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『ウエスト・サイド・ストーリー』音楽の魅力とその余韻

ウエスト・サイド・ストーリー
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

スティーヴン・スピルバーグ監督が名作ミュージカルを再映画化する『ウエスト・サイド・ストーリー』が、2022年2月11日(祝・金)より公開中だ。2022年(第94回)アカデミー賞では、主要3部門(作品・監督・助演女優賞)を含む7部門にノミネートされたことも大きな話題となっている。

名曲の数々がスクリーンを彩る本作について、音楽ライターの服部のり子氏が魅力を解説する。

『ウエスト・サイド・ストーリー』音楽の魅力

スピルバーグ監督が名作『ウエスト・サイド・ストーリー』を新たに製作するというニュースを目にした時、どんな作品になるんだろう、とワクワクする期待感と共に、チャレンジャーだなという思いも正直あった。あの不朽の名作なのだ。ジェローム・ロビンスの振付も、レナード・バーンスタインの音楽も、スティーブン・ソンドハイムの歌詞も、全て誰もマネ出来ない領域のもの。そんな至高の作品にスピルバーグ監督は、挑戦したのだ。

結果から言ってしまうと、作品は素晴らしい。観終わった時、映画に拍手をしたのは久しぶりだった。3万人から選ばれたヒロイン、マリア役のレイチェル・ゼグラーがソロで、またアニータ役のアリアナ・デボーズと2人で歌うシーンでは「スター誕生」という言葉が何度も浮かんだ。ロビンスに代わり、新しい振付を担当したジャスティン・ペックのダンスもシーンごとに心に残っている。

でも、やはり一番は音楽だ。

スピルバーグ監督は、子供の頃『ウエスト・サイド・ストーリー』のブロードウェイ・オリジナルキャスト盤を全曲暗記するまで夢中で聴き、家族にうんざりされるほど歌っていたという。その音楽を今回バーンスタインに代わり、ベネズエラ出身のグスターボ・ドゥダメルがレコーディングで指揮した。演奏するのは世界トップクラスのニューヨーク・フィルと一部ロサンゼルス・フィルが携わった。

ドゥダメルは、映画に関わる前から劇中歌の「Mambo(マンボ)」をコンサートでたびたび取り上げてきたが、オーケストラのメンバーが舞台上で突然踊りだしたり、観客が“マンボ”と叫ぶ熱いパフォーマンスで絶賛されている。その動画を観た嵐の松本潤さんが惚れ込み、TV番組の企画で会いたい人として、ドゥダメルの名前を挙げたエピソードは有名だ。

ドゥダメルは、無償で音楽教育を受けられるベネズエラの“エル・システマ”で学んだ。治安が悪い地域や経済的に余裕がない家庭の子供達が音楽に取り組むことで、将来の夢を持ち、それを実現させたり、自分の居場所、仲間を得る機会にもなったりしている。ドゥダメルは、神童と言われた突出した才能で世界に羽ばたき、41歳を迎えた現在、ロサンゼルス・フィルの音楽・芸術監督、エーテボリ交響楽団首席指揮者、ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団音楽監督、パリ・オペラ座の音楽監督を兼任している。

そんな彼が作り出す『ウエスト・サイド・ストーリー』の音楽。「Mambo(マンボ)」や「America(アメリカ)」などではラテンの血を感じさせる。とくに「Mambo(マンボ)」は、さすがで、きらびやかでキレのいいホーンがダンスを盛りあげつつ、演奏がだんだんスリリングになっていく。サントラを聴いていても、あの場面の緊張感が蘇ってくる。テンポの速い曲での疾走感や躍動感、どの曲にも生き生きとした鮮やかな勢いがあり、ダイレクトに心に、体に響いてくる。また、「Tonight(トゥナイト)」や「Maria(マリア)」などのバラードでは空気をじわじわと情感で染めていくような繊細な演奏に心奪われる。

そして、その音楽を通してエル・システマで学ぶ子供達と、閉塞感のなかで社会への不満や怒りを募らせ、それが敵対する「ジェッツ」と「シャークス」という人種の異なるチームで闘いあう、映画の若者達の姿が重なり合う。彼らも居場所、夢を求めているのだ。そんな思いがより音楽の感動を深める。

ウエスト・サイド・ストーリー
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

また、キャストの歌もすごくいい。ミュージカルにおいて歌はセリフだ。どう発音するか、どう発声するかで、伝わり方が全然違ってくる。25歳の時にこの作詞を手懸けたソンドハイムは、その後ブロードウェイ・ミュージカルで名作を生み出す巨匠となり、昨年11月に惜しくも亡くなられたが、生前この映画化に関わり、レコーディングにも立ち会っていたと聞く。ヴォーカル監修・指導はシェニン・テソリが担っているが、その成果は、少なからず歌に反映されているはずだ。

そう感じる曲のひとつにマリアが恋するトニーが働くドラッグストアの店長、バレンティーナ役のリタ・モレノが歌う「Somewhere(サムウェア)」がある。リタは、61年のオリジナル版でアニータを演じて、アカデミー賞助演女優賞を受賞した女優だ。原作では店長は男性だったけれど、今回製作総指揮も務めるリタが演じるために女性に入れ替えた。そんな彼女が深い悲しみのなかで歌う「Somewhere(サムウェア)」には人生が刻まれていて、まさに生きた歌が聴ける。

ウエスト・サイド・ストーリー
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画の見どころは、書ききれないほどある。衣装や干されている洗濯物の天然色のカラフルさ。1950年代のニューヨークが舞台だけれど、社会にはびこる問題は今も変わらずにある。あらゆるところからメッセージを受け取ることが出来て、考えさせられることもいっぱいある。

それでも、と思うのはスピルバーグ監督が「まるで私の一部であるかのようだし、ミュージカルのために書かれた最高峰」と称賛する音楽にじっくり耳を向けてほしいということ。きっと鑑賞後の余韻が違ってくるはずだ。

最後に1月に発表されたゴールデングローブ賞コメディ/ミュージカル部門で、最優秀主演女優賞(レイチェル・ゼグラー)、最優秀助演女優賞(アリアナ・デボーズ)、そして作品賞を受賞した。3月にはアカデミー賞の発表がある。何部門の受賞となるか、勝手に予想しながら授賞式を待ちたいと思う。

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は2022年2月11日(金・祝)より公開中。

文:服部のり子
音楽ライター。東京生まれ。レコード会社勤務を経て、フリーランスになる。現在洋楽を中心に雑誌、新聞、ウェブでの執筆に加えて、ラジオ番組の企画・構成、さらに航空会社の機内番組の選曲なども行う。ミュージカルに関してはJ-WAVEで2021年まで放送されていた番組『WE/LIVE/MUSICAL』の構成を担当。

Writer

THE RIVER編集部
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