DC再起動を刻む『Begin+ 完全新作スーパーマンとDC大特集』、いま手元に残したい一冊【書籍レビュー】

ポップカルチャー史において、2025年とはどんな年か。
それは、DCユニバースが新たに生まれ変わった記念すべき年である。この年はやがて、『スター・ウォーズ』が誕生した1977年、ティム・バートン版『バットマン』が登場した1989年、『ダークナイト』が映画史を塗り替えた2008年と並ぶ、画期的な一年として記憶されることになるだろう。
これまで我々を数々の冒険に誘ったDCユニバースが、ジェームズ・ガンの手によって大変革を果たす。旧シリーズを大胆に終了させ、誰も観たことのない新ユニバースを始動させるのだ。その映画第一弾が、2025年7月11日日米同時公開となった完全新作『スーパーマン』。“LOOK UP” ──アメコミの原点にして世界最高のヒーローが、まっさらな空へと飛び立つ。
この画期的な歴史の節目を、確かな「かたち」としてしっかりと手元に残しておきたい。2025年を生き、映画館で『スーパーマン』を観て、新時代の幕開けを目撃した我々自身を祝福する記念碑として、本書『Begin+ 完全新作スーパーマンとDC大特集』は、きわめて価値の高い一冊となる。
よくある映画プロモーション用のムック本と侮るなかれ。実物を手にすれば、その重みにたくましさを感じ、パラパラとページをめくってみれば、ぎっしりと詰まった文量と情報に読み応えを直感できるだろう。
長年にわたってコミック文化に親しみ、読者の一歩も二歩も先を行く識者ライター陣が、『スーパーマン』とDCの世界をあらゆる角度からナビゲート。“カルチャー”とは、誰もが参加できる歴史の積み重ねだが、その文脈を理解するには案内人の存在が不可欠だ。本書は、DCユニバースの豊かな歩みをひも解きながら、新章への期待を読み手の胸に灯してくれる。
冒頭を飾るのは、完全新作『スーパーマン』の大特集。28ページを割いて、作品解説はもちろん、ジェームズ・ガン監督や主要キャスト(デイビッド・コレンスウェット、ニコラス・ホルト、レイチェル・ブロズナハン)をはじめとする、総勢16人の関係者インタビューを掲載。個性豊かなキャラクター解説も充実しており、映画鑑賞の頼もしい相棒となる一章だ。また、リチャード・ドナー版やヘンリー・カヴィル版など、これまでのスーパーマン実写作品も映画・ドラマを問わず網羅的に振り返る。
DCユニバースの全体像も、徹底的に掘り下げられている。バットマン作品はティム・バートン、クリストファー・ノーラン、マット・リーヴスといった歴代監督別に構成され、さらに『ニンジャバットマン』の水﨑淳平監督には貴重な録り下ろし独占インタビューを実施。ホアキン・フェニックス主演『ジョーカー』2部作もあらためて考察される。アローバースには見開きページが割かれ、愛すべきテレビシリーズにふたたび光を当てた。
さらには、現行シリーズの魅力も抜かりなく紹介。コリン・ファレル主演『THE PENGUIN -ザ・ペンギン-』、シーズン2が待たれる「ピースメイカー」など、DCドラマの現在地を丁寧に解説している。新旧を自在に行き来しながら、DCという巨大な物語世界の深みと面白さを再発見させてくれる。
A4変型の大判仕様は、レイアウトにも余裕があり、読み応えあるテキストや迫力の写真、わかりやすいキャラクター相関図をのびのびと楽しめる。歴史の重厚さとユーモア、そしてフレンドリーな視点が共存する本書は、まさにDCユニバースの転換期を祝う一冊だ。
『スーパーマン』を鑑賞する前に、あるいは観たあとに本書を開けば、この“世界最高のスーパーヒーロー”の魅力をさらに深く味わえるだろう。2025年には、新しいDCユニバースが始まり、そして『Begin+』があった。将来、ふとこの本を開いたとき、あの夏のワクワクが鮮やかに蘇る……そんな特別な一冊になっている。
『Begin+ 完全新作スーパーマンとDC大特集』は世界文化社より大好評発売中。A4変型/116ページ。1,980円(税込)。
Supported by 世界文化社