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日本を代表するCGアニメ監督、荒牧伸志が観た『アリータ:バトル・エンジェル』の凄まじさ ─ 「もはやどうなっているのか分からない」

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

紛れもなく映画史を変えた『タイタニック』(1997)『アバター』(2009)のジェームス・キャメロンが、長年の情熱をついに実写化した『アリータ:バトル・エンジェル』が本日(2019年7月31日)よりデジタル配信開始、2019年9月11日よりブルーレイ&DVDリリースとなる。

木城ゆきとによる日本の伝説的SFコミック『銃夢』を壮大なる構想にて映像化したこの超大作は、デジタル映画におけるゲームチェンジャー的な作品だ。主人公の若きサイボーグ、アリータを全編パフォーマンスキャプチャーによるCGで表現したことが大きな特徴で、生身の役者と共演させても違和感のない描写は、文字通り「目を見開く」ものがある。


日本のCGアニメ界で最前線を走る存在は、果たして『アリータ』をどう見ていたのか? THE RIVERでは、『APPLESEED』(2004)や『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK- 』(2013)、Netflix「ULTRAMAN」(2019)など数々の作品で知られる荒牧伸志氏に話を聞いた。

荒牧氏が率いるSOLA DIGITAL ARTS社からは今後、『ブレードランナー』新作アニメの『Black Lotus』や、シリーズ初のフルCGアニメである「攻殻機動隊 SAC-2045」も控えている。SFやCGアニメ界において、世界的に見てもトップランナーである荒牧氏が、「大好きな映画」だという『アリータ:バトル・エンジェル』をついに語る。

アリータ バトルエンジェル 荒牧伸志さん特別インタビュー-1
SOLA DEGITAL ARTSの荒牧伸志氏。

ジェームズ・キャメロンという存在

── 荒牧さんとは、以前別の作品で取材させて頂いた以来ですね。聞いた所によると、なんとジェームズ・キャメロンとお知り合いなのだとか……?

はい、キャメロン(敬称略)とは何度か会ってますね。『キャプテンハーロック』の時に、一緒にやってるジョセフ・チョウ(SOLA DIGITAL ARTSのCEO)が前職の縁でキャメロンに繋がって。『キャプテンハーロック』が出来たての時にキャメロンに観てもらったんですよ。その時は僕はいなかったんですけど、3D版が完成した機会にLAに持って行って、観てもらった時からの縁です。それ以来、何か作品を作る度に観てもらえる様になって。

一度、マリブの家にも行ったことがあります。お子さん2人と一緒に(製作した作品を)観てくれて。今は『アバター』続編制作で忙しくなったみたいですね。一度、米FOXから、僕らの方にキャメロンの近況を知らないかって、聞いてきたこともありましたよ。『アバター』の状況が掴めないからって。知るわけないのに(笑)。気軽に聞けるわけないですよね。

── 荒牧さんにとって、キャメロンとはどんな存在ですか?

純粋に1ファンですよね。『ターミネーター2』(1991)から始まって。『T2』って何度観ても、未だに飽きない。『エイリアン2』(1986)も、観るたびに新しい発見がありますね。ちょうど僕がこういう業界に入ったばかりの時に、キャメロン印の映画が立て続けに出てきて。とにかく完成度が凄いじゃないですか。しかも毎回毎回、「次回作は失敗するのでは?」って言われるのに必ず大ヒットする、っていうのを繰り返してますから。完璧主義なところとか、必ず新しいテクノロジーを入れてくるところとか、色々な新しいテーマを作品に絡めてくるところとか。マーベルは組織力が凄いと思うんですけど、個人の力であそこまでできる人は今はもういないですよ。

『Appleseed Alpha』(2014)を作った頃にキャメロンに会った時に、「最近何観た?」っていう話になって、『ゼロ・グラビティ』(2013)が面白かったって話をしたら、『ゼロ・グラビティ』はキャメロンも数年前に企画を聞かされていたようで、「その頃の技術ではまだ無理だって言って止めさせたんだよ。もう少ししたらこういう技術が出てくるから、それまで待てば必ずうまく行くってアドバイスしたんだ」って。そういうご意見番みたいになっているところもあって。面白い方ですよね。

