【解説】『ブレードランナー 2049』ジョイのシーンに滲み出た執念 ─ 監督が意図した「動き」とは

映画『ブレードランナー 2049』は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の希望によって、事前のプロモーションでストーリーの内容がほとんど明かされていない作品だ。予告編ではその美しい映像世界の一端と主要人物の一部が登場するだけで、彼らがどんな物語を紡いでいくのかは一切わからない。

むろんプロモーションで伏せられている部分には、観客の度肝を抜くような展開や映像演出がたくさん用意されている。本記事では映画中盤のハイライトともいえる「とあるシーン」について、米Vultureより監督自身による解説をご紹介したい。

注意


この記事には、映画『ブレードランナー 2049』のネタバレが含まれています。必ず本編をご覧になった後にお読みください

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC., Columbia Pictures Industries, Inc. and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.


K&ジョイのラブシーン、その緻密な設計に迫る

ネクサス8型のレプリカントを追う、同じくレプリカント(ネクサス9型)の捜査官K(ライアン・ゴズリング)は、あることをきっかけに自身の記憶や出自について疑問を抱くようになっていく。自らの記憶は移植されたものなのか、そうでないとすればこの記憶は何を意味するのか? アイデンティティが揺らぐなか、Kには恋人のジョイ(アナ・デ・アルマス)への愛情を高ぶらせていく。しかしウォレス社のホログラムであるジョイに実体はなく、互いを愛する二人が本当の意味で近づくことはできない。
ところが物語の中盤で、ジョイは娼婦マリエッティ(マッケンジー・デイヴィス)を雇ってKのアパートメントへ赴かせる。マリエッティにジョイが“同期”することで、ジョイは肉体を持つのである。こうしてKとジョイは、マリエッティの身体を介して初めてつながることになる……。

ヴィルヌーヴ監督は、「このシーンでは初めてのことがいくつも起こっています」と説明する。

「初めて女性から触れられた男、初めて自分が実在することを感じたホログラム、初めて男性に愛情をもってキスされた娼婦。彼女はそれにどう応じていいのかわからないんです。」

しかし、こうした複雑さを複雑なままにスクリーンに映し出すことに監督は非常に苦心したようだ。このシーンについて、監督は「間違いなく映画の中で最も難しいVFXのひとつ」であり、「非常に昔ながらの技術と最先端のテクノロジーの融合」だと述べている。もっとも本編を観た人ならば、きっとその映像のインパクトをすぐに思い出すことができるだろう。

二人の女性の“シンクロしない”動き

ヴィルヌーヴ監督がこのシーンのポイントとして考えていたのは、ジョイとマリエッティの動きが完全にシンクロしないということだった。ジョイはマリエッティと同期しているものの、たとえば足取りや首の動かし方など、二人の身ぶりは必ずしも一致しないのである。こうしたズレを意図的に作り出すことで、監督はそこに単なるラブシーン以上のものを映し出そうと試みていた。

「ジョイによってマリエッティをただ覆い隠したくはなかったんです。魔法ではなく、テクノロジーの限界を感じさせたいと思いました。」

K、ジョイ、マリエッティという3人の心理をこうした趣向の中で見せるべく、ヴィルヌーヴ監督は俳優の動きをジョイ役のアルマス、マリエッティ役のデイヴィスに委ねたという。
たとえばマリエッティの表情を見せる瞬間は、あくまでデイヴィスが望むようにゴズリングとの演技を進め、アルマスはデイヴィスが見せた演技をコピーした。逆にジョイの表情が前面に出る瞬間には役割を逆転させて、アルマスによる演技をデイヴィスがコピーしたのだ。どうしても完全には一致しえない二人の俳優の演技を、あえて重ねることで「自然なズレ」を作ったというわけである。またアルマスとデイヴィスを3Dスキャンすることで、ある瞬間にはCGで作られた二人の姿も合成されているという。

ジョイとマリエッティの姿や動きが時に重なり、時にズレながらKと触れ合っていく。そんなラブシーンの製作に、なんとCGチームは実に1年以上を費やしたのだという。そこまでのこだわりを見せたシーンの演出について、監督はこう語っている。

2人の女性の存在を同時に感じながら、時にはまるで3人目の女性がいるかのようにも感じられる。そんなアイデアに夢中でしたね。」

 

また、こうして緻密に設計されたシーンの作り方は『ブレードランナー 2049』という作品全体にも通じる部分があるようだ。ヴィルヌーヴ監督は「目や手の動かし方は、その身ぶりが小さいほど、シーンがよりエロティックかつパワフルになると思うんです」と述べて、自身の演出術の一端をうかがわせる。

ちなみにかくも徹底して生み出されたKとジョイ、マリエッティによるラブシーンは、監督自身によって事前のプロモーションでは“口外禁止”とされた場面だった。ヴィルヌーヴ監督は「観客が(批評家と同じように)先入観なく映画を体験できるのが最高」だと述べて、こうしたプロモーション方法への理解を求めている
たしかに『ブレードランナー 2049』には、事前にまったく知らされなかったからこそ観客の胸によりダイレクトに響くような場面が少なからずあっただろう。映像や演出のインパクトだけが先に届いてしまえば、いざ本編を観る時に、その内奥にあるものが見えづらくなることもあるはずだ。さて、あなたはKとジョイ、マリエッティの表情や動きに、いったい何を観ただろうか?

映画『ブレードランナー 2049』は2017年10月27日より全国の映画館にて公開中

Source: http://www.vulture.com/2017/10/blade-runner-2049-threesome-sex-scene-how-did-they-make-it.html
(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC., Columbia Pictures Industries, Inc. and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

About the author

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

JOIN THE DISCUSSION

※承認されたコメントのみ掲載されます。