『キング・アーサー』予習!アーサー王の物語「伝説」「史実」それぞれから描いた作品を振り返ってみる

ローマ・ブリトン人がベイドン・ヒルの戦いでサクソン人を打ち破り50年にわたる脅威に終止符を打ったのですが、その時に総指揮を執っていた武人がいました。それがアーサー王なのではないかと考えられています。
アントワーン・フークア監督の『キング・アーサー』(2004)はアーサー王を歴史的な実在人物として描いている珍しい例です。
同作では大胆にもアーサー王=古代ローマの軍人ルキウス・アルトリウス・カストゥスとして描いています。
アーサーという名前はラテン語名のアルトリウスに由来するものであるという説もあり、ルキウス・アルトリウス・カストゥスは有力なモデルと考えられています。
実際のところルキウス・アルトリウス・カストゥスは2世紀の人物で、アーサー王伝説の成立時期からはかなり時代がズレているのですが、アーサー王伝説は口伝えに継承され、その過程で多くの変化を遂げているはずなので元々は2世紀の物語だったと考える余地はあるかもしれません。
(注釈すると、円卓の騎士トリスタンは元々「トリスタンとイゾルデ」という全く別の発祥元の伝承の人物でアーサー王伝説には後になって組み込まれた存在です。なぜ別の発祥元の伝承に出てきたトリスタンが円卓の騎士に名前を連ねたのかは私もわかりません)
フークア版の『キング・アーサー』はあくまでも歴史ものの扱いであるためファンタジックな要素はほとんど省かれています。
エクスカリバーは湖の妖精たちが異界で鍛えた聖剣ではなくアーサーが父の墓標から引き抜いたただの西洋剣で、マーリンは魔術師ではなくウォード(ブリトン人の反乱軍)を率いる賢者になっています。
映画自体はそれほど評判になりませんでしたが、アーサー王を実在の人物として扱った意欲作でアーサー王伝説の基礎知識を取り込んでから鑑賞するとなかなかに興味深い映画です。
まとめ
アーサー王伝説は、ファンタジックなロマンスであると同時に歴史上の出来事とも考察することができる歴史ものでもあります。
アーサー王が率いた円卓の騎士たちは彼ら単独のエピソードも少なからず存在し、それらも魅力的。
円卓の騎士の1人であるガウェインを主人公とした『サー・ガウェインと緑の騎士』は1300年代の後半に書かれたものと言われており、なんとアーサー王の時代から800年以上も後の作品です。
今後もアーサー王伝説を基にした物語は生み出され続けることでしょう。アーサー王伝説は1000年以上も続く息の長いコンテンツなのですから。
参考文献:井村君江『アーサー王ロマンス』(ちくま文庫、1992年)
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