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

── ご自身の制作面においても、キャメロンの影響は受けますか。

受けてないというと嘘になります。テクノロジーをできるだけ取り入れたいなというところも含めてね。というより、SFやアクション・アドベンチャーを撮っている監督で、キャメロンの影響を受けていない人はいないんじゃないでしょうか。それは映画だけでなく、ゲームの世界にまで広がっていると思いますよ。

『アリータ』も、最後に会った時だったかな、話が出て。「あれ、どうなってるの?本当にやるの?」って聞いたりましたね。もちろん、こんな聞き方ではないですよ(笑)。なんか絡みたいなぁって話はしていました。その後起用されたロバート・ロドリゲス監督は直接は知らないんですけど、スタジオによく出入りしている人と知り合いで、「今撮影してるから遊びにきなよ」って誘いは何度か来たんですよ。で、テキサスのトラブルメーカー(ロドリゲス監督が保有しているスタジオ)で撮影していると聞いていました。遊びに行きたかったんですけど、どうしても行けなくって。冗談だと思うんですけど、「来ればチョイ役で出れるかもよ」なんて。そんなの、いいよって(笑)。

「もはやどうなっているのか分からない」『アリータ』の凄まじい技術力

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

── 『アリータ』公開が『アバター』からちょうど10年。パフォーマンスキャプチャーも格段に進化しています。

僕もモーションキャプチャーといって、パフォーマンスキャプチャーに近いことはやっています。でも、『アリータ』メイキング映像を観ても、もはやどうやっているのか正直分からないくらいですね。実写で撮影する中で、アリータの役者さんがいて。フェイシャル(表情)を撮っているなというのは分かるんですけど。なんだろうな……、アクティブ・マーカーだと思うんですけど、いくかコードが付いたマーカーを付けて、他の役者さんたちと同じセットで撮ってる。あれで一体何が撮れるんだろうなって。周囲にキャプチャのカメラがどう設置されているのかどうか、現場に行って見たかったなって。

※荒牧氏は「モーションキャプチャー」と「パフォーマンスキャプチャー」の違いを「意識したことはない」としたが、一般的に「モーションキャプチャー」は現実の人間の動きをデジタル的に記録する技術。「パフォーマンスキャプチャー」では、身体の動きに加えて表情の変化も記録することまで意味する。

── 本編の特典映像に「段階別に観るパフォーマンスキャプチャー」というのがあって。リモコンのボタンで「撮影時」「アニメ」「完成版」の3段階を自由に見比べられるんですよ。

これは凄い……。この人もこういう状態で撮影しているんですね。もっと色々(メカニカルな衣装を)付けているのかなと思った。これこれ、ここが不思議だったんですよ。これはおそらく、生身の顔だけをそのまま撮ってるんだろうなぁ。周りにカメラもあまり見えないですね。でも、絶対見えないようにたくさんカメラを付けてるハズだと思うんだけどな……。分かんないや。マーカーも光ってないですね。

アリータ:バトル・エンジェル
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── マーカーは光っている必要がある?

モーションキャプチャーのマーカーって、カメラから赤外線を出していて、そっちの方向に必ず光るようになっているんですよ。だから丸いんです。他のアングルでは光らない可能性があるんですけど……、にしても、これは上手くいってるな……。あっ、この剣も危なくないように、途中で切ってるんだ、なるほど……。顔にトラックマークも貼り付けていますね。これを貼るのが結構大変なんですよ。(後でよく観たら、あれはトラックマーカーではなく、多分ただの黒い点ですね。)

アリータの顔のカメラをよく見ると、2つ付いていますね。通常は1つなんですよ。立体的に撮影するために、上下2つに付いているんだと思います。想像以上に手間のかかる撮影をしているんだと思いますね。完成版の映像だけ観ると、フェイシャルカメラで撮ればすぐにCGで完成するんでしょ、ってよく言われるんですけど、絶対にそんな簡単じゃないですからね(笑)。

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

── 劇中で、特にここは凄いと思った場面は?

