【解説レビュー】『ワンダーウーマン』を深く読み解く3つのキーポイント ― 原作コミック、ヒーロー性、ロマンス

しかし、トレバーは物語の終盤までダイアナに第一次世界大戦を引き起こしたのがアレスではなく人間の意志であるとは強く断言しませんでした。それはトレバーも自分がスパイとして本心では望まないことをしているのは、全て誰かのせいであり、この苦しい社会も自分に責任はないと思いたかったからでしょう。そういった誰もが持つ弱さを抱えるトレバーだからこそ、この戦争は神が作ったものではなく人が作ったもので、自分も戦争を生み出した1人なのだとダイアナに告げ、ヒーローとしての最期を迎えるシーンが胸を打ちます。映画『ワンダーウーマン』のスティーブ・トレバーは若くて未熟なダイアナに人の世界(Man’s World)の可能性を伝えるヒーローでした。
ダイアナはスティーブ・トレバーに“世界”を見る
スティーブ・トレバーは、スモールヴィルという田舎で理想的な農家の夫婦に育てられた牧歌的なスーパーマン/クラーク・ケントでもなければ、暗黒都市ゴッサムで狂人達を相手に過酷な戦いを続けるバットマン/ブルース・ウェインでもありません。トレバーは弱さと強さ、ずるさと高潔さを持つ、人間の世界を象徴する男性であり、ダイアナは愛した世界と同じものを彼の中に見出して、人間としての恋をするのです。翻訳されたコミック『ワンダーウーマン:ザ・ライズ』でもダイアナは自身を愛することの達人だがロマンス(恋)は不得手だと表現しています。ワンダーウーマンのオリジンとは、理想郷セミスキラにて同胞を愛してきたダイアナが未知の存在であるトレバーによって人の世界に導かれ、人の世界を愛して彼に恋をすることだといえるでししょう。
主にジョージ・ペレズ版『Wonder Woman』シリーズとブライアン・アザレロ版『Wonder Woman:Blood』からのシリーズを下敷きとした映画『ワンダーウーマン』は、冒険とロマンスを両立させた質の高いヒーロー映画でした。そしてヒーローの戦い以外にも、ワンダーウーマンの精神性やキャラクターのフェミニズム的特徴と属性を入念に織り込んだ傑作でもあるのです。
cWarner Bros. 写真:ゼータ イメージ