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マーベル、『ブラックパンサー』に破格の予算を投入していた ― 空前の野心作、社長が思惑を語る

©THE RIVER

米マーベル・スタジオが、映画『ブラックパンサー』に異例の製作費を投じていたことがわかった。米Vulture誌に対して、ケヴィン・ファイギ社長自らが明かしている。

もちろん本作はハリウッドの大作ヒーロー映画ゆえ、相応の予算が必要になることは自明であろう。しかし、アフリカを舞台として主要キャストを黒人俳優で固めているうえ、ブラックパンサーというヒーローは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に登場していたものの、この映画が初めての単独作品となる。そこに高予算を投じることは、マーベルにとって“大勝負”ではなかったのか……?

豪華すぎる製作チーム、巨額を投じる理由とは

ファイギ社長によれば、『ブラックパンサー』へ巨額の予算を投じることに迷いの余地はなかったという。

「この映画には、大々的に描くにふさわしいストーリーがありました。人々が語り合う、文化的・政治的な理由からもその価値があったんです。また(ブラックパンサーは)数十年にわたって続いてきたマーベル・ユニバースのカギを握っているんです。(映画版を)正しく作りたいと思いましたし、それに私たちにはディズニーというスタジオや、アラン・ホルン(ディズニー会長)とボブ・アイガー(ディズニーCEO)というリーダーがいました。彼らは私たちを100%支えてくれましたね。」

本作のはらんでいるテーマやストーリー、マーベル作品としての重要性、そして高予算にゴーサインを出したディズニーという後ろ盾……。あらゆる要素が重なって、ヒーロー映画の第1作としては破格の製作費が実現したというべきだろう。では実際のところ、本作にはいくら費やされているのだろうか?

「映画を観て判断してもらえることを願ってるんですが、この映画には(マーベル・シネマティック・ユニバース作品の)過去数作と同じくらい、またそれ以上の金額が費やされましたね。」

2017年に日本で公開されたマーベル・シネマティック・ユニバース作品の製作費は、『ドクター・ストレンジ』(2016年製作)が1億6,500万ドル、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』が2億ドル、『スパイダーマン:ホームカミング』が1億7,500万ドル、そして『マイティ・ソー バトルロイヤル』が1億8,000万ドルだ(すべて米Box Office Mojo調べ)。ここから推測するに、『ブラックパンサー』の製作費は1億8,000万ドル~2億ドル程度とみられる。

もっとも、それだけの金額を投じた本作には、カメラの前にも後ろにもそうそうたるメンバーが揃っている。
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)の新鋭ライアン・クーグラー監督はもちろん、撮影監督には女性として初めてアカデミー賞にノミネートされたレイチェル・モリソン、美術監督には同じくオスカー候補となった経歴を持つルース・E・カーター、そして衣裳デザインにはエミー賞候補となったハナー・ビーチラー。
さらに出演者は、主演のチャドウィック・ボーズマンをはじめ、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、マーティン・フリーマン、アンジェラ・バセット、アンディ・サーキス、そしてフォレスト・ウィテカーという実力に申し分のない顔ぶれだ。絶対に成功させる、というスタジオ側の強い意志を感じずにはいられないだろう。

しかし、それでも本作が黒人映画&ヒーローの初単独映画&政治的なアクション作品という、極めて野心的な企画であることに変わりはない。ファイギ社長は、本当にこの決断を恐れたりしなかったのだろうか……?

何が海外でヒットするとか、人々が主役で見たいのは誰だとか……そんな通説は、間違いだと証明されるまで、全部ただのノイズです。(『マイティ・ソー バトルロイヤル』の)ヴァルキリーにテッサ・トンプソンを起用したのも迷いませんでした。解説記事が出たり、速報が出たりはしますけど、それでも彼女は最高ですから。僕たちは彼女が最高だと知っていましたし、今では世界が知ってますよね。[中略]大切なのは、素晴らしい俳優にキャラクターを演じてもらうことなんです。」

またファイギ社長は、2008年『アイアンマン』からの10年を振り返りつつ、「人々はヒーローやキャラクターに自分自身を投影したいんだ、という決めつけはしません。(マーベルは)コミックで長年そんな(決めつけない)活動をしてきて、今はそれを映画でやっている。ここから続けていくだけですよ」とも語っている。
この言葉からうかがえるのは、優れたストーリーやキャラクター、作り手たちを通じて、あくまで観客の想像力にこそ訴えかけようという姿勢だろう。言うまでもなく、白人男性は白人男性にしか共感できないわけでも、アジア人はアジア人のことしか理解できないわけでもないのだ。こうしたマーベルの取り組みには、まぎれもなく「ポリティカル・コレクトネス」という言葉以上の企みと試みがある。

映画『ブラックパンサー』は2018年3月1日より全国ロードショー

Sources: http://www.vulture.com/2018/02/why-marvel-spent-more-on-the-black-panther-budget.html
http://www.boxofficemojo.com/
©THE RIVER

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。