いやぁ、もう全編凄いじゃないですか。テクノロジーがあるから出来るのではなく、ノウハウがあるから出来るんです。『T2』からの積み重ねがここまで来たんだっていう。

ひとつ選ぶなら、これは大変だったろうなという思いも込めて、モーターボールのシーン。一番楽しくて、アガりますね。原作も好きなので、どうやって映像化されるのかと楽しみにしていました。予告編を観た時に、見どころを全て詰め込んだなと思って。キャメロンもロドリゲスも原作が好きすぎていて、再現度の凄まじさはビシビシ伝わって来ましたね。

クリエイター間でも話題に

── 『アリータ』の予告編映像が公開された当時、アリータの目がデカいというのが話題になりましたよね。

攻めてきたなと思いましたね。キャメロン、ここまでやるんだって。誰か役者さんを使うんだとは思っていたので。どうするんだろうと思っていたら、意外とアリータだけでしたね。他のキャラクターもそうするのかと思いきや。2度目の予告編が出た頃には、みんな慣れてたじゃないですか。少なくとも僕は慣れていたので、これで良いんじゃないのっていう感じがしましたね。とにかくアリータを魅力的に描きたいという思いはすごく伝わってきました。

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

── アリータだけ、というのは逆に挑戦ですよね。生身の役者に半CGのキャラクターを違和感なく混ぜるというのは。

ですよね。でも、表情は役者の動きをそのまま取り込んでいますね。僕も、なぜこんなに上手くできているのか知りたいくらいです。目だけがデカいなんて、静止画で観ると不気味だと思うんですよ。プリクラみたいになっちゃう。それをここまで作り込むというのは凄いですよね。

── 公開時、クリエイターの間でも話題になりましたか?

そうですね。僕のFacebookは国内外のクリエイター関係の方が多いんですが、『アリータ』の話題が出た頃は祭り状態でしたよ。みんなでアリータの画像を見ながら、「この目どう思う?」って語り合ってましたね。

── 実際に鑑賞された後、クリエイターのみなさんはどんなリアクションでしたか?

「観とくべきだ」って、みんながお互いに勧め合ってましたね。僕も周りの人たちに相当勧めたし。「これは今観とかないとマズいんじゃないか」って。

アリータ:バトル・エンジェル
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── アリータは、ローラ・サラザールの演技をパフォーマンスキャプチャーで抽出しています。パフォーマンスキャプチャーといえば、最近では『名探偵ピカチュウ』や『猿の惑星』リブート版などがありますが、これらは人間じゃない生物を創造していますよね。今回はサイボーグですが、表情はまま人間です。CGで人間の顔を作り直すというのも珍しいですね。

日本人って、キャラクターに思い入れが凄くあるんです。例えば、僕が『キャプテンハーロック』を作った時も、どの役者さんにも似ていない漫画ベースのリアルなハーロックを作りたかったんですよ。でも、海外の人は意外と理解できないらしくって。「なんで役者の顔にしないんだ」って。僕は、せっかくCGで作るんだから、何でわざわざ役者の顔にしなくちゃいけないんだろうって思うんですけど。

海外では、最近のリアルなゲームでも、キャラクターに必ず役者を用意するんですよ。この人にしようと決めて、デジタル技術でなるべく再現しようとする。でもこの作品はそうじゃないんです。『アリータ』ってここが面白いんですよ。要するに、漫画の中のキャラクターを、自分の新しいキャラクターとして独自に作り上げたんです。こういう考え方のアメリカ人っているんだなぁって思いましたね。これが日本的なのかどうかは分からないけど、リアルなものを作るために、人間ベースにせずに自分の理想とするキャラクターにしていくという。もちろん、漫画が(ベースに)あるというのはあるんですけど、そういう思考は珍しいと思いますね。

ヴィジョン貫いたキャメロンの勇気

── 荒牧さん率いるSOLA DIGITAL ARTSでは、フル3DCGアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』も控えていますね。『攻殻機動隊』と『銃夢』の原作は同時期に登場していますし、女性のアンドロイドが主人公のSF作品という点でも共通点があります。

素子(攻殻機動隊の主人公)は見た目が人間なので、周りの人間との対比でサイボーグらしさを出すのは難しいんです。『アリータ』はテーマがハッキリしていて。完璧にアンドロイドじゃないですか。それを強調している。動きは人間っぽいけど、身体はメカだというのを強調したデザインやアニメーションになっている。表情は完全に人間なので、その対比が面白いですね。アリータは、サイボーグだけど感情は人間だというのがデザインの中に入っているのが明確です。その分、アリータというキャラクターをいかに完成させるかということに全力をあげている。でも、それだけじゃなく、大きな目にしているのが「攻めているな」と。

