『エイリアン:コヴェナント』公開で振り返る!「『エイリアン』最高傑作は1か2か論争」について

人気シリーズの宿命「昔のほうが…」

謎の電波を受信した宇宙船、コヴェナント号。入植者2,000人を乗せた船は急遽、進路を変えて未知の惑星に降り立つ。そこで彼らは、恐怖の生命体と遭遇する──。

『エイリアン:コヴェナント』2017)は『エイリアン』シリーズ最新作にして、オリジナル『エイリアン』(1979)との類似点をもっとも感じさせる内容に仕上がっている。オリジナルとシリーズ前作『プロメテウス』(2012)を手がけたリドリー・スコットがメガホンをとり、『プロメテウス』とセットでエイリアン誕生の秘密を解説してくれてもいる。

『コヴェナント』が新旧映画ファンを納得させられる一本なのは疑問の余地がない。2014年に他界したオリジナルのデザイン担当、ハンス・ルドルフ・ギーガーの意志を受け継ぐかのような退廃的なビジュアルは観客の目を釘付けにするだろう。そして「神と人類」「創造と禁忌」といった哲学的なテーマもSF好きにはたまらないはずだ。

エイリアン:コヴェナント

c 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

それでも、残念ながら「やっぱり昔のほうがよかったねー」というリアクションが大量に返ってくるのを、制作サイドは受け入れなければなるまい。『エイリアン』シリーズとはそれほどまでに世界中で愛され、新作を撮るたびに期待値のハードルが爆上がりせざるをえない映画である。『マッドマックス』シリーズにおける『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)級の飛びぬけたクオリティがなければ、新作が絶賛されるのは難しいだろう。

そして、ファンの中ですら結論がついていない問題がある。『エイリアン』と『エイリアン2』(1986)、どちらがより傑作なのかという論争は完全に泥沼化しているのだ。

大幅な方向転換がヒットにつながった『エイリアン2』

『エイリアン2』より (C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『エイリアン2』より
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

以前書いた記事『「ヒット作の続編なのに傑作」4つの絶対条件 ─ 『ターミネーター2 3D』公開に寄せて』でもお伝えしたが、欧米圏で「続編の傑作」といえば『エイリアン2』は代表格である。あくまで個人的な記憶ではあるものの、民放の洋画劇場でもオリジナルより『エイリアン2』が放送されてきた回数のほうが多い…気がする。監督は『ターミネーター』のヒットにより、当時オタク系クリエイターの一番手になりつつあったジェームズ・キャメロン。言うまでもないがその後、『タイタニック』(1997)『アバター』(2009)の歴史的ヒットで神格化される男である。?

キャメロンは『ターミネーター』の方法論を『エイリアン2』に持ち込んだ。つまり、エイリアンを「最強の敵」と設定し、登場人物と肉体的に、頭脳的にバトルするSFアクションとして再構築したのだ。もちろん、大作に便乗してオタク趣味に走るのも忘れていない。クライマックス、エイリアンとの死闘に登場するパワーローダーにはロボットアニメからの影響が色濃い。

しかし、『エイリアン2』が今もなお圧倒的な支持を集めているのは、物語の核に「親子愛」という観客が共感しやすいテーマを据えたからだろう。キャメロンは本作のヒロインに前作の生き残り、リプリー(シガニー・ウィーヴァー)を選んだ。前作では特に個性的なキャラクターではなかったリプリーだったが、本作では娘を失った悲しみに暮れる母親、という設定を与えられている。そして、擬似親子関係として幼い少女、ニュートをエイリアンの攻撃から守り抜くのである。キャメロンは『ターミネーター2』(1991)でも擬似家族というテーマを踏まえて続編映画を監督している。おそらく、前作以上のヒットとなった『エイリアン2』での成功体験があったからだろう。ここ日本でも『エイリアン2』を「泣ける映画」の代名詞に挙げる観客は多い。傑作映画の続編というプレッシャーに負けず、作家性を貫きながら成功を収めた『エイリアン2』は理想的な第2作だったといえる。?

