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【取材】エア ジョーダン生みの親、単独インタビュー ─ 映画『AIR/エア』主人公ソニー本人が語る秘話【前篇】

──あなたがジョーダン家にアポなしで訪問したエピソードは事実ですか?

事実ではないです。アポなしで訪れたということはありません。あれは映画用に作られたものです。ハリウッドならではの脚色です。

「マンダロリアン シーズン3」「アソーカ」解説
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ただ、ああいう会話は実際に行われています。私とジョーダン夫人との関係性は次第に強まっていき、ラストシーンではついに全員で一部屋に集まりましたね。フィル・ナイトとロブ・ストラッサーが夫人に会ったのは、あのオレゴン訪問が初めてのことでした。あそこが歴史を動かした瞬間です。

今日では、残念ながら、ジョーダン夫人の夫は亡くなっており、私とマイケルも久しく会っていません。過去25年、私はナイキとは別のところで仕事をしていたからです。

──製作にはどのように参加されたのでしょうか。撮影開始の一ヶ月前になって初めて本作の企画を知ったそうです。

その通りです。脚本家のアレックス・コンベリーという若者が初稿を書いていたのですが、そのことも私は知りませんでした。彼はマンダレイ・ベイで仕事をしていて、過去には私のドキュメンタリー「Sole Man(原題)」(2015)を制作していました。

このアレックスという若者は南カリフォニリア大学の映画芸術部を卒業して、最初は有給インターンで「Sole Man」の編集を手伝っていたんです。だから間接的に私のことを知っていたんですね。彼はフィルムメーカーのために、60時間にも及ぶ映像素材を、6年がかりで編集作業をしてしたんです。私は彼に会ったことはありませんでしたが、彼の方は私をよく知っていたというわけです。

それから彼は、あの有名な映画『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』(2020)にも携わった。その当時、私はもうナイキで仕事をしていませんでした。1991年には離職していましたから。でも、マイケルのことをよく知っているからと、『ラスト・ダンス』内で喋ってほしいと声がかかったんです。それで自宅から30分出かけたところで3時間半のインタビューをやったんですが、結局本編では使われなかった。まぁ、映画制作とはそういうものです。

アレックス君は、その時の3時間半のインタビューも聞いていたので、私についての情報を知り尽くしていたわけです。28歳か29歳の方ですが、そんな彼が脚本を書いたと。初稿のタイトルは『AIR』ではなく、『マイケル・ジョーダンと契約した男(The Man Who Signed Michael Jordan)』だったんです。

それでね、ピーター・グーバーというハリウッドとアメリカン・スポーツ界の重鎮がいて、彼はゴールデン・ステイル・ウォリアーズやロサンゼルス・ドジャース(編注:いずれもプロ野球チーム)にも関わっているような、非常に成功した男なのですが。彼が1年半前、14~15ヶ月前の月曜日、スーパーボウルの試合の後に私と私の妻をロサンゼルスに招いたんです。グーバーと、プロデューサーのジョン・ワインバックをはじめ15人ほどの関係者たちがいて、そこで当時28歳か29歳の若いアレックス君に初めて会いました。

そこでピーターとビジネスの話になり、はっきりとこう聞かれたのです。「ソニー、あなたには本作に携わっていただきたい。でも、脚本も人事もこちらのやりたい様にやらせていただく。あなたにお願いしたいのは、コンサルタントを務めていただくことです」と。

私は公人なので、彼らはわざわざそんなことを頼まなくても良かったわけですよ。ご存知のように、公人とは、映画の中で製作者の望む様に描いても良いもの。公人とは公に晒され、世間から色々と言われるもので、それを制御することはできない。アメリカではそういう道理なのです。しかしグーバーは誠実な男で、きちんと私に監修を務めてほしいというんです。

コンサルタントとなった私は、いろいろな人と会うことができました。マット・デイモンとはZoomで1時間半ほど話しました。脚本のアレックス君も140マイルかけて私の家にやってきて、3時間半の初打ち合わせをやりました。彼の書いたもの全てに目を通し、そこで初めて彼がこういうものを書いてきたと実感したんです。

それから撮影現場にも招待されました。だから、グーバーに話をもらってからは、製作に深く携わっていました。しかし、脚本に直接手は加えていませんし、撮影現場でも特に何もしておらず、俳優たちの演技にも口出ししていません。

──つまり、マット・デイモンの演技にも特に意見をされなかった。

全く口出ししていません。彼は私の特徴をきちんと捉えていました。彼と話したのは、史実はどうだったかということだけ。しかし時にハリウッド映画とは、現実よりも素早く銃を引き抜いたり、ガールフレンドが実際よりも美人に描かれたりするもの。それが映画ってものでしょう?現実よりも美しく見せるんです。

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あのスピーチも美しかった。マイケルとの契約にこぎつけるまでには、実際には3ヶ月半の、5回の面談を要しました。会社の中で私だけが、マイケルや、彼の両親をはじめとするジョーダン家の関係者たちに会っていきました。フィル・ナイトも、ロブ・ストラッサーも、ピーター・ムーアも、最後のオレゴンでの面談まで、マイケルと夫人には一度も会っていないのです。

私が「マイケル・ジョーダンと契約した男」として描かれたこの映画の物語は真実です。アレックス君は、事実を描くように務めてくれた。そのため、マイケルは劇中には登場しません(編注:姿は見せるが、顔は映らない)。なぜなら監督のベン・アフレックは、この映画がマイケル・ジョーダンの、“ジャンプマン”の作品として見られることを望まなかったからです。だからマイケルをミステリーにしたんです。

──ベン・アフレックには創作の自由の全権が委ねられていた。

そうです。実際の自分よりも劇中のキャラクターの方が良く見えることについても、私は否定しませんでした。私がビックリしたのは、スピーチの中で実際の試合の映像を使っていたこと。あれは私が現地で見た試合です。実は、あの時私も実際にあの様に感じていたのです。素晴らしかった。あの映像に合わせてマットが話していましたが、実によくできていた。全て私の心で起こったことの描写でしたが、素晴らしい形で映像化してくれました。


このインタビューの続きは、後篇でお届けする。ソニー氏が、マイケル・ジョーダンとの後日談や、自身のキャリア最高の出来事を語る。

映画『AIR/エア』は絶賛公開中。

後篇はこちら

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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