『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ダニエル・クレイグが戻ってきた理由 ─ 「カジノ・ロワイヤルに始まったことを終わらせる」

『007』シリーズ第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で7代目ジェームズ・ボンドからの卒業を発表しているダニエル・クレイグは、当初『007 スペクター』(2015)での引退を決めていた。そんなクレイグが、考え改め『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で卒業を決心したのはなぜなのか。これにはどうやら、クレイグ版第1作『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)が重要な役割を担っているようだ。
クレイグは、2006年に公開された『カジノ・ロワイヤル』から15年間ボンドを演じ続けてきた。これは、歴代ボンド俳優の中でも最長期間となる。もっとも冒頭で記したように、クレイグは『スペクター』での幕引きを考えていた。このたび、英Total Filmの取材にて当時を振り返ったクレイグは、「身体的にもう1作やるのは限界かもしれないと思ったんです」と明かしている。「これ以上は復帰しないというのは決まっていたことでした」。
身体面での懸念を理由に引退を考えていたというクレイグだが、これには大きなきっかけがあった。『スペクター』の撮影中に負った怪我である。過激なアクションシーンを含め、自ら積極的にスタントを行っていたクレイグは、格闘シーンの撮影中に膝(ひざ)を捻挫してしまい、撮影は一時中断。クレイグ自身は手術を受けまでしている。同じくTotal Filmのインタビューに応じたプロデューサーのバーバラ・ブロッコリも『スペクター』公開後を顧みて、「あの映画の後、彼はとても疲れ切っていましたね」とクレイグの様子を語っている。「『スペクター』では私たちも試練に見舞われていて、彼も大怪我をして。とても大変でしたね。彼には時間が必要でした」。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の企画始動が伝えられ始めたのは、2016年初頭。2015年10月の『スペクター』公開から数カ月後のことだ。それほど間も無いように感じられるが、なぜ復帰を決断したのだろうか。クレイグは以下のように語っている。
「話し合いを始めた時、僕は“ここで完結させるストーリーがあるかもしれない”って感じでした。“『カジノ・ロワイヤル』に始まった何かを終わらせる何かが。ヴェスパーやスペクターと何らかの形で繋がっている何かがあると”。それが形をなしてきた時、“よし、やろう”と思ったんです。」
『カジノ・ロワイヤル』では、00エージェントに入る前のボンドの姿に始まり、仕事を辞めてでも共に過ごしたいと思える最愛の女性ヴェスパー・リンド(エヴァ・グリーン)を失うまでが描かれた。次作『007 慰めの報酬』(2008)では、ヴェスパーをめぐる一連の出来事にケリをつけたボンドだが、愛の喪失で負ったダメージは大きく、トラウマをずっと抱えていたようであった。
これを踏まえた上で、ボンドには『スペクター』で新たな出会いが訪れた。『カジノ・ロワイヤル』からボンドの敵として登場したミスター・ホワイトの娘マドレーヌ(レア・セドゥ)だ。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではマドレーヌが再登場することも分かっており、ボンドと彼女の間の関係性の続きには熱い視線が注がれているところである。
そんな本作を予告するにあたって、バーバラ・ブロッコリもやはり『カジノ・ロワイヤル』の名を挙げている。「この映画は、『カジノ・ロワイヤル』への締めくくりとしても良い作品だと思います。彼が経てきた感情の移り変わりは、前のボンドでは見られなかった場所へと到達することになるからです。とてもワクワクするものです」。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、現役を退きジャマイカの地で穏やかな生活を満喫していたボンドの元に、CIA出身の旧友フェリックス・ ライター(ジェフリー・ライト)が助けを求めにやってくるところから物語が始まるという。『カジノ・ロワイヤル』に始まったボンドの旅路がいかに終幕するのか……。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日より全国公開となる。
Source: BBC, Gamesradar