『エイリアン2』を認めないオリジナルのファン心理

今日までほぼ絶賛されてきた『エイリアン2』だが、受け入れない観客達もいる。筆者は数年前にオランダ出身で日本のVシネマ研究をしている方とお話させていただいたことがある。好きな続編映画という話題になり、酒の席ではあるが、彼は『エイリアン2』についてかなり辛辣な評価を下していた。オリジナルへの愛着として天井を指差し、『2』への評価としてまっすぐ床を指差したのである。

『エイリアン2』はオリジナルからあまりにも作風をシフトしすぎた。興行的には大成功だったキャメロンの判断も、オリジナルを愛するファンからすれば余計な仕業でしかない。リアルタイムで作品を追っていた人々の心境を黒沢清監督(『散歩する侵略者』『岸辺の旅』など)はこと細かく説明してくれる。自著『黒沢清、21世紀の映画を語る』(2010/boid)にて、まず黒沢は『エイリアン』の特徴を述べる。本作ではエイリアンに睨まれた登場人物は特に抵抗もしない。しかし、黒沢にはその演出が美点と映る。

そこでエイリアンは悠々と口を開いて悠々とこの人間を餌食にする。このゆっくりと口を開いていく間が怖いわけです。これこそがホラーの演出です。

(P.16-17 私の映画論)

エイリアン

『エイリアン』より
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

?黒沢は『エイリアン』を優れたホラー映画だと定義している。本書を読めば黒沢からトビー・フーパーやデヴィッド・クローネンバーグなどのホラー映画監督への愛情が伝わってくる。自身もホラー映画に区分される作品を大量に発表している黒沢からすると、『エイリアン』の演出は「これこそが」と呼べるほどに卓越して見えるのだろう。だからこそ、『エイリアン2』を見たときの失望は大きい。

とにかく派手なアクションの連続で、エイリアンがゆっくりと口を開いていく間を怖がっている暇なんかないという感じでした。(中略)一作目の『エイリアン』があれほど繊細に作り上げてきたホラーの演出をここまでぶち壊すのかと怒りがこみ上げてきたのを覚えています。

(P.17 私の映画論)

恐怖の演出は間が命である。『エイリアン』を今見返すと、驚くほどにテンポは遅く、ワンカットが長い。だがそれは、「何が起こるか分からない」緊張感を演出するためのテクニックである。『エイリアン2』の間を埋めていく編集は、前作のテンポになじんだ者からすれば違和感がある。クラシックコンサートに来たらパンクバンドが演奏を始めたような心境か。もちろん、クラシックもパンクも貶めているのではなく、裏切られた観客が少なからずいただろうという話だ。

終わらない議論は双方傑作の証

しかし、ホラー映画からアクション映画への転換が『エイリアン2』を成功に導いたのも事実である。時代はジェリー・ブラッカイマーやジョエル・シルバーなどの敏腕プロデューサーが台頭し始め、アクション映画の全盛期を迎えようとしていた。『エイリアン2』の翌年には『リーサル・ウェポン』(1987)が、翌々年には『ダイ・ハード』(1988)が控えていたのである。また、ビデオの普及にともない、観客も遅いテンポの娯楽映画をじっくりと眺める集中力を失いつつあった。

何より、『エイリアン』公開から『エイリアン2』公開までの間には7年もの月日が流れていた。スタッフを再結集し、世界観を維持するのは難しくなっていただろう。そして、オリジナルをリアルタイムで知る世代への需要も薄れていた。大胆な方向転換はある意味必然だったのだ。

その後、『エイリアン』シリーズは監督が変わるたびに作風を変えながら存続していった。しかし、最初の2作を越える評価はついに得られなかった。この事実は、『エイリアン2』がいかに的確に時代をつかんでいたかの証明にもなるだろう。

『エイリアン2』より (C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『エイリアン2』より
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

リアルタイムで見なければ分からない映画の価値はある。しかし、時を経て見直すからこそ気づく価値もある。『エイリアン』と『エイリアン2』の比較はこれからも終わることなき議論の的になるだろう。それは両者が作風の違いこそあれ、歴史的傑作である証である。だからこそ、双方のファンは一歩も譲れないのだ。だが、議論をエスカレートしすぎたときには、一度だけ思い出してほしい。『エイリアン』シリーズに関して、この世にもっとも多い意見は「どっちも大好き!」だということを。?

え?僕ですか?ウィノナ・ライダーがかわいい『エイリアン4』(1997)こそ至高っす!

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20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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