最初の予告編が出た当時、なんであんなに目がデカいんだという声に対して、ロバート・ロドリゲス監督が「キャメロンの絵コンテの目がデカかったからだ」というような答えをしていて。それが本当がどうかは知らないですけど(笑)、まぁ原作あってのものだという意味だと思うんですね。原作へのリスペクトを残しながら、デザインに落とし込んでいる。

アリータ:バトル・エンジェル
コンセプト・アートより。(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

かなり明確なヴィジョンがないと、こういうものは出来ないと思います。目をどれだけ大きくすべきかというテストを何度も繰り返したら、だんだん普通のサイズになってしまうというのが、普通の監督の陥るところだと思うんですよ。それを、「これでいくんだ」と貫くのは、相当ヴィジョンが強くないと出来ないと思います。(目に対する)リアクションが絶対にあるというのは、分かっているはずじゃないですか。でも、これでやるんだというのを最初に出している。

CGアニメを宣伝する時って、宣伝担当の人はCGキャラクターの「顔」をなかなか出そうとしないんですよ。出さないほうがいい、これを出すとネガティブなイメージがつく場合があるって言うんです。僕にはそういう風に言わないですけどね。宣伝は出したがらなくて、僕は自信があるから出したいっていうせめぎ合いがよくあるんですよ。やっぱり、(CGキャラクターという)違和感のあるものは見せないっていう。まぁ、それが宣伝として正しい道なのかなとは思うんですけど、『アリータ』はその真逆を行ったじゃないですか。それって自信があるからだし、強いヴィジョンがあるからですよ。それを最初の予告編でいきなり出したっていうのは、やっぱり凄いなって思いますね。

── ティーザーポスターも、アリータの顔ドアップでしたからね。

そうそう。これで売るんだっていう意思がしっかりあるじゃないですか。キャメロンの意志が貫かれているのが気持ちいいし、僕も勇気付けられましたね。

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

── CG人間の顔を作る時に一番難しいことってなんですか?

何だろうね……。多分、時代と共に変わってきていると思うんですけど。最初のうちは、とにかく動きをリアルにするのが難しかった。だんだん顔の質感が表現出来るようになってくると、今度は質感が付いたがゆえに嘘っぽく見えるという段階がありました。「不気味の谷」と呼ばれるやつです。パッと見で気にならなくても、何か変だなと思った時にCGだと知ると「あ、なるほど」って思っちゃうじゃないですか。理由は無くとも。っていうような、「本物じゃないんだ」という瞬間にカチっと見方が変わっちゃったりとか、リアルなCGですよと聞かされて見たときに、「どこか粗はないかな」と思って見ちゃう心理。僕も、人の作品を観る時は必ずそういう目で見ちゃうから、それは仕方ないと思うんですけど。CGって、ネガティブなところが無くなるように作るんですよ。つまり違和感が残るものはどんどん排除していく方向になりがちなので、ある意味攻められないんですよ。『アリータ』はその発想の逆をいっている。

── フォトリアルなのに、目が大きいという。それなのに、見ていて違和感のないバランス。

そこが攻められないと、アリータというキャラクターが弱くなっちゃう。動きはカッコいいけど、何かキャラクターとして好きになれないな、印象に残らないなということになっちゃうので。そこを魅力的あるキャラクターに落とし込んでいたので、相当なヴィジョンと自信と、そのキャラクターで語りたいストーリーがあるんですよ。

それから、人の身体のCG再現はやはり難しいです。『アリータ』では、モノや身体を掴むところ。服がくしゃっとしたりするじゃないですか。これを硬いボディでやってるのが凄いんですよ。それをアップショットでしっかりやっているところも。

特に、指ですね。指の動きって、実はものすごく複雑なんです。硬いボディに皮膚が付いた指がしなやかに動くというのは至難の業ですよ。それをアップショットでやるのが凄い。人の指(のモーションキャプチャー)に被せれば簡単でしょうと思われるかもしれないけど、絶対にああいう風にはならない。凄い違和感が出るんですよ。人の手は骨が一番入っていて、それが表皮につられて動くので、シミュレーションするのがすごく難しい。その感情表現をメカの手でやってるっていうのは衝撃でした。

アリータ:バトル・エンジェル
(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

── チョコレートを噛じるシーンも自然でしたが、さぞ難しいのでしょう。

いやぁ、あれはもう何がどうなってるのか、僕にも分からないです。食べるシーンは確かに難しい。美味しそうにやらなきゃ意味がないですから。

「最初から全開でいく」ことの凄さ

── 荒牧さんはメカニックデザイナーとしても知られています。『アリータ』のメカデザインはどう映りましたか?

