【解説レビュー】『ワンダーウーマン』を深く読み解く3つのキーポイント ― 原作コミック、ヒーロー性、ロマンス

このことは映画『ワンダーウーマン』のセミスキラの設定がジョージ・ペレズの『Wonder Woman』から着想を得ていることからもわかります。アマゾネスはギリシャ神話の英雄ヘラクレスが率いる男の軍団と長らく争っていました。しかし、ヒッポリタがヘラクレスと恋に落ちて、愛し合ったことで争いは和解へと繋がりかけます。ですがヘラクレスの目的はヒッポリタの自分への気持ちを利用することでアマゾネスを簡単に制圧することであり、男に手酷い形で裏切られたヒッポリタは外の世界(Man’s World)を拒絶するようになっています。映画も同じ経緯かはわかりませんが、ダイアナは男に裏切られて辱めを受けた女性の意志を継いでおり、そこから来る憎悪は引き継がずとも、弱い立場の人々を解放することに深い拘りを見せていました。
そして映画版『ワンダーウーマン』でも、こうした要素はヒーローの冒険活劇として表現されていたのです。
②ワンダーウーマンは弱者の精神的解放を求める
ワンダーウーマンのヒーロー性は虐げられる人々の“解放”と“自己表現”
ヒーローとは人々から影響を受け、そして人々に影響を及ぼすものです。
例えばスーパーマンは人々に身近な人を助ける精神性を持たせ、バットマンは犯罪と戦う勇気を与え、グリーンランタンは恐怖に屈しない意志を引き出し、フラッシュはローグスに犯罪者だろうと仲間や街やヒーローを愛せる心があると自覚させ、アクアマンは未知の存在へどう向き合うべきかを問いかけます。
そんな中、ワンダーウーマンの持つ精神性と人々への影響力は”社会の中で迷わず最善を尽くそうという闘志”にあります。コミックではワンダーウーマンの周囲には多くのサポートをしようとする人がいます。彼らに共通しているのは、老若男女問わず、社会を捨てることなく、その中でより良い世界や人生にするために高潔に生きようとすることです。
近年翻訳された『ワンダーウーマン:ザ・ライズ』の作者でもあるグレッグ・ルッカが描いた作品『Wonder Woman: The Hiketeia』にて、ゴッサムにて男達に人生を狂わされた姉妹の復讐をした女性をワンダーウーマンが保護するというエピソードがあります。ダイアナは追ってきたバットマンと敵対してでも女性を守ろうとしますが、彼女にきちんと仕事を与えて働かせています。ワンダーウーマンは虐げられる人々の味方ですが、あくまで弱い立場や苦境の人々を頑なに閉じ込めて守るのではなく、自分の力で立ち上がり、生きられるようにするサポートするのです。
これらの精神性と影響力は、映画『ワンダーウーマン』においても重ね重ね描かれています。
女性だけを救うのがワンダーウーマンではない
ワンダーウーマンはフェミニズム的側面が強いヒーローとされています。実際に、ワンダーウーマンが女性に“のみ”、ひときわ優しいと描かれているコミックも中にはありますが、彼女の思想はあくまで“性別・階級に囚われない個人の精神的解放”です。これはワンダーウーマンのオリジンが女性ではなく、男性であるスティーブ・トレバーを助けたことから始まる点を見ても明らかです。ワンダーウーマンが女性を助けるのは、バットマンが犯罪者を殴りスーパーマンが飛行機事故を救助するのと同じで、キャラクター性をシンボライズしたものでしかありません。
コミックで描かれるような“虐げられる女性の精神的救済と解放”というワンダーウーマンのフェミニズム性は、映画『ワンダーウーマン』では戦場の兵士たちに向けられています。
映画『ワンダーウーマン』には、コミックによく出てくる“力を持つ男性に虐げられる立場や力の弱い女性”はほとんど出てきません。登場する女性の9割は屈強なアマゾネスです。しかし今作においても、コミックにある“力の弱い女性を守り、奮い立たせて社会に立ち向かう”という一種のフェミニズム的な影響力はきちんと描写されています。その対象となるのが、戦争という社会で苦しみやトラウマを味わいながらも戦うスティーブ・トレバーをはじめとした兵士四人です。
ワンダーウーマンは女性だけでなく、虐げられたり不当な扱いを受けるすべての人の味方です。故に、今作ではスティーブ達こそがワンダーウーマンという作品における女性の立ち位置を担っています。これは外の世界(Man’s World)における第一次世界大戦という戦争社会では男も女も関係なく、誰もが虐げられる犠牲者であり、その状況を作った加害者でもあるからです。
兵士達の資質、ワンダーウーマンによる解放
ワンダーウーマン/ダイアナが解放するのは武力による身分や社会的慣習ではなく、人々の精神です。これは映画『ワンダーウーマン』でも大変に良く表現されています。ワンダーウーマンが接する人々は外の世界(Man’s World)にて兵士として生きる男達です。彼らは戦時下の社会で戦うことをやめるわけではありませんが、人種や社会的立場によって本来の資質を閉ざした生き方を強いられていました。