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『バットマン フォーエヴァー』ヴァル・キルマー、なぜ1作だけで降板したのか ─ 「バットマンは問題じゃない、バットマンなんて存在しない」

バットマン フォーエヴァー
© Warner Bros. Entertainment, Inc.

DCコミックスが誇る人気ヒーロー、バットマン/ブルース・ウェインは、これまで多くのスター俳優が演じてきたキャラクターだ。近年は『ダークナイト』3部作のクリスチャン・ベール、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)のベン・アフレック、そして次回作『ザ・バットマン(原題:The Batman)』ではロバート・パティンソンが演じる。

そんな中、一作だけの出演にもかかわらず、いまだ一部に根強いファンを持つのが『バットマン フォーエヴァー』(1995)のヴァル・キルマーだ。しかし、『トップガン』(1986)や『ドアーズ』(1991)などを経てバットマン役に就任したキルマーが、その後バットスーツを身にまとうことはなかった。なぜキルマーは、たった一作かぎりでバットマン役を降りたのか。

もともと『バットマン フォーエヴァー』の撮影現場では、キルマーと周囲が衝突していたとの証言があった。しょっちゅう不平を口にしていたとか、無理な要求に及んだとか、常に役柄に入ったままであったがゆえに、共演者に対する礼儀を著しく欠いていたとか。当時のプロモーションでも、キルマーはバットスーツへの不満をしばしば口にしている。

『バットマン フォーエヴァー』と続編『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997)のジョエル・シュマッカー監督は、2017年、米The Hollywood Reporterでキルマーに苦言を呈していた。「『バットマン フォーエヴァー』のワールドツアー中、彼は調子に乗っていた」「『D.N.A./ドクター・モローの島』(1996)にマーロン・ブランドが出るというんで、そっちに出たがって(続編を)土壇場で降板したんです」。一説には、キルマーの降板は『セイント』(1997)とのスケジュールが合わなかったためだという説もある。ともあれ、いずれにせよシュマッカーのキルマーに対する印象は良くなかった。映画の撮影終了後、監督はキルマーを「サイコ」と呼んでいるほどだ。

バットマン フォーエヴァー
© Warner Bros. Entertainment, Inc.

しかしキルマーの降板については、いささか一方的な主張が続けられてきた感も否めない。このたび米The New York Timesでは、キルマー自身が『バットマン フォーエヴァー』を回想し、貴重なエピソードを語っている。撮影中のある日、投資家で富豪のウォーレン・バフェットが、孫とともにセットを訪ねたことがあったというのだ。キルマーはバットスーツを脱ごうとしていたが、バフェットたちがバットマンを見たがるというので、やむなくバットスーツを着ていることになった。しかし、当の本人たちはバットマンと話したがることはなく、マスクをかぶりたがったり、バットモービルに乗りたがったのだという。

キルマーは「バットマンが問題なんじゃない、バットマンなんて存在しないんだ」と話している。すなわち、キルマーはその時、バットマンには“本物の人間”であることを要求されないのだと考えたのだ。人はバットマンを見る時、バットマンの中に自分自身を見るもので、したがって匿名でなければならないのだと。「だからバットマンを演じられる俳優が5人も6人もいるんですよ」。この分析が正確かどうかはおいておくとしても、キルマーがモチベーションを奪われたことは確かだろう。のちに、キルマーがバットスーツへの不満を語ったことにも、なんらかの関係があったのではないかと邪推するのは野暮だろうか。とにかく確かなことは、その後、キルマーが続編への出演を断ったこと。後任にはジョージ・クルーニーが選ばれている。

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Sources: The New York Times, The Hollywood Reporter

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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