戦(Operation Flagship)」からも着想を得たそうだ。
「フラッグシップ作戦」は、指名手配犯たちに架空のテレビ会社から「スポーツゲーム観戦チケットが当たる」という招待状を送りつけ、会場に集まった指名手配犯101名を逮捕したおとり捜査。覆面捜査員は6週間訓練を受け、当日はタキシードを着た案内係、チアリーダー、司会者、配膳係、マスコット、メンテナンス・スタッフなどに変装していた。
本作では、この実際の事件から得たアイディアと、若者たちが熱狂し大声を出すコンサートの雰囲気、そしてクーパーを演じたジョシュの恐ろしい演技が見事に融合し、よりスリリングなものに仕上がっている。クーパーが殺人鬼であるというどんでん返しは予告編でも少し触れられているが、映画本編には、さらに予想外の展開が待ち受けている。ちなみに、『ヴィジット』や『オールド』など、シャマラン監督作品独特の不気味さは控えめであるため、ストレートなスリルを味わいたい方にオススメしたい一本。
また、「密室からなんとか抜け出す」という作品は、主人公に感情移入しやすく、応援しやすいもの。しかし本作は、クーパーがサイコパスのため、感情移入しづらいのが興味深いポイント。これはシャマラン監督の斬新なストーリーテリングの技法の一つだ。
そして本作では、キャッチーな曲たちにも注目が集まっている。レディ・レイヴンを演じたサレカ・シャマランは、女優の他にR&Bシンガーとしても活躍しており、この映画のために14曲のオリジナル曲を書き下ろした。実際に歌もピアノも彼女が披露している。父と娘のコラボレーションがあったからこそ、この迫力ある映画が誕生したと言えるだろう。『Trap』の日本公開は未定。
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