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マーベル『ブラックパンサー』エンディングに別案あった ― 監督がラストシーンの意図を解説

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品、映画『ブラックパンサー』がついに日本でも公開された。MCUのヒーロー単独映画第1作としては史上最長の上映時間をもつ本作は、その巧みに織り上げられたストーリーテリングで、冒頭から結末まで、息つく隙なく観客を誘ってくれることだろう。

脚本・監督を務めたライアン・クーグラーは、本作の編集段階において、エンディングに別案を用意していたという。『ブラックパンサー』という映画は、なぜ「この終わり方」でなければならなかったのか。また、別のエンディングはどのようなものだったのか。本人の口から、その経緯と思考が語られている。

注意

この記事には、映画『ブラックパンサー』のネタバレが含まれています。

©MARVEL STUDIOS 写真:ゼータ イメージ

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少年との対面か、国連での演説か

ワカンダへの怒り、また復讐心や野心を抱いて、エリック・キルモンガーはワカンダに単身やってくる。目的は王位の簒奪、そして父親ウンジョブ(N’Jobu)が果たせなかった願いの成就だった。その方法こそ脅威だったが、エリックの行動は確かにワカンダに革命を起こしたのである。
戦いが終わった後、ティ・チャラ/ブラックパンサーと妹シュリは、エリックとウンジョブの生活していた(そしてウンジョブがティ・チャカによって命を奪われた)カリフォルニア州オークランドを訪れた。エリックとウンジョブの暮らしていたアパートはティ・チャラに買い取られ、ワカンダ初の支援センターが開かれることになったのだ。かつてのエリックのようにバスケットボールに興じる少年の一人は、ティ・チャラを見上げて、彼が何者なのかを尋ねるのである。

またミッドクレジットシーンでは、ティ・チャラが今後のワカンダのあり方について国連で演説を展開する。これまで長らく続いてきた政策を反省し、これからは世界中の人々を兄弟のように扱う、世界に対して支援を行うと……。
ライアン監督によれば、この国連のシーンを本編のラストに持ってくるという案が存在したという。つまり監督が検討していたのは、本編をオークランドのシーンで終えるのか、それとも国連のシーンで終えるのか、という選択肢だったのだ。

英Empire誌のポッドキャストでは、本編のエンディングについて数多のパターンが試されたことが明かされている。

「(国連のシーンが)エンディングになるかもしれませんでした。映画の終わらせ方には、本当にいろんな方法を試したんです。国連の場面を前にもってきたり、後ろにやってみたりね。オークランドのシーンの前に入っているバージョンもあったんですよ。
でも、僕たちがどんな風に映画を終えたいかだと思ったんです。そこで(冒頭と)対称になるようにしました。一番感動的なバージョンにしたわけです。“少年か国連の場にいる人々なら、どっちの方が(ティ・チャラの行動に)感動するんだろう?”と自問しました。ティ・チャラがやってくることが大きな出来事になるのは誰なのか、彼と気持ちが通じ合うのは誰なのかって。」

つまり監督は、オープニングとラストシーンをオークランドにすることで、本編の構造を対称的にするのみならず、ドラマとしてもより切実な結末を用意したわけだ。その意図について、ライアン監督はこのように説明している。

「(ラストシーンは)一人の子どもが、まるで年をとった自分のような人物がスゴいことをしているのを見て、大人ぶって“よう、元気?”って言う、そんな場面です。エモーショナルになりすぎないようにしましたね。それから国連のシーンは、その後のワカンダが、将来的にこの宇宙でどうなりうるのかがわかるようにしたくて。」

この言葉からは、本編のラストシーンが『ブラックパンサー』の物語をきちんと終わらせることに注力されたものである一方で、ミッドクレジットシーンではマーベル・シネマティック・ユニバースの“その後”に目配せされていることがわかるだろう。
ちなみにMCU全体を眺めながらいえば、ティ・チャカの演説は、秘密だったものが全世界に明かされるという意味で『アイアンマン』(2008)のラストシーンを思わせる。なお「賢者は橋を架け、愚者は壁を造る」というせりふからドナルド・トランプ米大統領の公約を想起する観客も少なくないだろうが、これは作り手たちが意図したものではなく、製作時期的にも“現実を予見した”という類のものだそうだ。

映画『ブラックパンサー』は2018年3月1日より米国の映画館にて公開中

Sources: http://collider.com/black-panther-alternate-ending/
https://screenrant.com/black-panther-mid-credits-scene-trump/
https://soundcloud.com/empiremagazine/black-panther-spoiler-special-ryan-coogler-nate-moore

http://collider.com/michael-b-jordan-interview-black-panther/
©THE RIVER

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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