Menu
(0)

Search

【解説レビュー】『ワンダーウーマン』を深く読み解く3つのキーポイント ― 原作コミック、ヒーロー性、ロマンス

ダイアナが第一次世界大戦中の世界(Man’s World)にて出会い、未占領地域(No Man’s Land)でともに戦った兵士はスティーブ・トレバー、サミーア、チャーリー、酋長の4人です。彼らはそれぞれの生き方をしながらも、戦争や時代背景によって夢や資質を閉ざして、兵士として生きることを余儀なくされています。そんな4人の兵士がワンダーウーマンと出会い、その隣で戦うことによって、彼らは社会(Man’s World)から課せられた兵士としての技能ではなく、彼ら本来の才能によって事態を好転させます。

例えば語学が堪能で、優れた演技力を持ちながらも人種のせいで俳優を断念したサミーアは、自身の演技力によってドイツ軍に潜入しています。他にもPTSDに苦しむ狙撃手のチャーリーは射撃で役に立つことはありませんでしたが、持ち前の歌唱力によってダイアナが男性への愛に目覚めるムードを作り、その愛がアレスを倒す鍵となりました。物資の横流しをし、イギリス軍にもドイツ軍にも慕われている酋長は、敵地で車を調達し、戦いが終わった際にはまっさきにドイツ軍の兵士を気遣うことで人の善性をダイアナに見せています。そしてスパイであるスティーブ・トレバーは、自らのしていることが人を騙し、盗み、殺すという後ろ暗いことだと自覚しても任務を必死にこなしています。それでもダイアナと出会ったトレバーは目の前の人を迷わず助けようと動くダイアナに影響されて、命を守ろうと最善を尽くすヒーローとしての才能を見せました。

外世界(Man’s World)から未占領地域(No Man’s Land)へ

セミスキラから出てきた世間知らずの姫ダイアナは外の世界(Man’s World)で第一次世界大戦に参戦し、女性ヒーローとして未占領地域(No Man’s Land)で戦うことで多くを経験しています。島から出たダイアナは戦争中である外の世界(Man’s World)にて複雑な事情で思うようにいかない歯がゆさを味わいます。そんな彼女がワンダーウーマンとして真価を発揮したのが未占領地域(No Man’s Land)でした。こういった複雑な暗喩は女性ヒーローならではと言えます。

トレバー達は兵士としては際立った働きを見せることはほとんどありません。けれども彼らが大勢の命を救ったのは兵士としての技量ではなく、戦争という社会(Man’s World)によって諦めざるをえなかった持ち前の才気です。未占領地域のノーマンズランド(No Man’s Land)で戦う女性ヒーロー、ワンダーウーマンの心こそが彼らの本質を解放させ、大勢の命を守るに至らせました。それこそがダイアナがワンダーウーマンである最大の魅力なのです。

③ダイアナがスティーブ・トレバーに恋をする必然性

スティーブ・トレバーはコミックでも長らくワンダーウーマンが愛する男性として描かれてきました。彼はダイアナが初めて出会った男性であり、彼女を外の世界に連れていった存在です。しかし翻訳された多くのコミック、アニメにおいてワンダーウーマンの恋人はスーパーマンだったり、バットマンだったりとトレバー以外の人物となっています。

けれども、ワンダーウーマンの相手に最も相応しいのは空を飛んだり、強靭な精神性を持つヒーローではありません。1人の兵士として彼女を愛し、時には強さを、時には弱さを見せる“普通の人間”スティーブ・トレバーこそ、ダイアナがワンダーウーマンである上で最も相応しいのです。

映画で描かれたスティーブ・トレバーの弱さと強さ

女性だけの島、セミスキラは一種の理想郷です。住む人々は不老不死の命を与えられ、差別も貧困もなく、そこに住む女性達は日々、己の義務を果たしています。そこで生まれ育ったダイアナは未知の存在であるスティーブ・トレバーと出会い、理想郷セミスキラから程遠い混沌とした外の世界(Man’s World)に飛び出し、未知の光景と文化に魅了されます。

映画『ワンダーウーマン』においてもダイアナは戦時下の社会において人々の素朴な優しさや愛情に触れたり、アイスクリームのような美味しい食べ物に感動したりします。その一方でダイアナは人々がどれだけ残忍なことをするのかを目の当たりにしてしまいます。人間の善性と悪性の両方に触れたダイアナは、最終的には人々は悪しき面を持つが己の意志で善き面を表すことを知り、人の世界を守るのを決意します。

そんな人の世界(Man’s World)を愛したダイアナが人間として恋をしたのが他ならぬスティーブ・トレバーです。無垢で世間知らずのダイアナは、屈託のない瞳で「第一次世界大戦は悪しき戦争の神アレスが引き起こしている」と語り、スティーブ・トレバーへともに戦地へ行くよう頼んでいます。もちろんトレバーは第一次世界大戦を引き起こしたのはアレスではないと知っていますし、うやむやな口調で否定するような発言もしています。

Writer

小村健人村上 幸

DCコミックスと非ヒーローコミックスをメインに読んでいます。ユーロコミックスを原語で読むのが現状の目標です。好きなヒーローチーム:ジャスティス・リーグ・インターナショナル好きなヒーロー:たくさんのDCヒーロー(特にキース・ギッフェンがライターを担当した時のヒーローかヴィラン) salarmko@outlook.jpお仕事の依頼はこちらへ。

Ranking

Daily

Weekly

Monthly