むしろ、サイボーグが出てきすぎて麻痺しちゃった(笑)。凄すぎて。最初からテンションMAXで始まりますよね。もう少し地味なところから始まってもよかったのかな、とは個人的に思いますけどね。アリータの最初のボディも凄すぎて。途中でもっと凄いボディが登場するんだけど、もはやどっちが凄いのかよく分からないという(笑)。最初の綺麗なボディから、ハイテクっぽいのに取り替えられるという変化みたいなのは、相当に高度なことをやっていて。凄いけど、インフレが起きすぎてないかという心配はちょっとありました(笑)。

── 原作者の木城さんは、物語を描く際に「日常から非日常」に持っていくのではなく、はじめから非日常の物語を描くようにされているそうです。それを映像化したと。

そういう意味でも、漫画の再現度はすごかったと思いますよ。特にモーターボールのシーンはみんなサイボーグなのに、もう一段階ブーストアップしたような映像になっていて。この流れでモーターボールをやっても、もう充分でしょうと思っていたけど、やっぱりあそこのスピード感は半端ない。キャメロンも凄いけど、ロバート・ロドリゲス監督の力かなと思いました。あのままコースを飛び出して、街の中で同じことをやるっていう、アクションの繋ぎも凄かったですね。

アリータ:バトル・エンジェル
原作『銃夢』の木城ゆきと氏(左)。(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All

── 木城さんは本作について、「映像表現がうらやましい!」とコメントされていました。荒牧さんが「うらやましい!」と思ったポイントはどこですか?

言っていることと相反するかもしれませんが、最初からブレーキ踏まないで、全開でいく感じ。僕もプロジェクトをやる時は最初はそう(初めから全開でいこうと)思うんですけど、やっぱり色々な壁がある。妥協しているわけではないんですが、バランスを取っていくということに慣れているんです。これだけの予算や環境を用意されて、好きなようにやれと言われても、ここまでのことが出来るだろうかと。そういうことを始めから全てプランニングしてバランスを取っているというのが凄い。

── アニメ『ULTRAMAN』や『攻殻機動隊 SAC_2045』など、元々原作があるものをCGで作っていくのには、やはり難しい部分も多いのだろうと想像しています。

その点、『アリータ』には一切の抜きどころがない。この2時間の映画でこれだけの密度を詰め込んで、しっかり全てを表現しきるなんて。ここは大変だから諦めたんだなっていうのが見当たらないんですよ。

役者にしてもそうじゃないですか。クリストフ・ヴァルツがいきなりこういう映画に出るっていうのも凄いなと思ったんですけど、メイキングを見るとキャメロンから直々にオファーされていたという風に語られていたので、やっぱりそうなんだなっていう。それから、ベクター役のマハーシャラ・アリも『グリーンブック』(2019)の方ですよね。役者陣も素晴らしいので、あらゆる面で抜いていないなと思いましたね。

アリータ:バトル・エンジェル
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『アリータ』から、映画の未来へ

── CGアニメに「トレンド」があるとしたら、現在はどんな状況なのでしょうか。

トレンドというか、パフォーマンスキャプチャー的なことはだいぶ当たり前になっているんじゃないですか。特にこういうハリウッド映画でアクションシーンをやるとなると、所謂デジタル・ダブルがもう当たり前というか。むしろ、それが一周回って、トム・クルーズみたいな全部自分でやってますっていうのが売りになって、メイキングが予告編みたいになっちゃうみたいな。トム・クルーズは凄いですよね……。

『アリータ』も、(撮影セットの)街を作ってますけど、デジタルと実物のバランスが素晴らしい。キャメロンなりの、映像のためにこうするのがベストというのがロバート・ロドリゲスともちゃんと共有できているんだろうなと思いましたけどね。

トレンドとしては、クリストファー・ノーランがあまりデジタルを使わない、みたいなのが何年か前に盛り上がったんですけど、最終的に面白ければ、(CGと実写)どっちでもいいんじゃないの、っていう風になっていると思います。

アリータ:バトル・エンジェル
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僕もよく、今度の作品でどんな新しいテクノロジーを使ってるんですかって聞かれるんです。そんなに新しいものと思っていなくても、たとえば『ULTRAMAN』のモーションキャプチャーでこういうことをやったんですよと言うと、意外と驚いてもらえるんですよ。

