【解説】『キャプテン・マーベル』サミュエル・L・ジャクソンが25歳若返ったウラ側 ─ 「目標は観客が気にならないこと」

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『キャプテン・マーベル』では、ニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンやフィル・コールソン役のクラーク・グレッグが最新のVFX技術により若返って登場する。米The Wrapと米IndieWireは、視覚効果スーパーバイザーのクリストファー・タウンゼンド氏にインタビューを実施。サミュエルの25歳もの若返りを実現した舞台裏を伝えている。

若々しいがゆえのメリットと困難
MCUにおいて、VFXを使用して俳優の“若返り”が行われるのは本作が初めてではない。これまで『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でロバート・ダウニー・Jr.が、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)でカート・ラッセルが、『アントマン』シリーズでマイケル・ダグラスやミシェル・ファイファーらがそれぞれ“若返ってきた”のである。
だが『キャプテン・マーベル』が過去の作品と大きく異なるのは、“若返り”の技術を短い一場面ではなく、本編の大部分に施さなければならなかったこと。特にニック・フューリーは本編の3分の2に登場するため、過去作品で使用されてきたボディダブル(代役)を用いての撮影は、時間的な面でも不可能だった。
そこでマーベル・スタジオは、本作のVFXを担当したLola Visual Effectsにボディダブルを用いずに“若返り”を実現することは可能なのか実験するよう要請。その結果、ボディダブルなしでの撮影が可能となり、撮影時間を半分に短縮することができた。本作のVFXチームは、『ジュラシック・パーク』(1993)や『ダイ・ハード3』(1995)、『187』(1997)、『交渉人』(1998)、『スフィア』(1998)など、サミュエルが1990年代に出演した映画を参考にして作業を進めたそうだ。

なお今回の“若返り”においては、サミュエルが70歳という実年齢にしては非常に若く見えること、肌の状態が良かったこともプラスに働いたという。視覚効果スーパーバイザーのタウンゼンド氏は「首の皮膚を伸ばすなど、メイクアップの力も少しありました。ですが、みなさんが映画で観るサム(サミュエル)は人工皮膚を貼り付けるなどしておらず、ただほっそりさせ、張りやスムーズさを足しただけの姿です」と語っている。しかしその一方、サミュエルの若々しさがVFXチームにとってのハードルになった部分もあったという。
「単純に人からシワを取り除くと、その人を10歳から15歳ほど若く見せることができます。ですが、サムみたいにあまりシワがない人の若返りを行う場合、より生理学的な変化に基づかないといけません。筋肉組織や肌のきめ、首やあごへの重さのかかり方などが時間とともに変化していくんです。」
「目標は観客が気にならないこと」
タウンゼンド氏をはじめとするVFXチームは何年もの歳月をかけ、身体や顔の生理的な特徴を研究。一歩間違えればマネキンのような完璧人間に仕上がってしまうため、欠点をなくしきってしまうことのないよう、バランスには細心の注意を払って作業が進められたという。本作の“若返り”は、過去に比べて技術が格段に進歩したためではなく、ひとえにチームが経験を重ね、また身体や顔についての生理的特徴に関する知識を向上させたために可能となったのだとか。タウンゼンド氏は、フレームをひとつひとつを繰り返し編集し続けたチームの努力も賞賛している。
「一番難しかったのは、あるフレームからその次のフレームへの繋がりがスムーズに感じられること、顔が揺れたり動いているように見せないということでした。じっと集中し、もともとの演技をできる限り保とうと努める人物の芸術的手腕に全てがかかっていたんです。」
Lola Visual EffectsのVFXスーパーバイザーであるトレント・クロース氏も、「全編のすべてのショットにおいて、(フューリーを)サムに見せたかったんです。特に当時の年齢のサムに」と振り返っている。しかし大勢のスタッフが携わる『キャプテン・マーベル』の製作においては、それも決してたやすいことではない。
- <
- 1
- 2