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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』前監督コリン・トレボロウの降板をめぐる謎 ─ 「構想が悪いわけではなかった」キーパーソンの証言を検証

コリン・トレボロウ
Photo by Red Carpet Report on Mingle Media TV https://www.flickr.com/photos/minglemediatv/23481531320/ Remixed by THE RIVER

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、スカイウォーカー・サーガの完結編にして、『スター・ウォーズ』新3部作のなかではもっとも紆余曲折を経た作品だ。当初、脚本・監督には『ジュラシック・ワールド』(2015)のコリン・トレボロウが就任していたが、2017年9月、作品へのビジョンがルーカスフィルムとは異なるとして、降板が決まったのである。

劇場公開を控えた今、ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディ社長は、トレボロウの降板について新たにコメントした。なんとケネディ社長は、米io9にて「(トレボロウの構想が)うまくいかなかったとは言いません」と語ったのだ。では、なぜ降板劇は起こってしまったのか?

コリンはとても不利だったんですよ。『フォースの覚醒』(2015)や、初期段階の話し合いに参加していなかったので。私たちには、物語がどこへ転がっていくかという共通認識がありました。どんな映画を企画する時でも同じですが、開発段階で最初の草稿を検討していた時に、“これこそ私たちがやりたいことだ”とは思えないものだったんです。それに、私たちにはスケジュールがあります。しばしばあることですが、決まっている予定通りに進められそうかどうか、という厳しい判断をしなければなりませんでした。申し上げたように、コリンは不利だったんです。『フォースの覚醒』で始まったもののすべてに熱中していたわけではなかったから。」

トレボロウの降板が報じられた直後から、ルーカスフィルムは、トレボロウとデレク・コノリーによる『エピソード9』の脚本に納得していなかったとの情報が伝えられていた。トレボロウは脚本の改稿を重ねており、ケネディ社長の関係は「手に負えないものとなっていた」というのだ。しかし、今回ケネディ社長が語ったところによれば、脚本のトラブルは、トレボロウが新3部作の開発初期から参加していなかったために、ルーカスフィルム側との認識が異なったことが原因だったということになる。

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(エピソード9)
キャスリーン・ケネディ、J・J・エイブラムス (C) 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

実際のところ、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にトレボロウとコノリーは「原案」としてクレジットされている。この事実が明らかになったのち、トレボロウは、脚本・監督のJ・J・エイブラムスが「僕たちのアイデアを部分的に使ってくれた」と認めていた。それから、皇帝パルパティーンの再登場はJ・Jのアイデアなのだとも。

The New York Timesにて、ケネディ社長はトレボロウの降板を「友好的」なものだったと振り返っている。しかし、それならば、なぜトレボロウはプロジェクトを去らねばならなかったのか。降板直後、トレボロウについては「彼は自己中で、いつも”自分自分”だった」「気難しくて、とても強気な男です」というネガティブな証言が匿名の関係者から飛び出していたが、これが事実なら、とても友好的な降板とは考えづらいのである。

しかしながらケネディ社長による最近の証言は、決して首尾一貫しているとは言いがたい。同じくThe New York Timesでは、「(トレボロウの構想が)私たちの話してきた方向性ではないと気づいた時には、まだ脚本の初稿も受け取っていなかった」と話しているが、ルーカスフィルムは「最初の草稿を検討していた」のではなかったのか。それとも、草稿はまったく提出されないまま降板が決まったのか。トレボロウが改稿を重ねていたという報道は……。

また、トレボロウの降板について「『フォースの覚醒』や初期段階の話し合いに参加していなかったのでコリンは不利だった」「私たちには、物語がどこへ転がっていくかという共通認識があった」と語ったのと同じインタビューで、ケネディ社長は「なぜ3部作の調子をあらかじめ固めなかったのか」との質問には「スター・ウォーズに固められるものなんてない」「可能性に満ちているから、何も先に決めてしまう必要なんてない」と答えている。本当に何も固まっていなかった、決まっていなかったのだとしたら、トレボロウは、いったい何に対して、どう不利だったのだろう。

降板を経た2018年5月、トレボロウは一連の真相について尋ねられると、「あまり多くをお話ししたくないんです」と答えている。

「ファンのみなさんの見方に影響を与えたくない。子供の頃、『スター・ウォーズ』は遥か彼方からやってくるもの、贈り物でした。どうやって作られているのかを語れば語るほど、実はただの映画だということがあらわになってしまう。だけど『スター・ウォーズ』はただの映画じゃない、それ以上のものです。」

真相は謎に包まれているが、少なくとも、トレボロウは『スカイウォーカーの夜明け』が公開されることを喜んでいるようだ。アイデアが採用されたことについては「僕たち全員が必要だと思ったシーンを観てもらえるのが楽しみです」と述べ、本作で自身に支払われる再使用料は、イギリス・バークシャーにある小児科のホスピスに寄付する方針だというのである。

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Sources: io9, The New York Times, Empire

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。