【インタビュー】『ジョン・ウィック』前日譚ドラマ「ザ・コンチネンタル」は「視覚的にも強烈」、製作者が仕掛ける世界観の拡張

『ジョン・ウィック』シリーズ初の実写スピンオフドラマ「ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から」では時を遡り、1970年代ニューヨークが舞台となる。主人公は、若き頃のウィンストン。後にコンチネンタルホテル・ニューヨークの支配人となる彼が、いかにして裏社会で権力を握るようになったのか、その前日譚が描かれる。
「70年代はとても映画的です。エッジが効いていて、タフで荒々しい。当時のニューヨークは騒然としていました」。こう語るのは、『ジョン・ウィック』シリーズを手がけ、「ザ・コンチネンタル」で製作総指揮を務めたベイジル・イヴァニク。『ジョン・ウィック』の世界観をドラマに置き換える上で、街の性格をリアルに反映させることが重要だったという。
THE RIVERでは、「ウィック・ワールド」拡張の仕掛け人であるイヴァニクのオフィシャルインタビューをご紹介。前日譚ドラマ制作の意図やキャスティングの裏話などもあわせて、お楽しみいただきたい。
「ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から」製作総指揮ベイジル・イヴァニク オフィシャルインタビュー全文

── 『ジョン・ウィック』シリーズがこれほど愛される理由は何だと思いますか?
小規模なプロジェクトからスタートしたので、私たちにとってもあまり現実味がないのですが、ドラマやスピンオフ、続編などで、どのようにして「ウィック・ワールド」を作り上げていったかを振り返ってみると、何が観客にインパクトを与えているのかをよく見えてきました。何よりも、キアヌ(・リーブス)の存在です。次にスタイルや戦い方、アクション。加えて視聴者を強く惹きつけるのが、私たちが作り上げた暗殺者たちや世界観、掟。そして『ジョン・ウィック』シリーズの作品やコンテンツごとに見せる世界の広がり方です。
視聴者はだんだんにこの世界にのめり込み、そのルールやスタイル、不条理にさえ魅了されていきます。『ジョン・ウィック』のコンテンツを見れば、その並外れたクレイジーさが理解できるでしょう。私たちには何の障壁もなく、やりたいことは何でもやります。楽しくエキサイティングで、巧みでセクシーな作品にしたいだけなんです。
── 『ジョン・ウィック』シリーズ、スピンオフの「ザ・コンチネンタル」に携わってみて、いかがでしたか?
『ジョン・ウィック』シリーズがクレイジーなのは、原作を持たないことです。漫画や小説が基になっているわけでもなく、リメイクでもない。私たちが表現するのは全て、観客が初めて体験するものなんです。私たちはそれを作り上げなければならない。空中で飛行機を作るようなものですね。でも『ジョン・ウィック』映画シリーズの展開の速さに反して、最初の3作品は2週間しか進まない。ということもあって、ストーリーについてゆっくりと掘り下げる時間がありませんでした。だから、テレビ番組やスピンオフを含む他のコンテンツでは、より深く掘り下げて、観客の疑問に答えることに時間をかけたいと思っているんです。

── 番組を70年代に設定した理由は何ですか?
70年代はとても映画的です。エッジが効いていて、タフで荒々しい。当時のニューヨークは騒然としていました。犯罪があり、ベトナム戦争後の世代が入ってきて、ギャングやマフィアがはびこる開拓時代の西部でした。そのおかげで、『ジョン・ウィック』の世界で起こる騒乱を、よりリアルに演出できる街や時代に作り上げることができました。クールで異質で、面白く、ウィリアム・フリードキンの映画のようなものにも感じられることはさておき、結局のところ『ジョン・ウィック』はギャングモノですからね。
『ジョン・ウィック』の映画はすべて現実的ではありません。それと同じような哲学を70年代にも取り入れているのです。だから確かに荒削りで、雑然としているけれど、それでも絞り出された感じがする。ハイパーリアル。クールな感じがしますよね。登場人物はみんな魅力的です。髪型も衣装もスタイルも素晴らしい。それでも私たちは70年代を完璧に再現する気はありませんでした。それでいて、映画シリーズのような質感とエッジの効いた作品でもあるんです。

