『ブレット・トレイン』「SHOGUN 将軍」真田広之、異なる日本人キャラクター像 ─ 「ケース・バイ・ケースで割り切って楽しむ」

真田広之「SHOGUN 将軍」が世界的なヒットを記録している今、同じく真田出演で話題を呼んだ2022年公開のハリウッドジャパン映画『ブレット・トレイン』を見返す。前者はリアルな日本描写に徹底的にこだわった作品で、後者は荒唐無稽なネオ日本描写を極めたような作品だ。共に日本が題材でありつつ、向いている方向は全く異なる。
「SHGOUN 将軍」で真田が演じたのは、徳川家康にインスパイアされた戦国武将、吉井虎永。厳かで、何事にも動じずに虎視眈々と策略を進める関東首領で、劇中の殺陣では国宝級の凄みをたっぷり披露する。

『ブレット・トレイン』は、人気作家の伊坂幸太郎原作(『マリアビートル』)を初めてハリウッドで実写化した企画だ。小説の登場人物はみな日本人だが、映画ではブラッド・ピットやアーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリーといった国際色豊かなキャストによって彩られたのは、元々の狙い通り。この企画をソニー・ピクチャーズに持ち込んだのは、日本の作家エージェント・制作会社CTB共同設立者の寺田悠馬と三枝亮介であり、彼らはこの作品を全面的に支持している。
真田が『ブレット・トレイン』で演じたのは、エルダー(長老)と呼ばれる剣の達人である日本人。硬派なキャラクターのように見えて、なにかと“運命”を語りたがるというお茶目な一面も見せた。オビ=ワン・ケノービとヨーダを合わせたようなキャラクターだ。

アンドリュー・小路が演じたキムラの父親という設定で、映画のオープニングから登場する。小路のキムラが(かなり頑張っているが)少々カタコトな日本語を話すのに対して、真田が侍映画から飛び出してきたような燻銀の佇まいを披露するというアンバランスさは『ブレット・トレイン』ならではだ。
インターナショナルな『ブレット・トレイン』の中で、エルダーは英語のセリフを主としながら「和」の風を吹き込む存在だ。ヤクザ、侍、日本刀と、真田が演じたエルダーは、「海外から見たクールなジャパン」を好きなだけ詰め込んだようなキャラクター。禅の精神や、哲学的な側面を持ち、物静かで神秘的な男だが、戦闘になると魂込めた日本刀さばきを炸裂させる。クライマックスでの因縁の宿敵との真剣勝負シーンは見ものだ。
『ブレット・トレイン』のエルダーは、史実や文化にどこまでも忠実に作られた「SHOGUN 将軍」吉井虎永とは真逆だが、それはそれ、これはこれで楽しむ姿勢が大切だ。

実際、真田自身も、そのことを心得ている。『ブレット・トレイン』「SHOGUN 将軍」の両方で真田本人に取材を行ったが、彼はそれぞれこう語っている。
「こういう世界・世界観を求めている映画の場合は、もう割り切ってそれを楽しむようにしてますね。そしてオーセンティックなものを目指すべき作品のときは、全力を挙げてなるべくリアルに近づける。ケース・バイ・ケースで割り切ってます」(『ブレット・トレイン』取材時)
「『ブレット・トレイン』や『ジョン・ウィック』は別世界ものと言いますか。生の現代日本を見たいというよりは、近未来に近い、想像の世界の日本を見たいというコアファンに向けて作られています。そういうことであれば、僕は甘受して、ただ役者として(現場に)行って。よほどおかしいところは直しますけれど、むしろその世界観をエンジョイする立場です。
なので、使い分けといいますか。作品によってそれもOKだし、それによってまた日本に来たいと思ってくれる人が増えればいい。でも、こういう作品(「SHOGUN 将軍」)はオーセンティックに行かせてもらうよ、と。」(「SHOGUN 将軍」取材時)

ちなみに、『ブレット・トレイン』「SHOGUN 将軍」どちらも、日本での撮影は行われていない。『ブレット・トレイン』は新型コロナウイルスの渡航制限のため日本ロケ撮影が実現できず、ロサンゼルスのセットで撮影された(真田は、LAに再現された新幹線のセットに、京都の撮影場に通っていた時の車両を思い出して「懐かしみました」と語っている)。「SHOGUN 将軍」はカナダ・バンクーバーで撮影が行われている。
ハリウッドにおける日本文化の伝道師ともなっている真田は、次作に何を選ぶだろうか。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)チャド・スタエルスキは、時代劇ゲーム「Ghost of Tsushima」の映画化企画をあたためており、すでに真田にも相談を持ちかけているという。「もし関わるとしたら、ポジションはどうなるかはわかりませんが、助言はできると思います」と、真田もやぶさかではないようだ。
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