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余命2ヶ月の母親と家族が紡ぎ出す愛の姿に涙あふれる『湯を沸かすほどの熱い愛』レビュー

『紙の月』で2014年の賞レースを総なめにするなど、今や日本を代表する女優となった宮沢りえが主演し、2012年の自主制作映画『チチを撮りに』がベルリン国際映画祭ほか、国内外10を超える映画祭で絶賛された新鋭・中野量太監督がオリジナル脚本を映画化し、商業映画デビューを飾ったのが『湯を沸かすほどの熱い愛』。共演はNHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で主人公の妹を演じた注目の実力派若手女優・杉咲花、オーディションで選ばれた期待の新人子役・伊東蒼。そして、彼女たちを囲むのがオダギリジョー、松坂桃李、篠原ゆき子、駿河太郎といった多彩な俳優たちだ。 銭湯“幸の湯”を営む幸野家。だが、オダギリ演じる父の一浩が1年前にふらっと出奔したため銭湯は休業状態だった。宮沢演じる母の双葉は持ち前の明るさと強さでパートをしながら、杉咲演じる娘の安澄を育てていた。ある日、双葉がパート先で突然倒れ、運び込まれた病院で精密検査を受ける。彼女に告げられたのは「ステージ4の末期ガン、余命わずか」ということだった。ショックを受けた双葉は「家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再会させる」、「気が優しすぎる娘を独り立ちさせる」、「娘をある人に会わせる」という3つの“絶対やっておきべきこと”を実行していくというのが物語の流れ。

双葉をメインに、安澄、一浩ほか、メインキャストのエピソードが丁寧に紡がれていく。難病ものとは言っても重苦しいわけではない。家族がさまざまな経験をしていくことで強い絆が生まれて来るプロセスが巧みで、笑わせどころで笑わせ、泣かせどころで泣かせるというバランスの良さも生み出している。昨今の日本映画はコミック原作やTVドラマの映画版などが数多く作られているが、オリジナル脚本で2時間5分を飽きさせずに見せ切るという類い稀な演出を見せた中野監督の手腕にも驚かされる。そして、全身全霊で演じた宮沢もさることながら、杉咲、伊東、オダギリ、松坂と、出演しているキャストのアンサンブルが実に見事で、まさに適材適所といえる好演が光る。 この映画のタイトルを象徴するようなラストシーンには賛否両論あるかもしれない。これはあくまで映画であって、現実にそんなことはありえないだろう。だが、中野監督が「本当の意味での家族とは何か」を真摯に問いかけてくる。その答えは観客の心に託されているのだ。どう感じるかはあなた次第。おそらく今後、国内の映画賞に必ずや絡んでくるであろうこの傑作を見逃す手はない。

 

Writer

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masashiobara小原 雅志

小学館のテレビ雑誌『テレパル』の映画担当を経て映画・海外ドラマライターに。小さなころから映画好き。素晴らしい映画との出会いを求めて、マスコミ試写に足しげく通い、海外ドラマ(アメリカ、韓国ほか)も主にCSやBS放送で数多くチェックしています。

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