『007』シリーズ製作陣とAmazonが対立か、準備全く進まず ─ 「脚本はない、ストーリーもない、新しいボンドもいない」

『007』シリーズの新作映画および、ダニエル・クレイグに代わる新ジェームズ・ボンド俳優のキャスティングが、プロデューサー陣とAmazon/MGMの対立によって停滞している? 米Wall Street Journalが、前作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)の公開以来、シリーズが「次回作にまったく近づいていない」との内情を報じている。
これまでジェームズ・ボンド映画は、1962年の第1作『007 ドクター・ノオ』以来、基本的に2~3年に1本のペースで製作されてきた。ボンド役がティモシー・ダルトンからピアース・ブロスナンに交代する際に6年、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では製作遅延とコロナ禍の影響で6年の空白が生じるという例外はあったが、長くともブランクは4年だったのだ。
しかし『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でクレイグがボンド役を卒業してから3年、いまだ新たなボンド役は決定しておらず、新作が動き出しそうな気配はない。その背景には、2021年にAmazonが『007』シリーズの製作会社MGMを買収したことがあるという。
AmazonがMGMの買収に65億ドルを支払ったのは、同社の保有するライブラリーを活用するためで、目玉はもちろん『007』だった。ところが、父親からジェームズ・ボンドの映像化権を譲り受けたプロデューサーのバーバラ・ブロッコリと、引退が近づくマイケル・G・ウィルソンは、長年にわたるブランドを守り抜くことを使命としてきた。MGM買収時には『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の劇場公開を確約させ、現在も脚本やキャスティングなどの最終決定権を保持している。
しかしブロッコリは、Amazonによるアルゴリズム主導のやりかたを信用していないようだ。報道によると、2024年秋の時点で、次回作について「脚本はない、ストーリーもない、新しいボンドもいない」と語ったという。友人との間では、Amazon側を「とんでもないバカたち」と批判したともいわれる。

当初、Amazonの幹部陣はうまくブロッコリを説得し、『007』シリーズをPrime Videoに取り込めると考えていたようだ。ところがAmazon側が考えた、ジェームズ・ボンドのドラマシリーズや『007』キャラクターのスピンオフなどはことごとく却下されたという。また、Amazon MGM Studiosのジェニファー・サルケCEOは、ブロッコリの前で『007』シリーズを「コンテンツ」と呼んだことで信頼を失ったとも……。
こうした話題のどこまでが真実で、どこからが噂にすぎないのかはわからない。確かなことは、Amazonの買収以降、ブロッコリが『007』の新たな動きにゴーサインを出していないことだ。関連作品としてリリースされたのは、リアリティ番組「007 クイズ!100万ポンドへの道」と、ドキュメンタリー『サウンド・オブ・007』だが、これらは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』以前から企画されていたものである。
「クイズ!100万ポンドへの道」シーズン1に関しては、Amazonの意向があまり反映されておらず、内部では視聴者の反応も好意的には受け止められていない模様。現在はシーズン2の製作中だが、Amazon側はこのリアリティ番組を通して、「ジェームズ・ボンドとはどのような存在か? 女好きで危険なスパイを評価するのは現代社会にとっていいことなのか?」を議論しているようだ。
“今後のジェームズ・ボンド像はかくあるべきか?”という点も、ブロッコリとAmazonのさらなる対立を招く一因となりうる。ウィルソンの息子であるグレッグ・ウィルソンは、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でアソシエイト・プロデューサーを務め、ボンド役の刷新に前向きなようだが、どのように刷新するかが問題だ。ブロッコリは周囲に対し、「有色人種や同性愛者の俳優が演じることにはなんの抵抗もない」としたうえで、「ボンドはイギリス人男性でなければならない」という強い信念を明かしているという。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』以降、ファンの間では新たなボンド俳優をめぐる予想合戦が続いており、現在は『クレイヴン・ザ・ハンター』(2024)のアーロン・テイラー=ジョンソンが最有力とされる。米The Hollywood Reporterは、テイラー=ジョンソンではなく『チャレンジャーズ』(2024)のジョシュ・オコナーが有力と見ているものの、現時点でこれらの情報がどこまで有用かも不明だ。『それでも夜は明ける』(2013)のスティーヴ・マックイーン監督が製作陣と面会したという噂もあったが……。
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Source: The Wall Street Journal, The Hollywood Reporter