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『007』脚本家、Amazon買収後のシリーズに危機感 ─ 「ジェームズ・ボンドはコンテンツでも商品でもない」

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
Credit: Nicola Dove © 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

007 スカイフォール』(2012)『007 スペクター』(2015)の脚本家であるジョン・ローガン氏が、米Amazon.comによるMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)買収後の『007』シリーズに危機感を表明した。

2021年5月26日、AmazonはMGMを84億5,000万ドルで買収することを発表。これにより、Amazonは『007』のほか、『ロッキー』『クリード』『ロボコップ』シリーズなどを手中に収めた。これを受けて、米The New York Timesには、ローガン氏による「AmazonとMGMの契約に戦慄した」とのコラムが掲載されている。ここでローガン氏は、『007 ドクター・ノオ』(1962)から約50年間、ジェームズ・ボンドというキャラクターを守ってきた存在の重要性を主張しているのだ。

「『007』はただのフランチャイズではない。マーベルやDCとは違う。ブロッコリ/ウィルソン一家が、時代の変化の中で丁寧に育て上げ、導いてきたファミリー・ビジネスなのだ。『スカイフォール』や『スペクター』の作業はディナーのテーブルで行われる温かいディスカッションのようで、バーバラ・ブロッコリと、彼女の異父兄であるマイケル・ウィルソンが乱暴な子どもたちに話をさせてくれる。クレイジーなおばさんも、エキセントリックなおじさんにも発言権がある。家族がそうであるように、話し合い、議論をして結論に至る。そこに外部の声はない。ボンド映画に関わるとは、ただ雇われることではなく、家族の一員になるということなのだ。」

ローガン氏が重要人物として指すのは、シリーズのプロデューサーであるバーバラ・ブロッコリ&マイケル・G・ウィルソンだ。映画づくりという困難の中、また観客の好みが変化する中、それでもジェームズ・ボンドを愛する人たちがシリーズを守り抜いてきたからこそ、現在のボンド映画があるというわけである。そしてローガン氏が危惧するのは、MGMを買収したAmazonが『007』の創作に介入するのではないかということだ。巨大企業のデータ分析が『007』に持ち込まれたら? マーケティングリサーチの中で、ボンドの飲酒や殺人を嫌がる声が上がったら? イギリス訛りではなく、アメリカ人らしい英語を要求されたら?

数々の映画に携わってきたローガン氏は、自身の経験から、「こうした懸念が創作の中で現実化すると、すべてが骨抜きになり、最も退屈で、最もたやすく消費されるものになる」と警鐘を鳴らす。「もはや映画は映画ではなく、無害な影のようなものになる。荒削りな部分、映画的な狂気は失われる。情熱の炎も少しずつ消え、もともとのアイデアや発想は、商業的な懸念と企業の監視、世論調査に組み込まれてしまう」。

もっともローガン氏は、Amazonという企業に悪印象があるわけではないと断っている。しかし、Amazonが全世界的な巨大企業であり、利用者を第一とする以上、作り手の創造性や作品の構想が最も守るべきものになることはないだろう、というのである。ディズニーの『スター・ウォーズ』や、ワーナー・ブラザースのDC映画を例に挙げながら、「巨大企業が有名キャラクターやシリーズを手に入れると、作品をより良くするのではなく、より数を増やそうとする傾向にある。品質の差はプロジェクトごとにまちまちだ」とも記した。

ローガン氏は、『グラディエーター』(2000)ではリドリー・スコット、『アビエイター』(2004)ではマーティン・スコセッシが、創作に関係のない声をきちんと弾いていたという事実を明かしている。「スタジオ映画の意義や芸術性、独自性は、企業による過干渉から常に守られている。それは作り手が守られた環境にいる時に起こることだ」。『007 スカイフォール』の場合、ブロッコリ&ウィルソンが外部と相談することなく、サム・メンデス監督やローガン氏のアイデアを受け入れていった。「これほど自由かつ大胆な喜びのある大作映画はそう多くない。しかしブロッコリ&ウィルソンが指揮を執ることで、ボンド映画は挑発的であること、成長を続けること、特殊なものであることを認められている」

プロデューサー陣の采配によって、『007』シリーズは企業のプレッシャーを回避し、独自の作風と存在感を保ってきた。映画業界のトレンドにのっとるかのようなユニバース化やスピンオフ作品の製作は行っておらず、テレビやストリーミングに進出することもしていない。ローガン氏は「Amazonが買収したものの独自性を認め、この風通しの良いファミリー・ビジネスの継続を許し、後押ししてくれることを願うばかりだ」と記した。

「ジェームズ・ボンドは“コンテンツ”ではないし、単なる商品でもない。数十年にわたり、彼は我々の人生の一部なのだ。ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナン、そしてダニエル・クレイグ。私たちはそれぞれの007とともに育ってきた。だからこそ、彼のことが心から心配だ。

どうか、007には安心してマティーニを飲ませてあげてほしい。揺さぶったり、かき混ぜたりせずに。」

なお、AmazonによるMGMの買収発表後、ブロッコリ&ウィルソンは「世界中の映画館の観客のため、ジェームズ・ボンド映画を作り続けていくことに尽力してまいります」との声明を発表。現時点では、次回作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のみならず、その後も劇場公開を続ける意向を強調した。

Source: The New York Times

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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