【取材】エア ジョーダン生みの親、単独インタビュー ─ 映画『AIR/エア』主人公ソニー本人が語る秘話【後篇】

主演・製作マット・デイモン、監督・製作ベン・アフレックの“ハリウッド最強コンビ”で贈る映画『AIR/エア』が絶賛公開中だ。ナイキの伝説的バスケットシューズ「エア ジョーダン」誕生秘話がドラマチックに描かれる本作で主人公となるのは、弱小バスケットボール部門の立て直しを命じられた男、ソニー・ヴァッカロ。後に“神”となるマイケル・ジョーダンにいち早く目をつけ、史上最もハイリスクな交渉で奇跡の契約にまでこぎつける。映画では、マット・デイモンが情熱たっぷりに演じた。
THE RIVERでは、そのソニー・ヴァッカロご本人に単独ロングインタビュー。御年84歳のヴァッカロは1977年にナイキに加わり、映画『AIR/エア』で描かれるマイケル・ジョーダン契約を実現。その後はアディダス、リーボックでも重要な役割を果たした。スポーツ・マーケティング界で最も影響力のある人物のひとりとされる。
国内ではTHE RIVERだけで実現した極めて貴重なインタビューの後篇をお届けする。
映画『AIR/エア』主人公 ソニー・ヴァッカロ本人
単独インタビュー 後篇
──マイケル・ジョーダンとはもう連絡をとっていないのですか?
我々は敵同士というわけではありませんが、会っていません。住んでいる世界が違ってしまっているからです。彼がナイキを離れた時、私と妻とマイケルとで世界旅行に出かけました。1991年に湾岸戦争があり、92年にバルセロナオリンピックがあった頃、妻と私とハワード・ホワイトとマイケルとで、ヨーロッパ旅行に行きました。プライベート機でスペイン、パリ、ドイツを訪れ、サタデー・ナイト・ライブに出演し、彼の邸宅にも滞在しました。
ですので、個人的な友人ではありますが、私がナイキを解雇されてから、敵対関係になってしまった。私がナイキの競合相手のアディダスで仕事をしていたからです。ナイキが欲したコービー・ブライアントは私が契約を取ったし、逆に我々が欲しがったレブロン・ジェームズはナイキが契約した。競合相手ではありましたが、だからと言って仲が悪くなったわけではありませんよ。

──本作について、マイケル・ジョーダンはじめ、ナイキ時代の関係者に電話やメールなどでやりとりしたこともないのですか?
特に話していません。ピーター・ムーアも、ロブ・ストラッサーも死んでしまった。もう長いことフィル・ナイトとも話していないし、マイケルとも久しく会っていない。特にここ数年はコロナ禍で会いに行けるわけでもなかった。この映画のことも、1年前になって初めて知ったくらいですから。
でも、仲が悪いわけではありません。誰が誰を嫌っているかという話はここではどうでも良くて、ただ単に年月が流れ、それぞれの人生にいろいろな変化が生じたということです。私の考えることややることと、彼らの考えることややることは違う。不仲みたいな話はありませんので。
──あなたの物語が、今映画化されたのは何故だと思いますか?どういうところが興味深いとみなされたと思いますか?
マイケル・ジョーダンと契約したのはいったい誰なのか?ナイキの逆転劇はいかにして実現したのか?という世界最大のミステリーが明かされるからだと思います。当時の私は主役の様な男ではなく、ナイキではただの下っ端でした。私は学生選手に靴を広めるだけの仕事をしていた。劇中の私はビーバートンに住んでいるようでしたが、実際には住んでいませんでした。6~7年、派遣社員として働いていたんです。終業後は今の妻パメラの待つ家に飛んで帰っていました。ですから、事実と異なるところも一部あります。
劇中で描かれたことは真実ですけどね。実際にナイキ社内では、50万ドルの予算を誰に使うかと話されていました。ロブ・ストラッサーとフィル・ナイトは、あの子(マイケル・ジョーダン)に全て使おうという私の判断を支持しました。その当時の私はマイケルと直接知り合いではありませんでしたが、彼が18歳の時のあのショットは現地で見ていた。
この話の面白いところは、あの子が大きくなって、偉大なバスケ選手になっただけではなく、マーケティングの世界もを変えてしまったところです。それまでは、あんな大金を手にしたアスリートはいませんでしたし、企業の一部になったアスリートもいませんでした。彼そのものがあのシューズの一部となり、それで巨万の富を築いたのです。前代未聞のことだと思います。
世の中には、見せかけの物語や、フィクションの物語もありますが、現実の物語もあるのです。それが、マイケルとの契約の物語です。純粋なる偶然が起こした物語です。彼らは私に聞きたいことを聞き、そして私の答えを聞いてくれた。そのために私は、フィル・ナイトやロブ、ピーターと共にこの人生を送れたことを、死ぬまで感謝し続けます。
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