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『マイティ・ソー バトルロイヤル』でレッド・ツェッペリンが流れる理由は?大ヒット映画6作、あの曲たちの深読み考察集

ベイビー・ドライバー
© 2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

 現在絶賛公開中(2017年11月)のマイティ・ソー バトルロイヤルではレッド・ツェッペリン”Immigrant Song(移民の歌) “がメインテーマ的に使用されている。予告編でも流れていたので、本編を見ていない人にも印象は強く残っているのではないだろうか。伝説的ロック・バンドの代表曲だけあって、ソーのパワフルなアクションとの相乗効果が観客のボルテージを沸騰させる。しかし、映画を最後まで見ると単に楽曲のカッコよさだけの選曲ではなかったのだと判明する。“Immigrant Song”はソーたちのある決断の伏線となっていたのだ。

挿入歌は雰囲気だけではなく、作り手の明確なメッセージが込められているものだ。そこで本稿では、最近の大作映画を中心に、挿入歌に隠された意味を深読みしていきたい。 

Blue Monday(『アトミック・ブロンド』より

アトミック・ブロンド
© 2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
シャーリーズ・セロンが無敵のスパイを体当たりアクションで演じた『アトミック・ブロンド』(2017)。冒頭は、1989年のベルリンでMI6のスパイがKGBに殺されるシーンである。バックに流れているのはニュー・オーダーの大ヒット曲“Blue Monday”。いまだにクラブではDJが流しているほどのフロア・アンセムである。硬質なデジタルドラムとシンセサイザーの響きは80年代っぽいが、イアン・カーティスの死を歌っているという説もあり、全体的な雰囲気は不穏だ。カーティスはニュー・オーダーの前身バンド、ジョイ・ディヴィションのフロントマンで、1980年に自殺している。

曲調も該当シーンにはぴったりだが、そもそも「ニュー・オーダー」も「ジョイ・ディヴィジョン」もナチス・ドイツが世界に広めた言葉だ。「ニュー・オーダー」は「世界の秩序」を掲げるナチスのスローガンだったし、「ジョイ・ディヴィジョン」は強制収容所内にあった慰安所の通称である。つまり、本作のようなスパイアクションの冒頭に流れる“Blue Monday”は、ナチスやKGBのような全体主義国家の脅威を連想させるのだ。

Debra(『ベイビー・ドライバー』より

ベイビー・ドライバー
© 2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
Debra”はベックのアルバム“Midnight Vultures”(1999)収録曲。『ベイビー・ドライバー』(2017)主人公のベイビーが好きになる女の子の名前が「デボラ」であり、彼の恋心を表現した一曲として使用されている。

ベックはデビュー時、「ロウ・ファイ」サウンドのスターとして絶賛された。当時のベックは宅録でレコーディングし、決してクリアではない録音技術が逆に個性となって現れていた。現在のベックは最新アルバム“Colors”(2017)を聴けば分かるように録音には細心の注意を払って完成度の高いポップスを作り上げている。しかし、自宅で「俺は負け犬(“Loser”より)」と歌っていたころから「オタク気質」は変わっていない。身の回りの生活音や会話をサンプリングして音楽制作しているベイビーと通じる点がある。オシャレで才能もあるのにどこかナイーヴさを残すベックは、ベイビーのような現代っ子のロールモデルになりえたのだ。

Shake It Off(『SING/シング』より)

SING/シング
© 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.
SING/シング』(2016)最大の見せ場である一夜限りのコンサートで、専業主婦として暮らしてきたブタのロジータが歌う一曲だ。相方のグンターとのコンビネーションも楽しいが、今まで平凡な毎日に忙殺されてきたロジータがド派手な衣装に身を包み熱唱する姿に圧倒される。

元歌はいうまでもなくテイラー・スウィフト2014年の大ヒット曲である。恋多き女であるスウィフトはゴシップ記事の常連でもあり、華麗なる男性遍歴は大衆のやっかみの対象にもなってきた。しかし、“Shake It Off”では開き直ったように「男漁りはやめられない 動き出すのを我慢できない 頭の中で音楽をかけるみたいに」と歌い、アンチもヘイターも黙らせた。初めて自分の欲望に正直になったロジータの歌う一曲としてこれ以上のものはない。 

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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