『ブラック・ウィドウ』悪役ドレイコフ、出番をすべて撮り直していた ─ 「無理だった、最悪だった」と俳優

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)映画『ブラック・ウィドウ』(2021)で悪役ドレイコフを演じたレイ・ウィンストンが、自身の登場シーンをすべて撮り直していたことを明かし、マーベル流の映画製作を批判した。米Varietyが報じている。
『ディパーテッド』(2006)や『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007)をはじめ、スティーブン・スピルバーグやマーティン・スコセッシ、ロバート・ゼメキスら数々の名監督と仕事をしてきたウィンストンは、サラエボ映画祭にて映画界への貢献を表彰するサラエボ・オブ・ハート名誉賞を受賞した。
登壇したウィンストンは、現在のハリウッドにおける映画製作は「チケットを売ることがすべて」になっているとして、強い違和感と不満を表明。マーベル映画をはじめとする大作映画について、「そういう作品もあっていいし、楽しい。けれども俳優にとってベストな、一番いい仕事ができる文化的な映画を作る機会が奪われている」と述べた。
ウィンストンが回想するのは、『ブラック・ウィドウ』における自らの経験だ。演じたドレイコフは、ロシアのスパイ養成機関・レッドルームで少女たちを洗脳し、支配し、暗殺者として訓練する男。「女の子たちをもてあそぶペドフィリア(小児性愛者)のような人物」と説明した。
監督のケイト・ショートランドとは、当初はとてもいい仕事ができていたという。「最高の監督と仕事をして、僕が演じたキャラクターを一緒に作り上げられました。セットでも拍手を受けることが多く、あれは長年やってきた中でも最もいい経験だったと思います」と語った。
ところが本撮影の終了後、ウィンストンは膨大な再撮影が必要となった。マーベル・スタジオはあらかじめ追加撮影を前提とした製作スタイルを採用しているが、ウィンストンはすべての登場シーンを撮り直すことになったという。撮影のあと、ストーリーのレベルで大幅な変更が決まったのだろう。
「それなら別の役者を立てるべきだと言ったんですが、契約上やらないといけなかったんです。しかし、セットに戻り、髪をきれいにセットしてもらい、スーツを着たけれど、できなかった。自分の中では、(ドレイコフ役は)終わったものだったから。“無理だ、しょうがない”と思いました。拒絶反応ですよね。」
おそらくウィンストンにとって、『ブラック・ウィドウ』の完成版に残っているのは不本意な演技ばかりなのだろう。「きちんと仕事をして、それを置いて去ったあとに、“あれはダメだった”と言われるのは最悪ですよ」。
映画界の現状について、ウィンストンは「文化的な映画を作ることがどんどん難しくなっている」という。彼の視点でいう“文化的な映画”とは、名優ゲイリー・オールドマンの初監督作『ニル・バイ・マウス』(1997)や、『関心領域』(2023)のジョナサン・グレイザーが手がけた『セクシー・ビースト』(2000)、そして「演劇を映画に持ち込んだよう」だったという『ベオウルフ』などだ。
「今はSNSをやっていないとキャスティングの候補にさえ上がらない。ファン層を求められているからです。それで映画館に人が集まり、雇用が生まれるのなら、僕もやろうと思うけれど」という。「それでも僕は、やはり文化的な映画がもっと作られてほしい。そこから良い映画は生まれると思うから」。
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Source: Variety