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編集長が選ぶ!今年最もナイスな宣伝だった「THE RIVER AWARD 2017 ベスト宣伝賞」は『ジョン・ウィック:チャプター2』

2017年は、THE RIVERでも様々な洋画作品を取り上げさせて頂いた。洋画作品といえば、作品の世界観・メッセージにそぐわない「迷宣伝」が批判を呼ぶことも少なくない一方で、作品愛溢れる素晴らしい宣伝を見る機会も多いことを忘れてはならない。

そこでTHE RIVERでは、日本の洋画宣伝をポジティブに称えるべく、「THE RIVER AWARD 2017 ベスト宣伝賞」として、今年最も宣伝が素晴らしかった洋画作品を1つだけ(勝手に)選出させて頂いた。審査の基準となったのは、以下の3ポイントだ。

  1. 作品への愛がスゴい。
  2. ファンへの愛がスゴい。
  3. 2017年中、THE RIVERに情報を頂いた作品であること。

この条件を基に、宣伝の予算や規模、および公開規模や興行収入に関係なく、真摯に作品の魅力を伝えようとする姿勢を最も感じられた作品を選出するよう心がけた。熟考の末、誠に僭越ながら『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年7月7日日本公開、ポニーキャニオン)を「ベスト宣伝賞」として選ばせて頂くに至った。以下に、選出の理由を記そう。

THE RIVER AWARD 2017 ベスト宣伝賞 『ジョン・ウィック:チャプター2』

ジョン・ウィック:チャプター2
(C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

それにしてもこの宣伝、ノリノリである

『ジョン・ウィック:チャプター2』が「ベスト宣伝賞」に相応しい理由を語るにあたって、まずは「媒体と映画宣伝の関係」について簡単にご説明しよう。

一般的な映画作品では、様々なPR企業や宣伝マンが支援に入り、作品を世に広めるために媒体などにアプローチをかけてゆく。Webの場合は、世にある数多くのニュース/メディアサイトに作品を話題にしてもらうため、「プレスリリース」(またはニュースリリース)を発行するのが通例だ。例えば、「今度公開のこの映画の予告編が解禁されます」とか、「この映画の監督から特別コメントが到着しました」などがその内容となる。媒体側では、日々お寄せ頂くプレスリリースに目を通しながら(ありがたい話ながら)「これは記事にできそうだな」「これはちょっとネタとして弱いかな」と毎日取捨選択を行っていく、というわけだ。

『ジョン・ウィック:チャプター2』の場合、このプレスリリースのテンションが異様に高かった。もちろん、男気溢れるアクション映画の趣旨に合わせたい意図もあるだろうが、メリハリあるリリース紙面は他作品に比べてもよく目立つ。さらにその紹介の仕方についてもユニークで、劇中でキアヌが魅せるアクションについては「殺し屋業界の新トレンド!」、アクション・シーンを切り取った本編映像解禁ニュースの際は「ジョン・ウィックは90秒の本映像内でおよそ20名もの敵を殺しています。みんなもジョン・ウィックが何人殺したか数えてみよう!」と紹介するなど、担当者が明らかにこの作品を楽しんで宣伝しているようなパッションが文面から伝わってくるのである。

極めつけとなったのは、添付ファイル名だ。THE RIVERのようなWeb媒体に掲載する映画のポスターや場面写真などは、基本的にこういったプレスリリースに添付される形で提供された画像を使用することになっている。こうした画像ファイル名は通常、「作品名_main.jpg」「作品名_sub1.jpg」といった具合となるが当たり前なのだが、『ジョン・ウィック:チャプター2』の場合「投げ技からの打撃を決めるジョン・ウィックさん.jpg」「ジョン・ウィックに怯えるロシアン・マフィアの残党.jpg」など遊び心満点のファイルが送られてくるのだ。思わず「このネタ、紹介したい!」とユーモアに巻き込まれるような仕掛けが施されていたのである。

ジョン・ウィック:チャプター2
こちらが「投げ技からの打撃を決めるジョン・ウィックさん.jpg」(C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. (C)Niko Tavernise

シェアしたくなる特別映像の妙技

こうした勢い溢れる「ノリ」は、『ジョン・ウィック:チャプター2』とも余程相性が良かったのだろう、公式から発表される特別映像にも存分に溢れていた。劇中でスピーディーに展開される怒涛のアクション・シーンをいかにユーモアを交えて紹介できるか熟考したであろう本作宣伝では、キアヌが魅せる所作の一つ一つにわざわざ「一本背負い」「左からの一本背負い」「体を崩しての一本背負い」などと決め手名付きでリズミカルに魅せる「帰ってきた技のデパート編」や、「殺し屋の心得」として「殺し屋協会の特典を使い倒せ ※宿泊は1コイン」など劇中の設定をユーモアに(かつカッコよく)紹介する「殺し屋の心得編」など、思わずシェアしたくなる特別映像を続々と届けてくれた。

「シンフォニー・オブ・バイオレンス」と名付けられたこちらの特別映像では、まるで音ゲー感覚で敵をぶっ殺しまくるジョン・ウィックを「”完全復活”だ バカヤロウ」のテロップと共にジューシーに魅せた。

スマホ時代のアプローチ

日本の映画宣伝はスマホ世代に迎合できているか?少なくとも『ジョン・ウィック:チャプター2』が公開した縦型動画は、2017年の映画予告映像としてあるべき姿を示してくれた。

