EU離脱でイギリス映画界に重大危機 役者や映画業界人らも反発する理由とは

2016年6月23日(現地時間)、イギリスがEUから離脱するか残留するかの是非を問う国民投票が行われた。結果は残留支持が約48%、離脱支持が約52%で、これからイギリスはEUと最低2年間の離脱交渉に入ることになる。
この結果は、映画・テレビ業界にも影響を与えるものだ。
米国インディペンデントフィルム&テレビジョン・アライアンスで会長を務めるマイケル・ライアン氏は、イギリスのEU離脱は業界に大打撃だとして、「われわれの土台を吹っ飛ばした」とすら発言している。「そこまで言う?」という感じだが、事態は相当重たいようだ。
今回は、イギリスのEU離脱がこれからの映画・テレビ業界にどんな影響を与えるかを見てみることにしよう。
業界人の抵抗むなしく
イギリスにおいて、映画・テレビなどのクリエイティブ産業は経済に大きく貢献しており、2013~2014年には1,170億ドルの経済効果を生み出した。現在、ヨーロッパはイギリスのクリエイティブ産業にとって最大の輸出市場であり、全取引の57%を占めているという。
それゆえイギリスのクリエイティブ業界には、EU離脱への反対運動を起こした者も少なくない。
たとえば、製作会社ワーキング・タイトルのティム・ビーヴァンら映画プロデューサーたちは、EUへの残留を政府に訴えた。メンバーには、バーバラ・ブロッコリ&マイケル・G・ウィルソン(『007』シリーズ)、イアン・カニング(『英国王のスピーチ』)、マシュー・ヴォーン(『キングスマン』)らが名前を連ねている。
また先月には、ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウら250人以上がEU離脱に反対する声明を発表した。声明文には、「私たちの創作の世界的成功はいとも簡単に脅かされてしまいます。小さなギャラリーから高予算のプロジェクトまで、私たちが関わったプロジェクトの多くは、国境を超えた資金調達やコラボレーションがなければ成立しなかったものです」と記されていた。
イギリス映画に重大な危機、その理由とは
①資金調達が難しくなる
これまでイギリスは、映画・テレビ・デジタルメディアに対するEUの資金提供団体から補助金を受けてきた。たとえば2007~2013年には合計約1億ユーロが支給されている。2014~2015年には、222の企業・組織(52の映画館を含む)に対する支援、およびイギリス映画84本をヨーロッパで配給するために4,000万ユーロ以上が支給されたという。2016年カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した『アイ、ダニエル・ブレイク』(ケン・ローチ監督)も、同じくEUから補助金を受けて製作されたものだ。
イギリス映画界は、EUからだけでなく、ハリウッドや国営宝くじによる経済支援も受けているという。それでもEUからの補助金が打ち切られると、資金調達は今までよりも難しくなるだろう。そうなれば、イギリス映画の製作、およびヨーロッパでの配給に大きな影響が出ることは避けられない。

http://www.huffingtonpost.co.uk/entry/ken-loach-i-daniel-blake_uk_573775eae4b01359f686f390
②国境を超えたコラボレーションに『足かせ』
EU加盟国では人・物・サービス・資源の移動が自由化されている。人は自由に出入国ができるし、国境を超えた物の移動も関税の対象にはならない。
イギリスがEUから離脱し、その他EU諸国のあいだに関税などの障壁がふたたび生じた場合、まず人の出入りがスムーズではなくなる。EU諸国からイギリス、またイギリスからEU諸国へ俳優・スタッフが移動するにはビザと労働許可証が必要になるのだ。機材や車両などの輸送も今ほど簡単ではなくなるだろう。国境を超えたコラボレーションが難しくなるのは、こうした理由のためである。
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