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【映画『ブルックリン』解説】エイリシュの心を代弁する「3原色の法則」劇中に登場する緑・赤・青に隠された意味とは?

2016年7月1日公開の映画『ブルックリン』には、劇中にある「色」が象徴的に登場する。それぞれの色に込められた意味について解説しよう。

故郷を巣立った人々に贈るエール

時は1950年代のアイルランド。エイリシュは最愛の姉や母と幸福に暮らしながらも、大きな夢を求めてアメリカへと渡る。ブルックリンの寮に下宿しながら、ホームシックに悩まされるエイリシュを救ったのは、誠実な恋人との出会いだった。しかし、思わぬ形で帰郷したエイリシュは、そこで自分の人生のもう一つの可能性を見つけてしまう。

二つの故郷を持つ人間の切なさと苦悩。『ブルックリン』が描くのは、アメリカに渡ってきた「移民」の第一世代の物語だ。そして、同時に、全ての故郷から巣立ってきた人間に贈るエールでもある。

しかし、映画とは物語だけで成立しているものではない。『ブルックリン』が優れた映画なのは、こうしたエイリシュの葛藤を台詞や説明的な描写ではなく、きっちり画面の中で表現しているからだ。ここでは、『ブルックリン』をめぐる色彩について焦点を当て、本作の優れた演出を解析したい。

『ブルックリン』作中の緑、赤、青の意味

Brooklyn 解説

エイリシュがアイルランドを旅立つときに着ているカーディガンの。アメリカに渡航する船でエイリシュをサポートしてくれる女性が着ているドレスの。そして、入国の際、エイリシュがくぐることになるドアの。この3色が『ブルックリン』とエイリシュの3原色と呼ぶことができるだろう。

緑は、アイルランドの国旗に含まれる色であり、自然に囲まれた故郷を連想させる。即ち、エイリシュの郷愁を表す色である。アメリカにやってきたエイリシュがなかなか緑のカーディガンを手放せないのは、彼女がホームシックにかかっていることの証明である。また、姉からの手紙がナレーションで読み上げられるとき、画面には美しい街路樹の緑が映し出される。エイリシュの原風景の色なのだ。

赤と青はアメリカの国旗に含まれる色である。船酔いに苦しむエイリシュを、慣れた段取りで介抱してくれる知的な女性、彼女の垢抜けた風貌に鮮やかな赤のドレスはよく似合っている。都会的で社交的なイメージとして、赤は登場する。恋人に出会い、アメリカでの生活に楽しみを見出すようになったエイリシュが纏うようになるのも赤色の服だ。

そして、青は「はじまり」を意味する色である。アメリカに到着した直後、入国検査を追えたエイリシュは青い扉をくぐるが、また映画のどこで、エイリシュが青い扉をくぐることになるか、その目で確かめていただきたい。意外にもそれは、故郷のある場所であった。

 

『ブルックリン』の随所に目をこらせば、この3原色の法則は精密に守られていることが分かってもらえるだろう。終盤、エイリシュがどんな服を着てそこに立っているか、そこでエイリシュの傍にいる人々がどんな服を着ているのか、そのメッセージに感動を覚えること必至だろう。どんな台詞よりも雄弁に、それらの色がエイリッシュの心を語ってくれるのである。

このように、優れた映画には豊かな画面がある。本作でも、その豊かさを味わってほしい。

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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