── 「ザ・コンチネンタル」でウィンストンというキャラクターに焦点を当てた理由は何でしょう。コリン(・ウッデル)は役にどうハマっていたかを教えてください
興味深いことに、『ジョン・ウィック』1作目でウィンストンは3日間分の撮影で終わってしまうくらいしか出てきませんでした。そのわずかな時間で皆の想像力をかき立てました。コレは、イアン(・マクシェーン)という俳優、彼の目、その強烈ぶり、役のコンビネーションがあってこそだと思います。だからまず、イアンと同じ肉体、同じエネルギー、同じカリスマ性を持ち、威嚇的でもあり、友好的でもあるような眼差しを持つ人物をどうやって見つけるかが重要でした。映画では、ウィンストンはみんなを敵に回していますからね。彼は全能です。コリンにはそれができました。だから、すぐにあの肉体美を手に入れることができましたし、ウィンストンの目の輝きや操り方を絶妙に捉えることもお手の物でした。
── シャロン役にアヨミデ・アデグンをキャスティングする際はいかがでしたか
ランス・レディックは本当に大きな役柄を遺していきました。シャロンは、映画を作っていく中で発見される昔ながらのキャラクターで、脚本上はそれほど大きな存在ではなかったのに、映画では大きな存在感を見せました。というのも、シャロンは“リアクション”することを担い、私たちは彼の目を通して物事を見ていたからです。彼は饒舌なキャラクターではありません。だから、その役を演じるために必要だったのは、存在感と威厳があり、高貴で、彼の忠誠心がどこにあるのか、真意を測りかねる不可解な人物であることでした。
そしてウィンストンとの相性も良い人でなければいけませんでした。『ジョン・ウィック』4作目(『コンセクエンス』)で明かされますが、2人はとても親しい友人だったからです。ある意味、彼はウィンストンにとってこの世で唯一の友人。2人には深い信頼と友情があるんです。

── 映画のどのような要素を「ザ・コンチネンタル」に取り入れましたか?
私たちが今回のドラマに取り入れた要素の中でも特に気に入っているのが、ユーモアです。ジョン・ウィックを大真面目に演じたらバカバカしくなってしまうでしょうけど、全員がジョークに参加しているような感じでした。俳優も製作陣もみんな、自分達がやっているのは、ただ視聴者を楽しませるためなんだと理解しています。そのエネルギーをドラマシリーズにも持ち込みました。クレイジーで暴力的なギャング映画みたいなところはあるけれど、結局は楽しいものなんです。『ジョン・ウィック』ならではの面白さです。目が輝くような。自分たちがやっていることはクレイジーだとわかっているけど、そこが重要でした。そのユーモアこそ、私たちがドラマシリーズにも取り入れたかったんです。
テレビのストーリーテリングという要素がピッタリだと思いますし、私自身とても尊重しています。映画では、観客の疑問に応えて終わり、ということが多いですが、テレビでは、観客が次のエピソードに引き続けるように進行していくんです。視聴者にはもっと見たいと思わせたいですね。もっと疑問を持ってほしいんです。第1話ですべての謎を解き明かしてしまったら、視聴者は飽きてしまうし、ワンパターンになってしまう。物語を少しずつ明かしていく事で、私たちも物語をより理解しながら進められるのです。
── コンチネンタルについて、このドラマからは視聴者が知ることは?
コンチネンタルの歴史については、映画では何も明かされていません。ホテルのルールや、ウィンストンが40年以上そこにいること、シャロンが彼の右腕であることは知られています。ホテルの構造もみんな知っています。世界中にコンチネンタルがあり、コンシェルジュやホテル支配人がいることは知られている。唯一、その歴史だけは何も明かされていませんでした。ドラマシリーズについて考え始めたとき、私たちは映画を観返して、コンチネンタルの歴史について全く触れていないことに気づいたんです。