まるでコース料理を味わうように銃器を試すジョン・ウィックの危険で優雅な映像を、スマホの縦型スクリーンに最適化されたスタイリッシュな映像に変換。手のひら一杯に炸裂するアクションは、何故か普段の横型映像よりもダイナミックに感じられる。縦型動画のトレンドは2016年ごろより到来していたものだが、今後は映画の予告編や特別映像にもこうした縦型動画が根付くのかもしれない。

#キアヌさん超待ってます

勢いに溢れた『ジョン・ウィック:チャプター2』のノリは、主演のキアヌ・リーブス本人との相性も抜群だった。キアヌといえば、世界的ハリウッドスターでありながら、長年変わらないデニム&スニーカー姿での路上の「ぼっち飯」姿が話題になるなど、どこか「ツッコミ待ち」なキャラクターである。そんなキアヌから本作のプロモーションのための来日を確約させた本作宣伝は、ハッシュタグ#キアヌさん超待ってますで熱烈に歓迎。このハッシュタグを付けてツイートすると、プレミア上映会に招待されるというキャンペーンも開催された。我々媒体に対しては「前作の来日時には配給会社も知らないうちに突如として鈴鹿8耐に降臨し、スターターフラッグを務め、自身のプロデュースするバイクで鈴鹿サーキットを爆走」とアナウンスして注目を惹きつけた。キアヌ来日のニュースは独り歩きし、「またプライベートでふらっとラーメン屋に行くのでは?」など、映画情報メディア以外の場でも話題を集めた。

殺し屋セレブの1週間コーデ

今日(こんにち)、わざわざ映画の公式サイトにアクセスする理由が薄れてしまったのかもしれない。作品の最新情報ならSNSを見ておけば良いし、基本情報収集なら映画関連のスマホアプリで済ませられるからだ。更に意欲を遠ざけることに、サイトを開いた途端に自動でBGMが再生される公式サイトも未だに見られるほか、ロードに時間がかかったり、肝心の「知りたい情報」が少ないなど、ユーザビリティがおざなりにされているサイトも。しかし、『ジョン・ウィック:チャプター2』は公式サイトならではの「面白コンテンツ」を用意してくれていた。

公式サイトに掲載の「CQ JAPAN」は、言うまでもなく実在のメンズ・ファッション誌のパロディだ。「殺し屋に憧れて」「殺し屋セレブの一週間コーデ」の見出し踊る「7月号」を開くと、ジョン・ウィックの世界観が上品なファッション誌風に、のびのびと紹介されている。「殺し屋スーツ4箇条」「”殺し屋フレンド”ランキング」「殺テク」「鍛錬」といった、ユニークながら作品世界に真摯な独自の切り口による特集が満載だ。大真面目に遊ぶ、この余裕ある心意気が魅力的。公式サイトの「本気」が感じられるコンテンツだった。

嬉しいファンサービス

『ジョン・ウィック:チャプター2』公式グッズはあまり多くないが、その中でも作品を象徴する「伝説のペンシル」や「オリジナル水鉄砲」をプレゼント用に提供するなど、ファンサービスに溢れていた。またTHE RIVERへは、劇中のロシアン・マフィア、エイブラムがジョン・ウィックに殺されたメンバーに向けて送辞を贈る追悼動画も提供。その際の理由というのも「公開から少し経ったので、追悼するにはいいタイミングな気がしてきました」(編集部に届いたメール原文ママ)というものだった。

総評

振り返れば『ジョン・ウィック:チャプター2』は、あえて「ツッコミ待ち」の隙を作ることで「ファンがSNSでシェアしたくなる理由」を演出するような仕掛けを張り巡らせているようだった。こうした「若者世代のツボ」を宣伝側がどれだけ意識していたかはわからないが、少なくとも宣伝担当者らの作品に対する愛情、そしてこの作品の面白さを、面白いままにファンに伝えたいという想いは、本記事だけでも充分に感じられたのではないだろうか。

そもそも『ジョン・ウィック:チャプター2』宣伝と言えば、予告編での”I can’t help you.”のセリフを、ネットスラングのひとつ「だが断る」と翻訳する遊び心で話題を呼んでいた。「だが断る」の元ネタは「ジョジョの奇妙な冒険」。やもすれば「作品と関係ないのでは?」とも捉えかねられないが、同セリフはほとんど一般慣用句になっていた上、該当の場面は本当に「だが断る」なものだった。このように『ジョン・ウィック:チャプター2』は、あくまでも「遊び心」の範疇で、行きすぎない「ノリの良さ」を前面に出しながら、「楽しい映画宣伝」を最初から最後まで貫き通してくれていたのである。

THE RIVERは2018年も、作品の面白さや、宣伝担当の皆さんの熱い思いを一人でも多くの方に届けられるよう精進して行きたい。

宣伝はもちろん、作品本編もしっかり楽しませてくれた『ジョン・ウィック:チャプター2』は、Blu-ray&DVDが2018年1月10日に発売される。
※『ジョン・ウィック:チャプター2』配給及び宣伝担当の皆様、楽しい作品と話題をありがとうございました。差し出がましい記事、何卒ご容赦くださいませ。

TM&(C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. (C)Niko Tavernise

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THE RIVER編集部THE RIVER

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