『007』シリーズのクリエイティブ権をAmazonが獲得、新体制で再始動へ ─ 業界やファンからの批判、乗り越えられるか

ジェームズ・ボンドを主人公とする人気スパイ・アクション、『007』シリーズの創造的権利をAmazon MGM Studiosが獲得することがわかった。北米メディアが相次いで報じた。
『007』シリーズは1962年の第1作『007/ドクター・ノオ』以来、MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)社のもとで製作されてきたが、2021年の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で“6代目ジェームズ・ボンド”ダニエル・クレイグが卒業したのち、2022年にAmazonがMGMを買収。85億ドルを投じ、『007』シリーズを含む同社のライブラリを手中に収めていた。
発表によると、Amazon/MGMは『007』シリーズのプロデューサーであるマイケル・G・ウィルソン&バーバラ・ブロッコリと新たな合弁会社を設立し、シリーズの知的財産権を管理する。したがって今後も三者が『007』シリーズを共同で保有するが、ウィルソン&ブロッコリは今後のプロジェクトには直接携わらず、Amazon/MGMがクリエイティブのコントロールを握ることになる。

Amazon MGM Studiosとプライムビデオを統括するマイク・ホプキンス氏は、「ジェームズ・ボンドは映画エンターテインメントの世界で最も象徴的なキャラクターのひとり」だとして、映画化に尽力したアルバート・R・ブロッコリ&ハリー・サルツマン、そしてウィルソン&ブロッコリのコンビに感謝を表明。「大切な伝統を引き継ぐことを光栄に思います。伝説の『007』の新章を世界中の観客にお届けできることを楽しみにしています」と述べた。
今回の契約をきっかけにウィルソンは映画業界を引退し、今後は「アートや慈善事業に注力する」とのこと。「バーバラと私は、信頼できるパートナーであるAmazon MGM Studiosがジェームズ・ボンドを未来へ導いてゆくことに同意します」とコメントを発表した。
ブロッコリも、「父でプロデューサーのアルバート・R・ブロッコリ氏から受け継いだ遺産を守り、さらに築き上げることに自分の人生を捧げてきました。007役を演じた才能あふれる4人の俳優や、数千人もの素晴らしいアーティストと密に仕事をする栄誉に恵まれました」と声明を公開。「『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を終え、またマイケルが映画界を去ることで、私も別のプロジェクトに集中する時が来たと感じています」。

米Deadlineの報道によれば、Amazon/MGMは『007』シリーズの創造的な権利を獲得するため、新たに約10億ドルを支払うとのこと。現時点で権利をめぐる契約は締結されておらず、内容の詳細も明らかになっていないが、既存の契約ではAmazon/MGMは『007』を自ら管理できず、なかなか新たな展開に踏み出せない状況にあった。
現時点で『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に続く新作映画は監督・脚本家が決まっておらず、ストーリーも未定。クレイグに代わる7代目ジェームズ・ボンドのキャスティングもほぼ進んでいない状態だといわれる。Amazon/MGMはこの状態を打開すべく、ついに決定的な一手を打ったのだ。
もっとも、ウィルソン&ブロッコリ体制の関係者をはじめとする映画業界人や『007』ファンの反応はきわめて悲観的だ。メディアやSNSでは、報道直後から「ひとつの時代が終わった」「フランチャイズにとって最悪の展開だ」「ジェームズ・ボンドは死んだ」などという言葉があふれた。
背景には、2024年12月にAmazon/MGMとブロッコリが激しく対立していると報じられたことがある。Amazon側は『007』のテレビシリーズ化やスピンオフ作品の製作を希望していたが、ブロッコリがこれを拒否。『007』はあくまでも劇場公開される長編映画であり、主人公はイギリス人男性が演じるジェームズ・ボンドでなければならないという姿勢を貫いていた。そうして『007』のブランドとイメージを守ってきたブロッコリが離脱する以上、もはやフランチャイズが崩壊してしまうのではないかという見方だ。

『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)でダニエル・クレイグを起用したような挑戦的なキャスティングがAmazonにできるのか? マーベル映画や『スター・ウォーズ』のようなユニバース化に取り組むとして、シリーズのブランドとクオリティは守られるのか? 数多のクリエイターによって築き上げられてきた世界観は維持されるのか? そもそも、Amazon主導の『007』はきちんと劇場公開されるのか、適切な宣伝は行われるのか?
こうした不信と懸念に対し、Amazon MGM Studiosはすでにいくつかの解決策を用意しているようにも見える。映画部門のトップには、ワーナー・ブラザースで長年のキャリアを誇ったコートニー・ヴァレンティと、Netflixから移籍したスコット・ステューバーがおり、2人はスタジオとしての新たな方向性に着手している。また、Amazonは長編映画の世界配給を今後は自社で行う計画で、2026年の部門設立を目指して迅速に準備が進められているのだ(Amazon/MGM作品の海外配給を現在担当しているワーナー・ブラザースとの契約は2025年いっぱいで終了する見込み)。
そうしたなかで明らかに初動を誤ったのは、Amazonの共同創設者・取締役会長であるジェフ・ベゾスだけだろう。報道の直後、ベゾスは「次のボンドは誰がいい?」とSNSに投稿したことで、多くの反応を得るとともに、メディアや既存のファンベースから早くもいらぬ不信を買った。

Amazon MGM Studiosとウィルソン&ブロッコリによる合弁会社は、現時点で規制当局の承認を待っており、一連の契約は年内に完了予定。『007』新作映画の準備が水面下で進められる可能性はあるが、本格始動はどれだけ早くとも2026年以降になりそうだ。7代目ボンドの登場までには、やはり向こう数年間を要するとみられる。
一連の報道を受け、6代目ボンド役のダニエル・クレイグもコメントを発表した。「バーバラとマイケルに対する私の尊敬と称賛、愛情は決して変わらず、また薄れることもありません。マイケルが長く、リラックスした(そしてふさわしい)引退生活を送れるよう願っています。また、バーバラの挑戦は素晴らしいものになることでしょう。私もその一員になれることを願っています」。
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Source: Variety(1, 2, 3), Deadline(1, 2, 3, 4), The Hollywood Reporter