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『ワンダーウーマン 1984』物語の舞台が「1984年」である理由 ─ 現代につながるテーマ性、監督が明かす

ワンダーウーマン 1984
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

DC映画『ワンダーウーマン 1984』は、第一次世界大戦のさなかを舞台にした前作『ワンダーウーマン』(2017)とはうってかわって、1984年を舞台とするダイアナ・プリンス/ワンダーウーマンの新たな物語だ。ブラジル・サンパウロでの「CCXP 2019」にて、脚本・監督のパティ・ジェンキンスは「前作ではワンダーウーマンの始まりを描きました。今回はワンダーウーマンを現代の世界に送り込みたかった」と話している。ならば、なぜ文字通りの現代ではなく、物語の舞台は「1984年」なのだろうか。

まず押さえておきたいのは、『ワンダーウーマン 1984』の製作チームが、かねてより本作を「独立した物語」としてアピールしてきたことだ。プロデューサーのチャールス・ローヴェンによれば、ジェンキンス監督は「『ワンダーウーマン』を引き継ぐ作品にすべきで、続編ではない」と考えていたという。今回のイベントでも、監督は『ワンダーウーマン 1984』と前作を繋げることは「課題ではなかった」と述べ、両者がそれぞれに独立した物語であることを強調。「時代は大きく異なりますが、ダイアナの完全なる進化を描きます」と話している。

「なぜ1984年なのか」。結論から言って、この問いかけに対して、ジェンキンス監督は直接の答えを語ってはいない。その答えは映画を観て確かめるべし、ということだろう。しかし監督は、遠回しながらも、かなり核心的な内容を同時に口にしてもいる。

「80年代は『ワンダーウーマン』はとても縁の深い時代ですよね。だから、彼女が登場するのは素晴らしいこと。けれども一番大切なのは、西洋文化(編注:ヨーロッパを基盤とする価値観や規範、信念、政治システムなど)が台頭した時代であり、私たちの暮らす現在の世界の成功も、その影響下にあるということです。現代の、現在進行形の価値観が台頭する中にワンダーウーマンを登場させたらどうなるのか、そこにはどんなヴィラン(悪役)が登場するのか、そこで何が起こるのか、ということに関心がありました。だから、とても必然的なことだったんですよ。」

『ワンダーウーマン 1984』に登場するキーパーソン――もはやヴィランと呼んでもいいのかもしれない――は、“テレビショッピングの帝王”と呼ばれるマックスウェル・ロードだ。予告編では「人生は良いものです。だけど、もっと良くなりますよ」「みなさんは求めるべきです。そして想像しましょう、求めていた全てを手に入れるところを」と語りかける。ちなみにジェンキンス監督いわく、ロードは「大衆に夢を売る男」だというのだ。

1984年当時、アメリカの大統領を務めていたのはロナルド・レーガン。冷戦が激化する中、「強いアメリカ」への回帰を目指して軍事支出を増やすかたわら、財やサービスに政府ができるだけ関与しない「小さな政府」路線を採用し、経済を市場の競争に委ねる姿勢を示した。なお、ドナルド・トランプ現大統領の政策はレーガンと比較されることも多く、時には“後継者ではないか”とさえ語られてきたほどだ(もちろん、具体的な政策には異なる点も多いのだが)。

いずれにせよ、こうした背景を踏まえてみると、テレビショッピングで「もっと求めろ」と人々の欲望を喚起し、「もっと欲しがれ」と消費を促す男が登場すること自体、いささか象徴的にも思えてくる。今回の予告編には、まさしく消費社会を代表する存在ともいうべきショッピングモールも印象的に登場するが、ここにも「70~80年代の映画にはショッピングモールがよく登場する」ということ以上の意味があるのかもしれない。

ちなみに「1984年」といえば、ジョージ・オーウェルによるディストピア小説『一九八四年』の存在も見落とせないだろう。こちらは「ビッグ・ブラザー」率いる一党独裁政治の中、歴史の改竄を仕事にする主人公が反政府活動に乗り出していく物語だが、監視社会を予見していたともいわれ、近年ふたたび世界的に読まれ直している作品。「1984年」という年号のチョイスが完全なる偶然とは考えづらいが、果たして……。

映画『ワンダーウーマン 1984』は2020年6月全国ロードショー

Sources: Collider(1, 2), Deadline

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。