今回のドラマシリーズで登場するホテルは、おそらく世界最悪のコンチネンタルの一つでしょうね。老朽化し、腐敗し、雑然としている。経営者のコーマックは非道徳的で執念深く、崩壊しつつあるニューヨークの魂を映し出しているような男です。私たちが知るのは、コンチネンタルの存在理由だけでなく、ウィンストン版コンチネンタルなのです。ホテル経営者としてのウィンストン、ギャングとしてのウィンストン、犯罪王としてのウィンストン、偉大な人物としてのウィンストン。彼はいかにして自分の思うままにホテルを作り上げたのか。 映画で描かれた頃にはすでに、このホテルは世界で最も偉大で強力なコンチネンタルホテルの1つになっていて、ウィンストンは主席連合の面々でさえ恐れる人物になっているんです。コンチネンタルは何百年も何千年も続いているので、ニューヨーク・コンチネンタルはおそらく200年前から存在しています。映画では、ウィンストンのコンチネンタルが世界最強のコンチネンタルになっています。
── 主席連合が「ザ・コンチネンタル」の世界にどう溶け込んでいるか教えてください。
主席連合は、暗殺者たちの裏社会の秩序を維持する、信じられないほど謎めいた集団です。何世紀もの間、長く存在しています。彼らの哲学は、ルールを定め、暴力を規律化すれば、世界秩序は均衡を保ち、健全さを保てるというもの。主席連合の大使館は世界中にあるコンチネンタルホテルです。 つまり、ホテルは平穏と安らぎの場であり、殺人者たちの憩いの場なのです。殺人鬼は通常、ルールには従わない ── 従っていれば殺人鬼にはなりませんが ── 、コンチネンタルには確固たるルールがあり、それを破れば殺されるか、追放されるかのどちらか。タイムズスクエアで200人を殺す殺し屋でも、コンチネンタルに行ってコインを渡せば誰も手を出せません。『ジョン・ウィック』の世界観を構成する重要な要素であるこのルールは、まさに主席連合から生まれたものなのです。

── 番組で紹介される各話を一言で表すと?
第1話はエモーショナル、第2話は煮えたぎるような怒り。第3話は『ジョン・ウィック』的な爆発力のある報復、復讐です。
── 「ザ・コンチネンタル」を見て、ファンが最もアツく感じるのはどこでしょうか?
「ザ・コンチネンタル」の素晴らしいところは、コンチネンタルの誕生だけでなく、ウィンストンやシャロンという愛すべきキャラクター、多くのルールなど、『ジョン・ウィック』の世界を拡張している点にあります。つまり、人々が愛するものを描写し、より深く掘り下げ、ドラマチックな背景を与えるだけでなく、私たちが今知っている世界を拡大し、実にクールなアクションとパワフルさを併せ持っているということです。
映画の質感がテレビで再現されるわけなので、視覚的にも信じられないほど強烈なものになるはずです。感情的な面では、ウィンストンという人物が単にタフな人生を歩んできただけの男ではなく、実は長い旅を経ていたことを知ることが出来るのが意義深いですね。観客は興味をそそるものを求めています。私たちは、そんな観客を楽しませたいと思っています。信じられないようなアクションを見せ、観客が愛してやまないこの世界の背景を見せていきたいんです。
ファンを熱狂させる「ザ・コンチネンタル」の要素は、ウィンストンという人物を本当に理解すること、ウィンストンが最初からイギリスから来た都会的で洗練された男だったわけではないこと、そしてシャロンが最初親友だったわけではないことを知ること。メル・ギブソンのキャラクターはクレイジーで、異常で、仰々しい。それでいて面白い。素晴らしいアクション、エネルギー、雰囲気。彼らが慣れ親しんでいる世界を拡張しながら、同時に『ジョン・ウィック』の世界にしっかりと足を踏み入れることができると思います。
「ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から」はPrime Videoで独占配信中。毎週金曜日に新エピソードが配信。
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