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『ゾンビランド:ダブルタップ』日本最速レビュー ─ 残すべくところは残した、理想的な続編映画

ゾンビランド:ダブルタップ
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ところが、この10年の間にゾンビの方もパワーアップ。闇雲に襲いかかってくるゾンビの中に、人間のように思考する知能派タイプも出現した。彼らはこのゾンビを、スティーヴン・ホーキングにちなんで「ホーキング」と名付けた。それに、鉄則の「二度撃ち(ダブルタップ)」が通用しない無敵のゾンビも発見された。何度撃っても立ち上がるので、コロンバスは「T-800」と呼んで恐れる。「ターミネーター」ではなく、ちゃんと「T-800」と呼ぶあたり、コロンバスのオタクぶり(と、製作側の細かいユーモア)が感じられる。

ゾンビランド:ダブルタップ

前作では癖の強い一匹狼だったタラハシーは、今作はこの疑似家族の中で父親的な存在となり、特にリトルロックは娘のように大切にしている。一方のリトルロックも年頃で、この家族の元を離れたい反抗期。人付き合いが苦手だったコロンバスはすっかり心を開いて、活き活きしている。そしてウィチタとは恋人関係になっていて、結婚したいと考えている。

しかし、とある出来事からコロンバスはウィチタに振られてしまう。すっかり傷心のコロンバスのもとに、新たな生存者のマディソンが出現。マディソンは2000年代で時が止まったブリトニー・スピアーズかパリス・ヒルトンのようなキャラクターで、ショッピングモールの冷凍庫の中で隠れて暮らしていたから、モコモコ大袈裟なピンクのダウンジャケットを着ている。喋り方にもまるで知性がないが、これまで生存しているのだからそれなりの知恵はあるのだろう。派手なファッションとブロンドヘアは、このゾンビ社会には可笑しいほど似つかわしくない。こういうキャラクターを映画で見るのも、なんだか久しぶりなような。

ウィチタを失ったコロンバスは、サバイバル生活でそうとう欲求不満だったらしいマディソンと関係を持ってしまうが、そこにウィチタが加わったら、さぁ大変。2人の関係を悟ったウィチタの、石のように冷たい目つきと言ったら……。

ゾンビランド:ダブルタップ

ここでエマ・ストーンが見せる「元カノ」感が、成長を見せる4人のキャラクターの中でも特に面白い。『アメイジング・スパイダーマン』のグウェン役や『ラ・ラ・ランド』のミア役のおかげで、観客はエマの姿に「いい恋愛をした思い出」のような感覚を投影できる。そのエマが、冷めて呆れた顔で皮肉を投げてくるのが堪らない。前作ではスレたゴス・ガールだった彼女が、こんな軽蔑の顔を見せるようになったなんて!その隣では、時代錯誤なブロンド女がカンチガイ発言を繰り返していて……。マディソンを見るウィチタの目つきにもゾクゾクさせられる。

前作同様、誰もが楽しめる良作コメディ

コメディにはお国柄が出やすく、他の文化圏では理解できないギャグも多いから、実は観る人を選ぶと言える。ここで白状してしまうと、筆者は同じくゾンビ・コメディ映画である『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2009)があまりハマらなかった。『ショーン・オブ・ザ・デッド』はイギリス映画で、『ゾンビランド』シリーズはアメリカだから、両作の笑いの性質には違いが出て当然だ。何にウケるかは好みの問題になるが、筆者は『ゾンビランド:ダブルタップ』の繰り出すギャグに終始笑いっぱなしだった。アメリカ文化の予備知識が必要なメタギャグも構えるほどではないが、前作でゾンビと間違えられてうっかり殺されてしまった人気俳優ビル・マーレイについては、おさらいしておくことをオススメする。(と言っても、「前作でゾンビと間違えられてうっかり殺されてしまった」の一言で済むのだけれど。)

ゾンビランド:ダブルタップ

前作の翌年から「ウォーキング・デッド」が放送され世界的人気を博したことで、“ゾンビもの”には他作品との差別化が以前にも増して強いられるようになった。その作品群の中でも、『ゾンビランド:ダブルタップ』は、もともとシード権を獲得していたかのように見える。前作で既に際立っていた個性を、一流に成長した製作陣とキャストでもう一度楽しめば良いからだ。例えば、ゾンビ社会を生き抜くためにコロンバスがいくつものルールを設けている可笑しさや、バカバカしさたっぷりのゾンビ戦、時折カットインされる“ゾンビ・キル・オブ・ザ・イヤー”の表彰、そして不意にささやかな感動を呼ぶ、疑似家族の絆……。

残すべくところは残し、他は痛快にパワーアップさせた『ゾンビランド:ダブルタップ』は、総じて理想的な続編映画と言えるだろう。トドメの2発目も、笑いのツボをしっかり撃ち抜いている。

映画『ゾンビランド:ダブルタップ』は2019年11月22日(金)全国ロードショー。同日公開のディズニー映画『アナと雪の女王2』とは続編対決となる。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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