『日本で一番悪い奴ら』このシーンの綾野剛が凄い!BEST5

映画『凶悪』で各方面から大喝采を浴びた白石和彌監督のメジャー第2作『日本で一番悪い奴ら』。

2002年に北海道で実際に起きた【稲葉事件】をモチーフにしており、
“日本警察史上、最大の不祥事”と言われる顛末を
エンタメ性たっぷりに描いたクライムムービーだ。


本作最大の見所は、なんといっても主演を務める綾野剛の熱演。
柔道チャンピオンから警官になり、どんどん堕ちていく”諸星”の姿を
長いスパンにわたって演じ切っている。

体臭まで感じるようなその演技には、
何かが乗り移っているような凄みがある。
諸星の心情を語らせないままテンポよく進めていく展開が、
彼のしぐさや表情などの細かい演技を際立たせている。

そこで、『日本で一番悪い奴ら』の中で
印象的だった綾野剛の演技を5場面あげたいと思う。
(必然的にネタバレしている部分もあるので注意)

【5位】中村獅童演じる”黒岩”との初対面

諸星が初めて摘発したのは(もちろん違法捜査)ヤクザ。
ガサ入れのやり方に抗議されたので、諸星単身で幹部に会いに行かざるを得なくなる。

ガチガチに緊張して幹部を待つ諸星だが、いざ幹部である黒岩が入ってくると精一杯力んでハッタリをかます。
結局、その度胸が功を奏して黒岩と意気投合し、黒岩は諸星にとって最初のS(スパイ)となる。

ガチガチに緊張→力んでハッタリをかますという一連の流れは軽快で笑いを誘う。
まだ初々しい諸星の若さがみなぎる瑞々しいシーンだ。

【4位】みのすけ演じる”岸谷”が訪ねてくるシーン

とんでもない失態をおかし、夕張に飛ばされた諸星。
初老となりシャブ中になっている彼は、生ける屍のようだった。
そこに、前部署の上司である岸谷が訪ねてくる。
当時のことで、脅迫されているのだと諸星に訴えに来たのだ。

諸星は、岸谷の訴えを笑い飛ばす。
「500万くらい払っちゃえばいいじゃないですか」
と簡単に言ってのける諸星は、完全にネジが外れている雰囲気だ。

シャブ中で以前のような体力もなく、それでも自分の能力を信じている諸星の哀れな姿。
岸谷の言葉を聞きながら、沸き起こる感情を笑い飛ばすことでごまかす彼の演技は、
人生に取り残されたクズそのものだったが、その心に潜む葛藤や虚無感も滲ませ、見事だった。

【3位】すすきのの”顔”になり練り歩くシーン

ヤクザなどに名刺を配りまくって自分の名を売り、あらゆる場所にSをつくることに成功した諸星は、数年後にはすっかり”すすきのの顔”になっていた。

彼が路地に現れると、次々と人が声をかけてきてご機嫌取りをしてくる、というなんでもないシーンなのだが、
それまでの初々しく生真面目な若者が、チンピラの空気を纏わせて自信を身につけている様が
その表情や歩き方、髪や肌の質感から漂い出ているようで、息をのんだ。

『日本で一番悪い奴ら』では時間がポンと経過することが多いのだが、それを最も感じさせるのは、“綾野剛が纏う空気の違い”だった。
正直、顔立ちそのものが老けていくわけではないのだが、その時点でどんな立場にいて、どんな風に生活しているのかを一瞬で直感的に感じさせてしまう”空気感”。

考えに考え抜き、観察に観察を重ねないと、身に纏うオーラまで変えることはできないだろう。
セリフでもなく、メイクでもなく、”空気感”を毛穴から滲ませることであらゆる情報を想起させてしまう綾野剛。凄すぎる。

【2位】初めて覚せい剤を打つシーン

友に裏切られ、追い詰められた諸星は出来心から”一度だけ”と覚せい剤を打ってみることにする。
それまで、シャブはやらないというポリシーだけは貫いていた諸星が、決定的に転落する重要なシーンだ。

覚せい剤を打ってから、効くまでの様子が克明に描かれるのだが、この演技は一見の価値あり。
『凶悪』のようなエグい場面が少なめの本作の中で、唯一、心底”エグい”のがこのシーンだった。

【1位】矢吹春奈演じる”由貴”との最後の対峙

警官になって最初に諸星の女となる由貴。
クラブホステスの彼女は、多忙になった諸星に放置される寂しさを覚せい剤で紛らすようになっていく。
転落しはじめた諸星が、他の女に捨てられ由貴のもとを訪れたとき、諸星はようやく気付くのだった。由貴が既にシャブ中だということに。

めちゃくちゃな行動をしながらも、シャブだけはやらないと決めていた諸星にとって、由貴が覚せい剤に侵されていたという事実はあまりに重かった。
彼女がそうなってしまった原因が自分にあるということ、
この段階になるまで気づくこともできなかったこと、
シャブに手を出すような女だと思っていなかったことからの衝撃。

それまで諸星の気持ちにフィーチャーされていなかった分、この場面における諸星の感情の迸りは、鮮やかで痛々しい。

由貴を平手打ちしながらのセックス。
映像に現れているのは暴力的な行為なのだが、
自分への怒り、由貴への怒り、由貴への愛情、
そして、急激に転落していっている状況への絶望と
すべてが噴出してしまったような、哀しいラブシーンだった。

カメラは引いた位置から撮影しているので、2人の表情は分からない。
それでも、感情のぶつかり合いが生々しく迫ってきた。
このシーンだけでも、この映画を観てよかったと思った。

『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛は”必見”

この映画の綾野剛は、本当に凄い。
生半可な気持ちで臨んでいないというのがヒシヒシと伝わってくる、命を懸けた演技が観られる。

『凶悪』ほどズーンとくる重さがない分、作品自体はアッサリしすぎという印象もあるが、綾野剛の演技を観ることができただけでも本作を鑑賞して良かったと心底思えた。

次回作にも期待したい。

『凶悪』の先のカオス 『日本で一番悪い奴ら』レビュー

About the author

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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