【解説レビュー】『ワンダーウーマン』を深く読み解く3つのキーポイント ― 原作コミック、ヒーロー性、ロマンス

8月25日に全国公開されたパティ・ジェンキンス監督の映画『ワンダーウーマン』。DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)の新たな作品であり、これまである種の鬼門とされていた女性ヒーローが主役の作品です。今作はワンダーウーマンのヒーローとしての魅力と、アマゾネスの楽園であるセミスキラ(セミッシラ)の姫、ダイアナのパーソナリティを掘り下げた上で、ド迫力のアクションと、切ないロマンスを描いた物語でした。
今作にはワンダーウーマン/ダイアナというキャラクターを理解するにあたって重要な点が大きく分けて3つあります。そこで本記事では、それらがいかに重要なのかをひとつひとつ解説いたします。
①映画のモデルとなった作品
- ジョージ・ペレズ『Wonder Woman』シリーズ
- ブライアン・アザレロ『Wonder Woman:Blood』以降のシリーズ
映画『ワンダーウーマン』のいわゆる原作コミックに該当するのは、ジョージ・ペレズを筆頭にレン・ウェインやグレッグ・ポッターが手がけた1987年に連載された『Wonder Woman』シリーズと、2011年に連載されたブライアン・アザレロの『Wonder Woman:Blood』から始まるシリーズとなっています。他にも様々な要素を取り入れていますが、だいたいはこの2つと言って大丈夫です。
セミスキラ周辺の設定はジョージ・ペレズ版から
映画『ワンダーウーマン』にてダイアナが生まれ育ったセミスキラや、今作のヴィランにあたるアレスの設定はジョージ・ペレズ版の『Wonder Woman』から多くを取っています。奴隷として虐げられていたアマゾネス(アマゾン族)が立ち上がり、反旗を翻しましたが、ある事情があって神々によって保護された楽園セミスキラに匿われたというのと、ゼウスの息子にして戦争を司りし神のアレスの目的がゼウスの愛する人間を滅びに向かわせるといった設定がそれにあたります。
男達に虐げられ、裏切られた過去からセミスキラのアマゾネス、とりわけ女王のヒッポリタは外の世界を“Man’s World”と呼び、忌避します。概ねセミスキラの「外の世界」を意味する“Man’s World”は「男の世界」と読みますが、「人間の世界」とも読みます。このダブルミーニング、トリプルミーニングは映画『ワンダーウーマン』をヒーロー映画としてだけでなく、フェミニズム的観点から理解する上で非常に重要な意味を持っています。
アレスの外見・性格はジョージ・ペレズ版、人間の姿はブライアン・アザレロ版から
アレスのキャラクターは原典も映画も共通して「人間の残忍性は神の支配と導きよりも遥かに強大だ」という主張で共通しています。映画でのアレスは戦争を激化させる助言をあくまで囁く程度に留めており、ジョージ・ペレズ版のコミックではアメリカの軍の高官を秘密裏に支配して核戦争を起こさせるという非常に直接的な行動を起こしました。ある意味で相反する行動ですが、どちらもワンダーウーマンに対して「人間の残忍性は本来持っていたものであり、戦争の神による支配と誘導はむしろ枷でしかない」という結論に至っています。
またアレスの人間時の外見はブライアン・アザレロの『Wonder Woman』にてプリンセス・ダイアナと師弟関係であった戦の神“ウォー(WAR)”という老人を基にしています。外見のモデルになった作品のアレスはまだ純粋な少女だったダイアナと出会っており、その時は筋骨隆々の戦士として彼女を指導しています。ここで描かれたダイアナとアレスの関係は映画ではオミットされましたが、映画でも老人としてのアレスはダイアナを戦場に導き、人間の残酷さを理解させるキャラクターとして動いています。ある意味で神のアレスはダイアナに外の世界(Man’s World)を教える第一次世界大戦時の社会の体現者と言えます。
ダイアナの素性はブライアン・アザレロ版、精神性はペレズ版から
ワンダーウーマン/ダイアナが女王ヒッポリタとゼウスの娘であるという設定はブライアン・アザレロ版から来ています。これによってダイアナは他のアマゾネスよりも遥かに強大な力を持っていますし、設定のモデルとなったブライアン・アザレロ版『Wonder Woman』シリーズではブレスレットを外すとゼウスの力を解放できるというものがありました。
また、ワンダーウーマンのフェミニズム要素を理解するには彼女の精神性の出自が重要となります。ワンダーウーマン/ダイアナはギリシャ神話に関連の深いヒーローですが、彼女のパーソナリティはギリシャ神話の物語性とも違うものです。ワンダーウーマンのヒーローとしての最も重要な特性は、彼女が人間達にとって未知の価値観と奔放さを持った異邦人であることです。その気質はギリシャ神話ではなくアマゾネスの、気高く生き、自由と望みを束縛する存在と戦ってきたという出自から来ています。