やってることの7割くらいは、もう実写もCGも変わらなくなってきています。実際のカメラのシューティングがあるかないか、実際の役者さんの顔を使ってるかどうか、というのが極論、違いなんですけど。実写を使うことによって、「え、これどうやってるの?」ってなるじゃないですか。全部CGでやると、「CGでしょ?」で終わっちゃうという悔しさがあるので。まあ、それはそれでいいやと思っているんですけど。『アリータ』は、CGを多用しているというのは勿論分かっているし、僕も分かってるんですけど、それでもやっぱり「コレ、どうやってるんだろう?」って思っちゃう。実写のそういう面白さは、改めてやっぱ凄いなと思いましたね。

『キャプテン・ハーロック』では、役者の表情を全てカメラで撮るパフォーマンスキャプチャーをやってました。モーションキャプチャーは「動きを撮る」イメージがありますけど、僕たちは「演技を撮る」感じです。役者の演技だけを抽出してデジタル化する。その演技のエッセンスをCGのキャラクターに注入するというイメージです。

── 簡単そうに聞こえますが、その裏には膨大な仕事があるんですよね。

そうなんですよね。やることがとにかく多いんですよ(笑)。でも、その過程も面白がってやってますから。

例えば、元々あったアイデアを、役者さんがリアルタイムで演じてもらうことによって得られる気付きから演出を修正することもあったり。こういう立ち回りをしてもらえれば、僕らの表現したかったことが出せるんだな、と考えたりとか。その感じをフィルムにどう残そうかと考えるようになるんです。完成に近いものを、各プロセスの中でもらっていけるという印象です。これが面白いところですね。

── 『アリータ』を経て、CG表現はこれからどのような方向に向かっていくのでしょう。

どうなるんだろうなぁ……。キャメロンの気持ちになって考えてみると、もっと映画をイベントにしたいと思うんですよ。3D映画を実現させた『アバター』の次はどうなるのか。裸眼立体視とか言われていますけど、映画館に来なきゃいけないというインパクトを持たせたいと思っているはず。そのひとつが3Dですよね。

『ゼロ・グラビティ』でもそういったことを感じましたね。アトラクション映画だな、と。90分間ライドに乗って、4D環境で観たくなるような。音も素晴らしいし。たまたまアメリカにいた時に公開されたので、IMAXのデカい劇場に4日連チャンで行ったんですよ。「今日もまた観たいな」って、色々な人を誘って毎日観に行ったんですけど。そういう傾向にあるんじゃないかなと。とにかく映画館に来て観て欲しいっていう。そこに価値をどう足していくか、という事だと思いますね。もちろん、ストーリーで魅せて感動させる映画も好きでよく観るんですけど、やっぱり映画館で観るという根本の部分を刺激する映画をもっと突き詰めていくんだと思います。

── 特にストリーミングの時代ですしね。

ですね。下手すると、映画館より家のほうが良い環境になったりするので。

── 今の時代に『アリータ』が登場した意義とは。

日本人である僕らにとっては、日本の漫画原作の大作SFアクションが、キャメロンとロドリゲス監督の手によってこのクオリティで出来たという実績が一番感慨深かったですね。今の時代だから、ということでもないかもしれませんけど。手抜きせずに、全ての力を込めて『銃夢』を作ったんだ、という事に感動しました。原作の木城さんは本当に嬉しかったと思いますよ。

アリータ バトルエンジェル 荒牧伸志さん特別インタビュー-1

『アリータ:バトル・エンジェル』は、2019年9月11日(水)ブルーレイ&DVD発売(先行デジタル配信中)。映像特典は、荒牧氏も「これはすごい」と唸った「段階別に見るパフォーマンスキャプチャー」ほか、原作コミック『銃夢』がいかにして脅威の映像化を果たしたかを解き明かす「マンガからスクリーンへ」など見応え抜群。脅威の映像の裏側に迫る大満足のボリュームとなっている。

 
アリータ:バトル・エンジェル

『アリータ:バトル・エンジェル <4K ULTRA HD + 3D + 2Dブルーレイ/3枚組>』\6,990+税
『アリータ:バトル・エンジェル 2枚組ブルーレイ&DVD』\3,990+税
発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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